梨本うい『クソみたいなJ-POP』曲の主人公が好き、という話。
※今回は歌詞解釈というより趣味です。歌詞解釈も趣味なのですが、今回はいつも以上に私の個人的な趣味が反映されています。
ハープです。
突然ですが、私は曲を聴いていて、この曲の主人公が好き、と思うことがあります。曲の主人公というのは、この場合『僕』とか『私』とか『俺』などのことです。例えば、
悲しい気持ちにはさせやしない/初音ミクとIA http://nico.ms/sm28884321?cp_webto=share_others_androidapp
この曲の『俺』のかっこいいことを言おうとしつつの空回り感、ダサさ、そこから感じ取れる「ダサくてもいいんだよ」というメッセージ(馬鹿にしてるわけではありませんよ)が無性に好きです。報われてくれ〜! という思いで聴いています。
他にも、
【初音ミク】hanauta【オリジナル】 http://nico.ms/sm28285692?cp_webto=share_others_androidapp
この曲の『私』もすごく好きです。かわいい。利き手の方向を揃えてたいほど『君』が好きなところ、かわいい。
このように曲の主人公が好きになることがあって、不思議なのは「ミクさんが好き」とか「ヘルニアさんが、ピノキオピーさんが好き」ではなくて「曲の主人公が好き」になるところです。でも『気まぐれメルシィ』は「ミクさんが好き」になるので、そのへんの基準が自分でも分かりません。
そのような感じで、今回は個人的に主人公が好きな曲の中から、一曲紹介します。
【初音ミク】クソみたいなJ-POP【オリジナル曲】 http://nico.ms/sm28446746?cp_webto=share_others_androidapp
最初にタイトルを見た時、どういう歌だろう? と思いました。でも、サムネイル的に明らかに梨本ういさんの曲だったので、なにかあるなと思い、少し迷ったあと再生しました。
ベベベン、という音が気持ちよく、ミクさんのボーカルはかすれていて格好良く、コーラスは可愛く、それだけでも十分魅力的な曲なのですが、私はこの曲の主人公のキャラの良さに感動しました。
この曲の主人公は、所謂ツンデレだと思います。変わっているのは、相手が人ではなくJ-POPだということです。
この人は男の人だと思いますし、歌詞で「バイトの帰り道」「終電乗り遅れ」「ネカフェにもいけません」と言っているので、20歳以上だと考えられます。だから本当は失礼かもしれませんが、私はこの主人公かわいいなと思いました。
この曲の主人公は、バイトの帰りに終電に乗り遅れ、残金あとわずかなのでネカフェ(ネットカフェ)にも行けず、「とりあえずは缶コーヒーの一つでも買いましょかと」近くのコンビニに入っていきます。個人的にここが「買おうかと」などではなく「買いましょか」なのがとても好きなのですが、それは置いておいて、そこで聴こえてきたのは「よくある流行曲」=クソみたいなJ-POPなのです。
ここまで、バイト、電車、お金がない、ネットカフェ、缶コーヒーなど、身近なモチーフが続いており、主人公の生活がリアリティを持って想像できます。そして店(コンビニ)に入ると流行曲が聴こえてくるという状況は、多くの人にとって日常的だと思います。
普通に考えて、「クソ」というのは褒め言葉ではありません。どちらかというとあまりいい意味の言葉ではないでしょう。主人公もいい意味では使っていません。
「クソみたいなJ-POPが身に染みちゃって発狂中」
「ラブという絶対正義にゃ百戦連敗もういいぜ ウソみたいなハッピーエンド ヘドが出るったらヘドが出る」
「ラブという絶対正義」は、ラブソングが多いということを主人公が皮肉っているのだと思います。「ウソみたいなハッピーエンド」も同じように、ハッピーエンドの曲が多いことを「みんな似たような曲ばっかりだ、どうせお前ら(世間)はこんな曲が好きなんだろ」というように鼻で笑っているのです。
