最近の"鳥人間コンテスト"がつまらない 問題
"智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。"
有名な なつめ漱石 の草枕の冒頭である。論理的なだけの考えによる発言や行動だけでも、人との間に波風が立つわけであるが、Twitterなどでの煽り投稿に論理的に反論するだけでは、波風が立つものである。一方で、他人の感情を気遣うだけがいいわけでもないものである。
2023年7月初旬に、"最近の鳥人間コンテストがつまらない"という趣旨の投稿をラノベ作家がTwitterに投稿した。その後は、Twitterではよく見る流れだが、鳥人間経験者(学生やOB社会人など)が投稿に反応し、わざわざ投稿に返信して、会話というよりは半ば口論が繰り広げられていた。(投稿に関してはここでは、引用や詳細な紹介はしません)
返信までして討論することに価値や意義があるとは思わないが、一方で、よく見る意見や、煽りTweetや炎上Tweetにありがちな誤解なども含まれているので、そういった点は、他の意見を見たいと思う人に向けて、このnoteで説明を残しておこうと思った次第である。
0. 馬鹿みたいに落ちた方がおもしろい
「最近の鳥人間コンテストは、機体が飛びすぎてつまらない。」
「馬鹿みたいに落ちた方がおもしろい。」
今回の話とは別に、まずこういった意見もよく見かける。
さて、翼を授けるでお馴染みのRed BullがRed Bull Flight Dayを開催している。2023年は10月14日に8年ぶりに日本(神戸)で開催されるので、(予定が延期になったようです)ぜひこちらを盛り上げていただければと思う。過去の動画などを見ればわかるが、鳥人間コンテストよりもこちらの方がおもしろいと感じるのではないだろうか?
以上で、この意見については終わりにする。
1. 学生の大会に、プロの社会人が参入してきたからつまらない
もちろんこの意見は、勘違いだらけの意見なので、反応が盛り上がったわけである。(プロという言葉については、もっと下で触れる)
せっかくなので、鳥人間コンテストについて簡単に解説しておこう。
鳥人間コンテストが始まった頃は、今の鳥人間コンテストで目玉のプロペラ機部門はなく、今の滑空機が主であった。
第一回の優勝機の設計は"風立ちぬ"でも有名になった戦闘機の設計に携わっていた本庄季郎であった。
その後も、滑空機部門は社会人のチームが活躍し、鈴木正人、佐々木正司、福森啓太、大木祥資などといったもはやレジェンドの面々が鳥人間コンテストを盛り上げてきたわけである。つまり、滑空機部門は、初めから最近まで社会人チームが上位に入っていない年を探す方が難しいくらいの状況である。
ただ滑空機部門は空気というのは、よく聞く話で、「鳥人間ってパイロットが漕ぐやつだよね?」といった話は、鳥人間をやっているとよくいわれるとうのもあるある話である。
(このラノベ作家も同様に滑空機部門は全く記憶にないと思われる。)
さて、肝心の人力プロペラ機部門である。(今回はタイムトライアル部門などは省略する)
人力プロペラ機部門も当初は、チームエアロセプシーなどの社会人チームがしのぎを削っていた。例えばチームエアロセプシーといえば、ヤマハ発動機の社員が母体であり、理系の社会人チームといえるだろう。
ただ、2000年代に入ったあたりから、
・大阪府立大学 堺・風車の会
・日本大学理工学部航空研究会
・東京工業大学Meister
・東北大学Windnauts
・京都大学ShootingStars
といった学生チームが上位を占め、競い合う時代が訪れた。(このラノベ作家などはこの部分だけを覚えていると思われる。)
その後、2016~2017年辺りから、BIRDMAN HOUSE 伊賀(BHI)やROKKO WORKSなど再び社会人・OBチームが長距離飛行を見せるようになったわけである。(この部分を学生の大会をプロが荒らしていると表現したと思われる。)
つまり推測などで交えると、「2000年代くらいの学生が競い合っていた人力プロペラ機部門はおもしろかったが、社会人チームが出ているとつまらない」 と言いたいと解釈しようと思えばできる。
ここで整理しておきたいのは、単に懐古やバイアスによって「昔のほうが良かった」と言っているだけか、「学生が競い合っているほうがおもしろい」かである。
さて、昨年の2022年大会は、滑空機部門は社会人チームのチームあざみ野やTeam 三鷹茂原下横田が好記録を出したわけだが、滑空機部門で社会人チームが活躍するのは上で述べたように大会当初からである。
人力プロペラ機部門はというと、AIOLIAは実質的に社会人・OBチームといえるだろうが、他は学生チームであり、上位を見ても、東北大学Windnauts、大阪工業大学 人力飛行機プロジェクト、東京都立大学 鳥人間部T-MITなど学生チームが競い合った大会であった。
去年の2022年大会を高評価しているならば、「学生が競い合っているほうがおもしろい」と取れるが、そういった意見も見て取れないので、結局「昔のほうが良かった」と懐古しているだけといえるだろう。
2. 2000年代の鳥人間コンテストだけが番組的に盛り上がっていたのか?
