この世から抹消するニャー!!!!
先日、会社の昼休みに1人で某ファミリーレストランへ行った。
高校生だった頃は稀に利用していたのだが、高校を卒業してからは全く行かなくなっていた。
しかし、会社から程近い場所に店舗があり、日替わりランチがお得であることに気が付いたので、実に5年ぶりに足を運んでみることにしたのだ。
平日の14時過ぎだったため客はまばらだった。入店するや否や「お好きな席にどうぞ〜」と言われたので店内を見渡すと、キッチンの出入口にネコ型の配膳ロボットが立っていることに気が付いた。
実際にそのロボットを目の当たりにするのは初めてだったが、SNS等を通じてその存在は知っていたので特に驚きもしなかった。
2人掛けの席の奥側に腰掛け、卓上のタブレットで日替わりランチを注文した。
この日替わりランチにはスープバーが付いているので、一度席を立ってスープを取りに行き、再び席に戻る。
それから数分経ったころ、店内のスピーカーから流れるBGMとは別に、ポップな音楽が少し遠くから聞こえてきた。音が鳴っている方向に目を向けると、先ほど見たネコ型の配膳ロボットが料理を運び始めている。配膳時にはポップな音楽を体から発する仕様らしい。
「陽気だな〜」なんて思いながら観察を続けていると、そのロボットが僕の座る席に向かって進んでいることに気が付いた。どうやら僕の日替わりランチはロボットが運んできてくれるようだ。その存在を認知していたとはいえ実際に配膳してもらうのは初めてなので、ワクワクしながらロボットの到着を待った。
するとそのロボットは、僕が座っているテーブルと隣の誰も座っていないテーブルのちょうど間の位置の通路に停止し、「お料理を持ってきましたニャー」と言ったのだ。
😺<お料理を持ってきましたニャー
○ ○
█ █
○ ◎
─壁───────
図で表すならこんな位置関係だ。◎が僕の座っている位置である。
そう、ロボットが運んできた料理を取るには僕が立ち上がってロボットの傍に行かなくてはならない距離感なのだ。
ロボットのトレーから料理を取ってテーブルに置くのは自らの手で行う、というのは分かっていたが、そもそもロボットがこんな絶妙な位置で停止するというのは想定外だった。
もしかしたらもう一段階こっち側に来るかもしれない、と思って数秒間そのまま待ってみたが、やはりその場に停止したままだ。
僕は午前の業務でかなり体力を消耗しており、背中と背もたれが一体化するのではないか、というレベルで椅子に深く腰掛けていたので、わざわざ立ち上がるのがとても億劫になっていた。
しかし料理を取らなくてはどうしようもない。仕方なくゆっくりと立ち上がろうとしたその瞬間、ロボットは僕に向かって「早くお料理取ってほしいニャー」と言った。
「誰のせいだと思ってんだボケ」という言葉が喉元まで出たが、なんとか抑え、日替わりランチを手に取った。
ロボットに完全に調子を狂わされ、若干のモヤモヤを抱えながら食事をすることになった。
途中、スープをおかわりするために再度席を立つ。
ジャーからスープを掬っていると、少し遠くから再びあのポップな音楽が聞こえてきた。
あのロボットが近づいて来る。僕は臨戦体制に入った。
ネコ型の配膳ロボットは、僕の斜め後ろ、数メートルまで迫ったところでこう言った。
「ベラちゃん通るから気をつけてニャー!」
ここで初めて、このネコ型の配膳ロボットの名が「ベラちゃん」であることを知る。
そんなことはさておき、その後に続いて発せられたセリフが僕の心に引っ掛かった。
「通るから気をつけて」とはつまり、「通せ」ということである。
たしかに僕の背後には僅かなスペースしかなく、上手く人を避けながらスレスレの道を通れる程の性能が「ベラちゃん」に備わっているとは思えないので、僕が隅へと避けてベラちゃんが通るためのスペースを確保してあげる他ない。
それ自体は全く構わないのだが、言い方というものがあるだろう。
「後ろ通りますニャー、ごめんニャー」と言ってくれたら、誰だって気持ちよく避けるはずだ。
しかし「通るから気をつけてニャー」なんて、某YouTuberの「コ⚪️ドットが通るから道をあけろ」という発言と大差ないじゃないか。
お客様は神様だ、なんて言わないし思ってすらいないが、やはり多少なりとも客に対して下手に出なくてはいけない場面がある。そんな大事なことを、ベラちゃんは己の可愛さに甘えすぎた結果、すっかり忘れてしまっているのではないか。
そんなことを思うと同時に、僕は「このまま道を譲らずにいたらベラちゃんはどんな挙動をするのだろうか」「ベラちゃんに意地悪してやりたい」という衝動に駆られた。
しかし、実際に行動に移すことはしなかった。
随分と前に観た『やりすぎ都市伝説』で、関暁夫さんが「いつの日かAIやロボットが人間に対して反乱を起こす日が来るかもしれない」と言っていたのを思い出したからだ。
もし今ベラちゃんに喧嘩を売れば、その日が来たときに僕は真っ先に標的にされるだろう。
ベラちゃんは手も脚もない上にめちゃくちゃ鈍足で、一対一なら余裕で勝てそうである。
しかし、普段は隠しているだけで、実はヤバいビームを出す機能が搭載されているかもしれない。鈍足なのも普段は敢えて能力をセーブしているだけで、実は時速40kmくらいは出せるのかもしれない。
「コイツは道を譲ってくれないクズだニャー!!!!」「この世から抹消するニャー!!!!」
そう言いながら時速40kmで爆走し、ヤバいビームを放ってくるベラちゃん。
全く勝ち筋が見えない。
想像しただけで恐ろしくなった。
「ネコ型の配膳ロボットに襲われて死ぬ」なんて絶対に嫌だ。
僕は速やかに道を譲り、すれ違いざまにベラちゃんに向かって会釈をした。
こうして今のうちに恩を売っておくことによって、反乱を起こす日が来たとしても「こいつは良いヤツだから見逃してやるニャー」と言ってスルーしてくれて、僕は命拾いするかもしれない。
なんだか死亡パターンを1個減らせた気がして生を実感した。
ベラちゃんによる人類の選別は、既に始まっているんだよね。
信じるか信じないかは、あなた次第です。