メディアアーツ都市・札幌の未来を描くために 【 #NoMaps 2020レポート】
「創造力を活かしたまちづくり」を掲げた、2006年の「創造都市さっぽろ宣言」。
「札幌の街は、市民とオープンなコミュニケーションを図り、全ての人の中に潜在しているアイデアや才能をまちづくりに活かしていきます。
さらに、その取り組みを世界に発信し、知識・アイデアを資本とするクリエイティブ企業や世界で活躍する人材をひきつけ、創造的な環境を求める人々が住みたいと思う街へと札幌を変えていきます」
(「創造都市さっぽろ宣言」)
2013年には、地域の活性化を進める都市間のネットワーク「ユネスコ創造都市ネットワーク」に、「メディアアーツ」の分野で日本で初めて札幌市が認定されました。
そんな札幌市が注力しているのが、2つのイベント「札幌国際芸術祭」(Sapporo International Art Festival/以下、SIAF)とクリエイティブコンベンション「NoMaps」です。
SIAFは2014年にスタート、NoMapsは2016年にスタート。両者ともに、定期開催のイベントだけでなく、ワークショップやラボなどの継続的な活動を積み重ねてきました。今や札幌のメディアアーツ・シーンを代表する活動といえます。
しかしSIAFとNoMapsは、札幌で同じメディアアーツに関わる活動をしながら、意外にもあまり接点がなかったのです。
△ 左がSIAFラボ、右がNoMapsの活動の一部
そこでNoMaps2020では、アート作品制作や研究開発を札幌で行ってきたSIAFラボと、先端技術の社会実装の場をつくってきたNoMapsの接点として、カンファレンス「SIAFラボ× #NoMaps :札幌「メディアアーツ」の課題と可能性」を開催しました。
SIAFラボからは、SIAFラボプロジェクトディレクターを務める石田勝也さん、小町谷圭さん、船戸大輔さんの3名。NoMapsからは、川名宏和さん、吉岡純希さんの2名です。モデレーターは、NoMaps実行委員であり株式会社トーチ代表・さのかずやが務めました。
メディアアーツをテーマに活動してきた両者が、ともに見据えた未来とは?
セッションの詳細はこちらです。
■ 「札幌国際芸術祭」(SIAF)/SIAFラボとは?
3年に1度、札幌を舞台に開催される芸術の祭典。2014年に第1回、2017年に第2回を開催した。札幌市内のさまざま場所で展覧会やパフォーマンスなど、多彩な表現を展開。2020年にはオンラインプログラムと展示の形で特別編を開催した。 公式サイト
SIAFラボは、SIAFを支える文化の土壌づくりを目指して、オープンで実験的なプラットフォームとして2015年から活動している。 公式サイト
■ 「NoMaps」とは?
クリエイティブな発想や技術を用いて、新しい価値を生み出そうとする人たちの交流の場。北海道を舞台に、2016年からスタートした。2020年はテーマに「beyond」を掲げ、10月14日から18日までの5日間にわたり開催。オンラインで多様なプログラムを配信し、延べ1万人以上が参加した。公式サイト
なお、こちらのトークの全体はYoutubeでもご覧いただけます。
札幌における「メディアアーツ」のこれまで
セッションを始める前に、そもそも札幌のメディアアーツはどのように変遷してきたのか、モデレーターのさのかずやが解説しました。
札幌市の説明によると、「メディアアーツ都市」を形づくる要素として、大きく2種類があります。1つは文化多様性やメディア芸術の振興といったアート。もう1つが、都市生活の改善やクリエイティブ産業の発展などのビジネスです。
さの「札幌でいえば、アート活動を担ってきたのがSIAFラボです。作品制作や研究開発、芸術関連の人材育成を手がけてきました。後者はNoMapsで、コンテストや実証実験など、ビジネス分野の活動を展開しています」
これを踏まえて、具体的な活動を見ていきましょう。