次に、「データを見ろ」や「視聴率を見ろ」という意見もあるようなので、ここで一応触れておく。
歴代の鳥人間コンテストの視聴率を記録していないので、上の内容を参考にさせていただく。また、当時の番組構成や広告などを厳密に確認できない点にも留意していただきたい。
確かに2002年や2003年は平均視聴率が20%に近い状態であったらしいが、その後はおおむね10%前後を推移している。
2003年といえば、東北大学がエアロセプシーの記録を打ち破ったが、その後、日本大学がビッグフライトを見せ、琵琶湖大橋手前で止む無く着水、東京工業大学も日本大学に迫る記録を見せるなど、たしかに学生チームが競い合い記録を更新した年であった。
次の2004年は台風によって、人力プロペラ機部門は競技不成立になった年であるが、2005年から10年程度は人力プロペラ機 ディスタンス部門は学生チームが好記録を出し、学生チームが競い合っていた時代であるが、視聴率が18%に戻ったことはなさそうである。
結論として、「学生チームが競い合っていること」と「視聴率」に強い相関はない。
別のデータとして、Googleで確認できる2004年から今までの"鳥人間コンテスト"という検索キーワードのトレンドである。データの収集方法が切り替わっているタイミングがある点や、スマートフォンの普及率なども考慮が必要だろうが、BHIなどの社会人チームが台頭してきたことでインターネット検索が盛り上がらなくなったとまでは言い切るのは苦しい。
そもそも鳥人間コンテストの放送時期も最近は8月末~9月初め頃であるが、放送日も変遷を経ており、当然ながら他局の裏番組や広告なども異なるわけで、視聴率やその低下(視聴率が大きく低下したのは2004年辺りでありそうだが)を見ると、昔の視聴率が高く盛り上がっていたのは事実だが、視聴率の低下と社会人チームの活躍を結びつけるのは、どちらかというとデータを見ていないと結論づけていいだろう。
(※リサーチ会社やテレビ局などは、平均視聴率ではなく細かい視聴率のデータを確認しているはずなので、そういった中には社会人チームが活躍することで視聴率が下がるというデータがあるかもしれないが、さすがに私にはそこまでは確認できない)
ただ番組製作側ではない人が、これ以上データを分析することに大きな価値があるとも思えないし、データから簡単にエンタメのヒット要因を分析できるなら、詳細なデータを集められるYoutubeやブログ、ネット小説などでPV数を簡単に伸ばせるはずであろうが、そうはいかないのは言わずもがなである。
3. 鳥人間コンテストは学生やアマチュアの大会か?
