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鬱転と映画ー「ぼくのエリ」

鬱転して、すごい量のアニメ、映画、漫画をみた。躁転しているときより金遣いは荒い。けど私からすると当たり前だ。躁転というのは祭みたいなもんで、たしかに出店で、どうでもいいゲームやおやつに浪費したりするけど、鬱転というのは溺死寸前に、ライフジャケットや浮き輪を注文するようなもんだから、財布のひもが緩むなんて次元じゃないのだ。こういう浪費のために普段節約してる、そう思わないとやってられない。

この 4 日で観た映画やアニメを列挙すると、アマデウス、Mr. & Mrs. スミス、プリズン・ブレイク、ジョジョの奇妙な冒険、Catch me if you can、インフェルノ、チェンソーマン、SPY×FAMILY、流星の絆、ぼくのエリ、などなど。

映像や漫画の世界に没入していると、生きる気力がゼロである、という寒々しい苦しさと向き合わないですむ。神経を突き刺すような希死念慮が来る前に、スクリーンに飛び込んでしまうのだ。

4-5 日にわたって、荒んだ鬱暮らしをしてたら、ようやく一番苦しい時期を乗り越えた気がする。少し元気も出てきた今、「ぼくのエリ」という映画について色々書きたい。

「ぼくのエリ」は 2008 年のスウェーデン映画だ。昔、スウェーデンに留学したいと思っていたときがあり、スウェーデンからきた研究者と会話が続くように(そしてあわよくば、君、うちに来なよ、なんて言ってもらえるように)、スウェーデンのことを色々調べた。ABBA も聞いたし、映画も見たし、本も読んだ。その中で見つけたのが「ぼくのエリ」である。まず、邦題はクソだ。特に副題の「200 歳の少女」の部分がクソすぎる。なぜクソなのかは、映画を見ていただくと明らかなのでここには書くまい。

しかし邦題と、日本版が物語の革新的な部分に、ポルノでもないのに要らんモザイクを入れている、というこの映画を観た人なら皆激怒している点を除いて、私はこの映画が大好きである。実際、見るのはこれが 3-4 回目だと思う。なにが好きって、壮絶に美しいところが好きである。

以下、ネタバレを含むので、映画を見る予定のある方は読まないでくださいね。


この映画には、腹の立つやつが何人か登場する。いじめの主犯少年、それにいいなりの取り巻き少年たち、主犯少年よりさらに残忍なその兄、みたいなわかりやすい悪役だけじゃなく、オスカーを孤独に追いやった大人たちだ。まず母親は、オスカーの聞こえるところで、彼氏に、オスカーの不在の日を伝えて会う約束をするような奴だ。オスカーの髪が伸び切って長過ぎるのも、ファッションではなく、この母親のオスカーへの無関心が表われている気がする。そして、オスカーが問題を起こすと、離婚した夫と、互いを詰り合う激しい喧嘩をする。オスカーがいじめを受けていることにはもちろん気づかないし、オスカーが殺人事件に関する新聞記事をスクラップして集めていることも知らない。いじめっこを殺したくて夜中ナイフを木に刺していることも知らない。

私が何より腹立つのは、父親とその友人だ。オスカーは、エリとの関係がうまくいかなかったときとか、心に不安があるとき、父親が一人で住む家に行って、父とゲームしたりおしゃべりしており、オスカーが大人と楽しく過ごす唯一の場であったわけだが、そこに、父の友人が訪ねてくる。まともなセンスがあれば「あ、今日は別居してる息子くんが来てる日なのか、僕はまた後日くるわ」と帰るべきだと思うのだが、この男、あろうことか居座って、父親もオスカーとのゲームをサッサと終わらせて酒を取り出し、タバコを吸いながら大人どうしの会話に集中してしまう。酒もタバコもまだの 12 歳オスカーは、当然締め出され、空気も同然だ。この友人の「ここは居心地がいいよな?」という無神経極まりない発言に、オスカーはうんざりした顔をするだけだが、私は「お前のせいでもう居心地悪いんじゃあああああああ」と内心絶叫せずにはいられない。

映画は、エリがいじめっこたち(いじめというより殺人未遂なのだが)を惨殺し、ふたりで電車に乗って旅に出るところで終わる。残されたオスカーの両親はどんな気持ちだろうか?夜、スポーツジムに行ったはずの息子が、凄惨な殺人現場からひとり消えたこと。殺された子どもたちはオスカーをいじめていたらしいこと。しかし殺され方を見るととてもオスカーがやったとは思えぬこと。オスカーの部屋からは残忍な殺人事件ばかり集めたスクラップが発見されること。

父親はオスカーとの最後の会話を思い出せないことに気づくだろうか。母親は、オスカーと楽しくシャカシャカ歯磨きするシーンもあったが、もう二度と、そんな息子は帰ってこない今、息子を叱りつけてばかりだった日々を悔いるだろうか。

子どもが産まれてから、以前なら気にも留めなかった親たちの心情が気になるようになった。

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