【二次創作】ウルトラマンネクサス外伝 Memory Police その1
この物語は、ウルトラマンネクサスという作品の中で重要な役割を果たしながら、多くを語られなかった組織「MP=メモリー・ポリス」に、そしてその中でも特に中心となっていた人物「首藤沙耶」...
の右腕である三沢広之にスポットを当てた外伝小説である。
登場人物紹介
三沢 広之(みさわ ひろゆき)....本作の主人公。ヤミ金融の取り立て人。
近藤(こんどう)...三沢の後輩。茶色のツンツン髪が特徴。三沢を慕っており、何かと彼の後ろについてまわる。
Prologue 三沢 -A.D.2004-
その日、俺は日常を失った。
新宿の空を、銀色の巨人と異形の怪物が飛び回っていた。ビルは破壊され、多くの人が犠牲になった。
『夢だろ、これ。』俺はそう思った。あってはならないのだ。自分はただ、淡々と学業をこなし、なんの疑いも無く仕事に忠実に向き合ってきただけの、ただの人間なのだ。
俺は逃げも戦いもしなかった。ただこの状況を受け入れられず、呆然と立ち尽くすだけだった。今思えば、その無関心な傍観こそが自分を殺したのかもしれない。
そうこうしているうちに戦いは終わった。巨人が悪魔を打ち倒したのだ。人々は歓喜に震え、その巨人をたたえた。特に子供達はその巨人に対する憧れからこう読んでいるらしい「ウルトラマン」と。
『ウルトラマン...かあ。』俺は無気力に呟いた。あんな幻のようなものを英雄として崇め、何より現実として受け入れることなど、「常識」に塗り込められた自分には出来なかった。
だがある時、突然に俺の日常が帰ってきた。非日常の化身のような、黒と赤の異物によって...
Episode 1 日常 -ファイナンス-
三沢広之は、借金取りであった。
世間一般で言う「ヤミ金融」に勤めていた三沢は、債務者達を追いかけ取り立てを行う足の担当で、その中でもトップの成績を収めるエリートだった。対象を冷淡に追いつめ、捕まえる。それが彼の仕事のやりかたであり、それについて一切の疑問を抱いてはいなかった。「自分はただ職務に忠実なだけ。相手の事など考える必要はない。」と。
その考え通り、今日も三沢は獲物を追い込んでいた。『さあ、おとなしく観念して払いたまえ!』。お得意の高圧的な態度で圧倒しながら、獲物を複数人で取り囲む。『か、金なら用意する!あと、あと1週間だけ待ってくれ!』三沢に追いつめられた男は、泣きながら懇願した。これまでも情に訴え、数々の約束を反故にしてきたのだろう。大変謝り慣れた様子だった。だが三沢には関係ない。三沢とって、相手の家庭や心情などどうでも良い事なのだ。ただ自分は職務をこなし、きっちりとマニュアル通りに事を運ぶ。ただそれだけだ。
『それは無理な相談だな?』三沢はさらに態度を強める。そしてさらに追い打ちをかけるように『これ以上借金を滞納すれば、金利はもっと膨れあがる。君にとっては、今返す方が楽だと思うがなあ?』仲間と共ににじり寄りながら三沢は言い放った。男は観念し、三沢に同行した。また一つ、与えられた職務を全うした。
仕事が終わると、三沢は後輩の近藤から食事に誘われた。『三沢さん、今晩食事でも行きませんか?』いつもは断る所だが、今日は特に用事などもなかったので三沢は快諾し食事に行くことにした。
近藤は、三沢を良く慕っている。常に三沢の後ろに控え、無言で三沢と共に相手を追いつめることから、仲間内では「ウシロくん」「三沢のウシロ」などと言うあだ名が付けられているほどだった。近藤はまんざらでもない様子だったが、三沢はかなり迷惑していた。何かと近藤に絡められ弄られることが多くなったからだ。今回の食事会参加も、少し自分から離れるよう話す場を作るという意味もあった。しかし、食事会にいざ行ってみると、三沢の想像とは違った事になっていた。