まず、世の中にはNHK学生ロボコンや飛行ロボットコンテストのように学生のみを出場者とする大会もある。ここに出場する学生がアマチュアかどうかは置いておくが、社会人を参加させない規定のコンテストである。
他にも新人フリーゲームコンテストといった新人の厳密な規定はないが、新人をターゲットにしたコンテストは多く存在する。
では、鳥人間コンテストはどうか?というと自作の人力飛行機に限るという規定はあるが、それ以外はそもそもの歴史からも分かるように学生向け大会であったことはない。
実際は、自作の定義は曖昧で、骨組みとなるカーボンのスパー(桁)も、外注しているチームから、自分たちでプリプレグを加熱、成形し自作するチームもある。例えば、社会人などが、規定ギリギリの、ほとんどのパーツを過度に外注した機体で大会に参加するなら、資金力や仕事のコネなどを利用して大会を荒らしているという捉え方はできるだろう。ただ、こういったことは基本的にない。
また、当たり前だが、鳥人間コンテストにプロもアマチュアもない。そもそも、ほとんどの参加者がサークルなどで機体の製作などに参加している趣味の延長戦の大会でしかない。ちなみに優勝賞金はあるが100万円程度で、それだけで生活するなどの厳密なプロは、もちろん到底不可能である。
参加者の社会人には、航空機や工作機械などに関わっている専門職という意味でのプロフェッショナルはもちろん大会当初からいる。ただ理系の人間や、ものづくりに携わったことのある人間ならば想像がつくだろうが、単純に設計の知識や1つの工程の専門性だけで、高記録が出せるほど簡単にはいかないものである。
社会人・OBチームには、専門性など以外に学生時代の経験を活かしている人や、数年以上の長い時間をほぼ同じメンバーで活動できたり、学生のチームよりは鳥人間コンテストの参加を見送りやすい(数年単位で機体の製作や修復がしやすい)などといった強みもあるだろうが、そういったメリットがあっても大会に出場したらすぐに高記録を出せるとは限らないのが現実である。
結論として、社会人チームには社会人チーム独特の強みはあるが、鳥人間コンテストは学生向けのコンテストでもなければ、社会人が大会を荒らしているとも言い難いのが現実である。
ましてや鳥人間コンテストを小説の新人コンテストと同じようなものと扱うのは、本当に鳥人間コンテストに興味関心がない人なのだと感じる。
もしこれを読んでいる鳥人間がいたら
この記事自体、そこまで読まれるものとは思っていないが、一応記しておきたい。
まず欠如モデル的は発想はいい方法とは思えない。
欠如モデルとはサイエンスコミュニケーションなどの文脈でよく目にする言葉であるが、大衆が科学技術を信用しないのは「大衆に情報が欠如しているからだ」、もしくは「大衆の理解が足りないからだ」とする考えである。
欠如モデル的なものとしては、
・コロナウイルスワクチンを接種しないのは、ワクチンのことを知らないからだ
・マイナンバーカードが普及しないのは、国民の理解が足りないからだ
というようなものである。
同じように、鳥人間コンテストをおもしろいと感じない(つまらないと感じる)のは、鳥人間コンテストへの理解が足りないからだと考え、正しい情報を与えると(鳥人間コンテストを現地で見るなど)、相手の意見が変わるかというと必ずしもそうとはいえない。むしろ相性があわない人や興味がない人に過剰に訴えても、ただ双方が不快な思いをする可能性が高いと思われる。
例えばアニメがつまらないと思っている人に、無理やりアニメを見せて、おもしろさを訴えても、最終的に相手がアニメをおもしろいと思うかはわからないことと同じように、鳥人間コンテストがつまらないと言っている人におもしろさを訴えても、効率が悪すぎるうえに、メリットも大変薄い。
一方で、テレビ自体が時代的にもエンタメの中心から外れていっているなかで、鳥人間コンテストが今後も存続していってもらうためには、話題性や注目度を上げ、テレビ番組視聴率やYoutubeなどの視聴数などを上げていくことは課題だと思われる。
そのためにも、鳥人間コンテストがつまらないと思っている方に、逐一つっかかり正しい情報を過度に訴えるより、鳥人間コンテストがおもしろいと興味や関心をもちそうな層へアプローチしていくほうがよっぽど重要ではなかろうか?
まずは、鳥人間コンテストの開催を盛り上げ、場合によって現地で大会の成功に向けてサポートしていくことや、番組の放送や若者をターゲットにしていると思われるYoutubeなどを盛り上げていくことの方がよっぽど必要だと思われる。
いろいろ書いたが、やはりSNSなどの過激な発言は気になるものであるし、不快に感じて、反論したくなる人もいるであろう。
記事の最後は、やはりこの言葉で締めくくろうと思う。
兎角にこの世は住みにくい
※間違いや修正、ご意見などあれば、Twitterなどで意見を添えていただけると幸いです。