ここだけ見れば、ただの皮肉屋のようにも見えます(実際皮肉屋でもあるのですが)。
ツンデレなのは、「身に染みちゃって発狂中」のところです。
コンビニで何度も聴けば、最初は好きではなくてもある程度その曲を覚えるということがあります。これはその状態で、所謂脳内BGMになっているのだと思います。
そして、歌詞は「でもやさぐれたいこんな夜にはちょうど良いのかもですね」と続きます。この時点で私は思いました、それ、好きじゃん、と。そして自分でやさぐれたいっていうところ、とても好きです。
さらに、二番からツンデレ度がアップしていきます。
「名も知らない歌手の名も知らない曲の 陳腐なメロディーが頭から離れない 悔しいんだけれど気づけば口ずさむ 川沿い歩きながら一人で口ずさむ」
陳腐なメロディーと言いながら、気づけば口ぐさむところ、それを悔しいと感じるところ、歌手名も曲名も調べればわかるのにおそらく意地を張って調べないところ、川沿い歩きながら深夜に歌っていたら、一歩間違えると不気味だけどギリギリそうならないところ、全てがツンデレでかわいいです。
「そうこうするうち知らない街へと私完全迷子です
どっちが東かあっちが西かと 夜空を見上げた夜空を見上げた 綺麗なお月様」
歌っているうちに迷子とか、それ、好きじゃん(二度目)。かわいい。しかも「綺麗なお月様」って、アイラブユーですね、もう答え言っちゃってますよ、かわいい。
それでもう一度サビで「でも満月のこんな夜には そういうのもありですね」月二度目! 好きじゃん(三度目)。
「あれから幾年の月日が流れ落ち ふと忘れた頃に 今でも思い出す ありきたりな言葉 重ねたメロディーが 大人になった 私の心に響いてく あぁ響いてく もう嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌 嫌よ嫌よも 好きのうち」
ここでいきなり時間がとびます。この嫌よ嫌よも好きのうちという歌詞も、使い方が絶妙なのですが、ここではどちらかというと、「ふと忘れた頃に 今でも思い出す」という歌詞が良いです。最初はあるあるだと思って聴き流していたのですが、この主人公は数年前コンビニに入ってこの曲を耳にしたわけで、何年も経ち、もうこの曲をコンビニでは流してはいないということです。だから「忘れた」のですから。
多分、この曲は流行曲であり、定着しなかったのだと思います。なので「月日が流れ『落ち』」、喪失感が強調されています。
ようやくその頃、主人公は大人になり、この曲が好きだということ、ラブという絶対正義は自分の中にもあるのだということを認められるようになります。そのことをこの曲の作者も、誰も知りません。主人公しか知りません。でも、主人公が思い出すことができたということに、私は救いを感じます(散々ツンデレ言っておいてあれですが……)。
ではなぜ思い出せたのか。この曲の最後の歌詞にヒントがあります。
「でも満月のこんな夜にはそういうのもありですね あぁ やさぐれたいこんな夜には 歌いたくもなりますね」
満月を見て、思い出したのです。数年前に終電に乗れなかったこと、コンビニに行ったこと、そこで聴いた曲のことを思い出したのです。その時に満月を見たことを思い出したのです。
つまり、この曲の一番、二番は回想です。
満月=月が綺麗ですね=アイラブユー。愛によって思い出したのです。「ラブという絶対正義はいつまで経ってもまぁいいぜ」なのです。
一人で盛りあがって恥ずかしいことも書いてしまいましたが、この曲の主人公の魅力が少しでも伝わりましたら幸いです。梨本ういさん、この曲を作ってくださってありがとうございます。そして、このnoteを読んでくださった皆様が、『クソみたいなJ-POP』を聴いてくださったら、既に聴いたことがある方はもっと好きになってくださったら、私としては嬉しいです。タイトル的になかなか人に勧めづらい曲でもあるので、noteを書けて嬉しかったです。ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。