澁 谷
夢で遇いましょう
澁 谷
渋谷という街はまさに田舎者にとっては悪魔の街、と言わねばならない。わたしは東京に来て、もうかれこれ40年余りとなるが、全く以て、渋谷の街の構造、というのかシステムというのか、さっぱり分からない。のだ。渋谷の営業本部の二号館の方に行く。初めて来た。大型新古書店の上ではなく、その向かい側のビルディングだ。
登っていくと、スーパー・マーケットのバック・ヤードみたいなところがオフィスのようだ。タイム・カードやロッカーもある、やたらと狭い空間に休憩用のトレニアまで置いてある。なんか食べるならオフィスじゃなくて、ここで食べて下さい、と注意される。警備員までいる。営業本部だと警備員までいるのか、二号館なのに。
支社長会が開かれるようだ。問題があるとされる支社の支社長や営業所の所長がぞろぞろ入って来る。知り合いの所長に挨拶する。やあ、最近どう? どうもどうも。
自分も資料の準備をしたり、コピーをしたりする。
見知らぬ本部長が来る。しかし本部長だなと分かる。顔がテラテラと光っている。バターかマーガリンを塗りたくったようだ。あるいは歌舞伎か新劇の舞台役者のようにこってりと化粧をしているようだ。
本部長、わたしは? と問うと、
あんたは出なくていいよ、といわれる。あんたの支社は問題がないからいいよとも、あんたは所長でも支社長でもないからいいよとも、あんたは無能だからいいよとも、実はどうでもいいよともとれる。どっちなんだ。
そこは地下街の呑屋街の一郭だった。異様に明るい。店の中は満員だ。
支社のメンバーが三々五々と集まる。外の通路のどんづまりのテーブルで順番待ちをしなければならない。
わたしはすでに瓶ごと焼酎を呑んでいる。水のようだ。全く酔わない。開け放たれた窓ガラスごしに呑屋の中の様子が見える。入り口を入った左手の果てが列の末端のようだ。そこにいなきゃいけないのか。よくわからない。そこに支社長の箱根が合流する。芳川君が列の半ばにいる。
一人入って名前を書いてしばらく待つ。窓に向かってカウンターがあるがそこには帳簿やボールペンやらいろんなものが置いてある。せっかくカウンターがあるに、そこは死んでいる。
5人空いたのでみなも入って来る。外に向かって横並びになる。さっきの物置のようなカウンターだ。しかし外にもテーブルが複数あってみんな楽しそうに飲んでいる。そう言えばさっき自分たちもそのテーブルに座って中が空くのを待っていたではないか。どういうことだ? この店のシステムが全くわからない。そのことを店員にいうと、多分、中国語で何かいわれただけで、そのまま放置される。
澁 谷
夢で遇いましょう
1072字(四百字詰め原稿用紙3枚)
🐥
初稿不明
20220713 2206