まずはSIAFラボについて、SIAFラボプロジェクトディレクターを務めるメディアアーティストの小町谷圭さんに、説明していただきました。
SIAFラボは、3年に1度の芸術祭を支える文化の土壌づくりを目指しています。芸術関連のレクチャー・シリーズや、高校生以下を対象にしたプログラミングのワークショップなど、芸術祭期間にとどまらない活動に注力してきました。
また、札幌の特徴である「冬」を活かした取り組みも実施しています。「さっぽろ垂氷まつり」では、「つらら」を用いたインスタレーションや造形物の展示を通して、冬の景観を考えました。
他にも、冬に欠かせない「除雪」をテーマにした展覧会をはじめ、札幌らしさをさまざまな角度から見つめ、表現しています。
次にお話されたのは、NoMapsに近い活動をされている、川名宏和さんと吉岡純希さんです。
「gekitetz」の名義で活動している川名さんは、デザインとエンジニアリングの領域を横断するクリエイティブを得意としています。
新規技術への理解を得るべく社内向けのデモ製品を開発・制作したり、一般ユーザー向けの展示会をコンセプトメイキングから携わったりして、企業が描く新しいビジョンへの共感を生み出してきました。
たとえば川名さんは、2030年の暮らし方におけるビジョンの創出に取り組んだPanasonic Designのプロジェクトに参加。移動可能な住空間で、さまざまなサービスとの連携によって生活の充実度を上げられる未来を考え、『EXPANDED SMALL』というコンセプトを設定しています。
オンラインで参加された吉岡さん(写真右)は、看護師として病院で勤務してきた経験を活かし、現在は病院でのデジタルアートプロジェクトと、看護と3Dプリントに関する研究を進めてきました。
得意のインタラクティブを活かして、生まれて一度も病院を出たことがない子どもが遊べるデジタルアートを手がけたり、血糖値のデータをデジタルアートで表現したりと、健康教育の文脈でデジタルアートを活用しています。
札幌らしさを活かしたメディアアーツについて考える
このように、SIAFラボもNoMapsも、それぞれの側面から幅広く札幌でのメディアアーツに関わっているのです。このセッションを通じて、両者が交流するヒントを探っていきます。
1つ目のテーマは、「札幌だからこそできるメディアアーツ」について。
SIAFラボプロジェクトディレクターの船戸大輔さんは、SIAFラボの「冬」を活かすプロジェクトを踏まえて、札幌でのメディアアーツをこのように語りました。
船戸「『都市』と『自然』の両方の機能があるのが、札幌のおもしろさだと思います。しかも、場所にとらわれない活動をしている川名さんや吉岡さんを見ていると、東京ではなく札幌でも作品を制作できることが伝わってきますよね。
SIAFラボとしても、北海道に移住されたアーティストと活動をご一緒できる状態がようやく整ってきたと感じています」
川名さんや吉岡さんは、都市と自然の調和した札幌だからこそ実現できる表現に驚いたと言います。
川名「SIAFが始まったころは東京に住んでいたんですが、作品を見てみると、北海道の自然をアートで伝える表現の多様さと奥深さに感動しました。
マスメディアで伝わってくるイメージとは異なる『札幌』の姿がメディアアーツの文脈で発信されていて、すごく新鮮に感じましたね」
吉岡「メディアアーツを披露する場として、札幌駅前通地下歩行空間を使いやすくなりましたし、札幌はますます『都市をハック』しやすい環境になっていると思います。東京より小さい規模だからこそチャレンジしやすい面もあるでしょう。
メディアアーツの文脈でも、これから新しいことを仕掛ける余地がまだまだあるのではないでしょうか」
札幌特有の要素として共通して挙げられたのは、都市と自然が共存していて、メディアアーツの活動を広げる余白が残されていること。
SIAFラボとNoMapsが活動を継続してきたことで、札幌におけるメディアアーツの可能性がますます広がってきたともいえるでしょう。
メディアアーツのコミュニティをつなげ、広げるには?