『おばちゃ~ん!ビールおかわり!』おいおい、もう何杯目だよと三沢は思った。これじゃあ食事会じゃなくて飲み会じゃないか。酒が入っていては言うことなど聞くはずもない。これでは行った意味がないじゃないか。
三沢は呆れかえっていた。酔っていい気になっているのか近藤はいつもよりお喋りになっており、あれやこれやと愚痴をこぼす。『聞いて下さいよ~!この前追いかけた債務者に返り討ちにあって逃げられたんすよ!その時に出来た傷が痛くて痛くて...』この話ももう3回目だ。三沢はとうとう怒り、『いい加減にしてくれよ。俺はあんたの愚痴を聞くためにここに来たんじゃない。頼むから静かに料理を食べさせてくれよ!』近藤は申し訳なさそうに言った。『分かりましたよ~!今回は俺のおごりで良いっすから!それに、先輩の愚痴も聞きますよ!ほら、飲んで飲んで!』三沢は静かに近藤の提案を断った。『遠慮しとくよ。大体車で来てるし。』近藤は残念そうな顔で、おかわりしたばかりのビールを飲み干した。『そうっすか...じゃあせめて何か悩みでも聞かせてくださいよ!力になれるか分からないっすけど!』
悩み、かあ。今まで考えたこともなかった。常に考えず、悩まず、目先のことだけをこなしてきた三沢にとって、悩みなどあるはずもなかった。しかしあまり近藤の提案を否定し続けるのもあれなので、一つ聞いてみることにした。
『悩みとは違うんだが、一つ質問してもいいか?なんで近藤は、いっつも俺と一緒にいるんだ?』それを聞いた近藤は頭をかき照れくさそうに言った。『三沢さんって、なんか他の人と違うんですよ。常に自分が正しいと信じてるっていうか、迷いがないっていうか。だから俺、三沢さんの後ろにいれば絶対に道を誤らないんじゃないかって。そんな気がするんです。』三沢は驚いた。まさかこいつの中で俺がこんなに神格化されてるとは思いもしなかった。三沢は苦笑いしながら『おいおい、俺は正義の主人公じゃないんだぞ。そんな常に正しいなんて...』近藤は三沢の言葉を遮りこう言った。『いや、正義のヒーローとか主人公とかでは無いんですよ。スゴく薄いというか、光も闇も無いから安定して道を進んでいるというか...上手くは言えないっすけど、なんか良くも悪くも空気なんですよ!』褒められているんだか貶されているんだか良く分からない。三沢は微妙な気持ちのまま愛想笑いと適当な感謝を近藤に返した。だが、近藤はとても嬉しそうだった。
そんなやりとりをしているうちに、かれこれ3時間が過ぎた。三沢は時計を見ながら『俺、明日早いから帰らなきゃ。じゃあな近藤。』と軽く挨拶を済ませ、名残惜しそうにこちらを見る近藤を尻目に店を出た。
愛車のプリウスに乗り、人気の少ない山道とトンネルを通る。少し暗くて不気味だが空いていて静かに早く帰る事ができる三沢愛用の帰宅ルートだ。だが今日は少し違った。トンネルの向こうからズシンズシンと何かが歩くような音が聞こえる。だかあまり気にも留めず「なんだか騒々しいな」程度に思いながら三沢はトンネルを抜けた。
その時だった。再び三沢が日常を失ったのは。
橙色の毒ガエルのような怪獣が、待っていたかのように三沢を見つめていた。『夢だろ、これ。』三沢は呟いた。
To be continued
次回 Episode2 転換 -スカウト-
登場怪獣
プロローグ
ビースト・ザ・ワン(ULTRAMANより)
第1話
フログロス(ネクサス第18話より)