社会科の言葉 砂浜海岸・リアス海岸(リアス式海岸)・フィヨルド
地図を見たとき、出入りのない直線的な海岸線と出入りの激しい複雑な海岸線の2つがあることがわかります。
直線的な海岸線の代表的なものが砂浜海岸、出入りの激しい海岸線の代表的なものが日本地理ではリアス海岸(リアス式海岸)、世界地理ではフィヨルドです。
★砂浜海岸
土地が隆起し、そのために海水面が下がった海岸(離水海岸)の代表的なものが砂浜海岸です。対義語は岩石海岸で、砂浜海岸は「浜(はま)」と呼ばれます。
川のはたらき、海の波のはたらきでできた砂が海岸線をかたちづくっています。
日本地理では千葉県東部の房総半島にある九十九里浜(くじゅうくりはま)がもっとも有名な砂浜海岸です。
砂浜海岸の海は遠浅(とおあさ)であり、水深が浅いので大型船舶が岸近くに近づけません。
そのため、例えば、鹿島灘に面した砂浜海岸にある茨城県の鹿島臨海工業地域は、掘り込み式の工業港である鹿島港をつくって、そのまわりに工場を建設しました。
(日本地理で、掘り込み式の港として出題されるのは鹿島と北海道の苫小牧の2つです。)
★リアス海岸(リアス式海岸)
土地が沈降し、そのため海面が上昇した海岸(沈水海岸)の一つがリアス海岸です。
山の間に海が入り込んだ形になりますから、出たり入ったりの複雑な海岸線をもち、海は海岸から急に深くなっていきます。平坦な遠浅の「浜」に対して、「磯(いそ)」と呼ばれます。
スペイン北西部のガリシア地方に出入りの激しい入り江が多く、スペイン語で入り江のことをリアということから、ドイツの地理学者がリアス海岸の呼称を初めてもちいました。
アメリカの地理学者が、沈水海岸を、河川の浸食によって谷ができたリアス海岸と、氷河の侵食で谷ができたフィヨルドに分けて呼ぶことを提唱し、2つを区別するようになりました。
日本地理では、おもなリアス海岸として5つが有名です。
東北地方の岩手県から宮城県にかけての三陸海岸、福井県の若狭湾、三重県の志摩半島、愛媛県と大分県をはさんだ宇和海の沿岸、長崎県の北西部、以上の5つです。
リアス海岸は入り江が多く、また海岸線から水深が急に深くなっているので港に向いた地形です。
三陸海岸の沿岸には釜石、気仙沼(けせんぬま)、石巻(いしのまき)などの漁港が多く、寒流と暖流が出会う潮目(しおめ)が近いこともあって漁業が盛んです。また、湾や入り江を利用してホタテ貝やかき、わかめなどの養殖も行われています。
三重県の志摩半島は、入り江を利用して英虞(あご)湾や的矢(まとや)湾で真珠の養殖が盛んです。
若狭湾は、地盤が安定しているので、わが国で最も原子力発電所が多い土地になっています。
愛媛県の宇和海沿岸部は、山の斜面を利用したみかんの栽培が盛んです。
長崎県は大陸棚が広がる東シナ海を漁場とした漁業が盛んです。
★フィヨルド
土地が沈降し、そのため海面が上昇した海岸(沈水海岸)のうち、河川ではなくて氷河の浸食によってできた海岸の地形がフィヨルドです。
リアス海岸と構造は似ていますが、谷が氷河にけずられてできた点が異なります。
ノルウェー、アメリカ合衆国のアラスカ、南米のチリなどに存在する地形ですが、スカンジナビア半島の西側にあるノルウェーのフィヨルドが最も有名です(フィヨルドという言葉自体がノルウェー語です)。
やはり良港が多く、漁業が盛んです。
注:リアス海岸かリアス式海岸か
スペイン北西部のガリシア地方に見られる「ria」(出入りの多い湾)が有名であることから、英語やドイツ語の地理学の用語として、出入りの多い海岸地形を「リアス海岸」と呼ぶようになりました。
日本では、地理学用語として導入した際、なぜか「リアス式海岸」と言うようになり、長年、教科書でも「リアス式海岸」の語を使ってきました。
ところが、学会で徐々に「リアスの語そのものが入り江の多い地形を表す語だから、『式』の語は不要である」という意見が優勢となり、平成18年~20年にかけて、教科書はリアス式海岸からリアス海岸にあらためられています。