テーマは、札幌のメディアアーツを盛り上げる「コミュニティ」へと移ります。これまでの活動を踏まえ、課題や今後の取り組みについてどのように考えているのでしょうか。
SIAFラボプロジェクトディレクターの石田勝也さんは、都市と自然のように異なるジャンルが離れていない札幌の特徴が、コミュニティどうしの距離を縮めるのではないか、と話します。
石田「ただし異なるコミュニティをつなげるためには、両者の間に立つプロデューサーやディレクターのような存在が必要です。札幌には、その役割を持つ人がもっと多くいてもいいように思います。
そのためには、アートとビジネスの両方の文脈を理解して、コミュニティをつなげる仕組みをつくれる人材の育成も欠かせません」
つくり手として参加するだけでなく、コミュニティをつなげる役割としてプロジェクトに関わることもある川名さんは、先ほども話に出た「札幌らしさ」を軸に据えることで、コミュニティをつなげやすくなるのではないか、と考えています。
川名「札幌のメディアアーツに関するイベントって、興行ばかりに走るのではなく、テーマに対して根本的に向き合っていることが伝わってきます。その結果、イベントを通じてたとえば都市にいながら環境について知ろうと思えるような、普段は接点のない文脈に触れるきっかけになるんですよね。
そういう突出した『札幌らしさ』にあらためて向き合うことが、コミュニティを越境するヒントになるかもしれません」
さらに、メディアアーツのコミュニティを閉じるのではなく、市民に向けて開いていくアプローチも重要だといえるでしょう。
近年、札幌駅前通地下歩行空間やSCARTS(札幌文化芸術交流センター)の誕生により、市民がアートやデザイン、エンジニアリングに触れる接点が増えてきました。
札幌出身の吉岡さんは、メディアアーツと全く接点のなかった大学時代を振り返り、接点を増やすだけでなく、もう一歩踏み込んだ関係を築ける入口を設計する重要性を語ります。
吉岡「デザインやエンジニアリングに関わりたい人のなかには、札幌のメディアアーツの活動が見えていても、その輪にどう参加すればいいかわからない人もいるはずなんですよね。
ですから『わかる人だけが飛び込める』ようなコミュニティではなく、なるべくオープンにして、『誰でも来ていいんだよ』というスタンスを表明することが重要だと思います。
情報発信だけでなく、そこに行けばメディアアーツについて話を聞けるような、開かれた場があると理想的ですね」
メディアアーツを、誰もが参加できる取り組みにする。そのためには、メディアアーツをコミュニティだけで閉じずに、別のコミュニティへ、そして社会へと開いていく必要性があるでしょう。
「メディアアーツ都市」としての札幌
セッションの最後には、札幌のメディアアーツ・シーンの今後をどう見据え、どのような取り組みに注力していくのか、SIAFラボとNoMapsそれぞれの視点で聞いてみましょう。
SIAFラボでは、「都市と自然」をテーマに、宇宙空間や札幌における冬の景観を、これまでにない角度から見せてきました。今後は特殊環境のリサーチデバイスの開発を進めながら、「新しい角度を見せる」活動を発展させていきます。
△ 2021年4月に開催された、山口情報芸術センター(YCAM)へのオンライン訪問(SCARTSより)
小町谷「各地のメディアアーツに関する展示会の舞台裏や準備中の様子など、一般には公開していない場所をオンラインで見学できるツアーを実施しています」
NoMapsは、オンラインとオフラインでの両方を活かした2020年の経験を踏まえて、2021年も開催が決定しました。
この他にも、25歳未満を対象にした「未踏IT人材発掘・育成事業」に関わりのあるコミュニティの立ち上げや、高校生向けハンズオンセミナーなど、継続的な活動にも注力しています。
SIAFとNoMapsが積み重ねてきた活動を通じて、札幌でメディアアーツを取り巻く環境は着々と整ってきました。このトークをきっかけに、新年度も新たなコラボレーションをつくっていく話し合いが行われています。
このセッションで生まれたきっかけを生かして、創造都市・札幌のメディアアーツにまつわる創造活動がさらに広がっていくよう、交流を推進していきます。
執筆:吉田貫太郎(Speech ballon nishiiburi)
編集:菊池百合子
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同じくNoMaps 2020で実施された他の2本のトークレポートにつきましても、ぜひご覧ください。
モデレーターのさのかずやによるNoMaps 2020の振り返りは、こちらをご覧ください。
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