『愛の模倣』

(講義で書いたシナリオです)

【登場人物】
愛理(22)……女子大学生紫音(22)……女子大学生
葵(23)……男子大学生
店員(22)……行きつけのカフェの店員

○大学 学内のベンチ(夜)

学内の中庭にあるベンチに愛理(19)と紫音(19)が腰掛けている。愛理は紫音の方を向く。紫音は愛理と目を合わせ、首をかしげる。
愛理「ずっと前から好きでした! 付き合ってください!」
目を丸くする紫音。少し動揺している。それを落ち着かせるように一呼吸置く。紫音「でも、私たち、その、女同士だよ?」
愛理「それでもかまわない」
紫音「「それでもかまわない」って言っても、私、恋愛とかよくわかんないよ。それに急に意識なんてできないよ……」
愛理「私が紫音のこと好きなだけってだから、何にも変わらない
よ」
動揺する紫音。ばつの悪そうな顔をする。
紫音「変わらないなら……、まあ……」愛理「……! よろしくお願いします!」嬉しそうに笑う愛理。
紫音「まだオッケーしたわけじゃないから。ちゃんと最後まで聞い
て」
愛理「はい、紫音さん」
紫音「愛理さんの熱意はとても伝わりました。私なんかで良ければよろしくお願いします」
愛理「ってことはオッケーだよね?! わーい」
紫音「でも恋人っぽいことって何するの?」
愛理「えー、紫音と一緒にしたいこと? たくさんあるよ。一緒に出かけたり、ハグしたり!いろんなもの共有したい!」嬉しそうに夢を語る愛理。それに同意する様に首を縦に振り、肯定する紫音。

○地下鉄の駅のホーム(夜)

ホーム内で二人立ち話をしている。
愛理(22「)もう卒制なんて、四年って意外とあっという間だったね」
紫音(22「)そうだね、本当に卒制終わるのか不安になってきた」愛理「紫音はそう言って、完璧なもの仕上げてくるからなあ~。
怪しいなあ」
紫音「愛理はいつも「もう無理~」って言いながら完成させてくる
からなあ」
愛理「とりあえず出せば評価はもらえるので、いいのです」
紫音「その割には、結果出ないと悔しがるじゃん?」
愛理「む~…… でもきになるじゃん?」
うずうずし出す愛理。愛理、紫音の前に飛び出して両手を広げる。
愛理「いつもの、したい」
少し戸惑いつつも、抱きしめる紫音。
紫音「……ごめん」
愛理「どした?紫音」
紫音「私、愛理と恋人になって、ハグとかして満たされると思って
た。でも、そんなことなかった」
抱きしめられながら、目を伏せる愛理。
愛理のM「キスもハグもセックスも出来なくていい。だから、せめて
隣にいたい……」

○地下鉄(夜)

愛理と紫音いつものように二人で帰ろうとする。
地下鉄の座席に二人で座りながら話している。
愛理「や~卒業展示会までもう少しですな、紫音さん」紫音「ん……ああ、そうだね」
愛理「どうしたの?」
紫音「なんでもないよ、まさか我々が提案したものが実現するとは……! と思って。感慨深いなあって思って。」
愛理「紫音さんってば、こんな時にも真面目なお話しですかあ~? やっぱ、ゆーとーせーは言うことが違うんですね~
だ」
紫音「そうか?その割には愛理さんも必死じゃない?」愛理「そんな紫音みたいに四六時中、展示会のこと考えてる訳じ
ゃないよ」
紫音「あ、もう今池か、じゃあね愛理」
席から降りて、笑顔で手を振る紫音。
同じく手を振り返す愛理。
愛理のM「……本当に展示会のことを考えてたのかな……」

○愛理の自室
寝室の布団の上で横になりながら、ツイッターを触る愛理。
自分のアカウントからフォロー欄を開き、紫音のアカウントへ飛ぶ。
紫音の投稿[今日は美術館に行ってきました。絵付け楽しかった
です]
絵付けされた湯飲みの写真
紫音の投稿【[習作】光]
黒いフードを被った青年。瞳が虹色に塗られた色鉛筆のイラスト。
紫音の投稿[#詩]
葵への思いを綴った詩の画像。
愛理「これでほんとに何にもないって……どうして……」

×××

紫音からラインが届く。
[ちょっと相談したいことがあって、いまいいかな?]
ラインで電話をかける愛理
愛理「どした?」
紫音「……実はさ、展示会に呼びたい人がいて。その人と距離縮めたいんだけど、どうしたらいいかな?」
愛理「「どうしたら」って…… 努力しかないんじゃない?」
紫音「努力?」
愛理「私が紫音に好きになってもらえる様に努力してるみたいに、その人に対して積極的にアプローチしてみたら?」
紫音「そうだよね……! ありがとう!」
ライン電話が切れる。目に涙を浮かべる愛理。
愛理「やっぱり、そう……だったんだね……」

○大学のベンチ(昼)

一人でご飯を食べる愛理。そこに葵(23)が通りかかる。愛理、慌てて葵に話しかける。
愛理「あのう、紫音と仲良くしてくださってる方ですよね?」首をかしげる葵。葵、こそこそと鞄から何かを取り出す。メモ帳に何かを書いている。
葵のメモ「いつも、お世話になっています。紫音さん?のお知り合
いの方でしょうか?」
葵、メモをめくり、見せ直す。
葵のメモ「僕は葵です。訳があって話すことが出来ません」
愛理「も、申し遅れました、紫音の……親友の愛理です。いえ、そ
のことはかまわないのですが……」
気まずくなる愛理と葵。しばらく沈黙する。
愛理「あの、紫音とはどのような関係なのですか?」
葵のメモ「大事な、友達です」
嬉しそうに目を細める葵。それをみて俯く愛理。
愛理「紫音の様子、もっと聞かせてくれませんか?」
×××
愛理「あの今日は、ありがとうございました。急に押しかけてしまって……」
葵のメモ「気にしないでください。紫音さんにもよろしくお伝えください」
愛理「はい、あの、私が葵さんと会っていた、ということは内密にお
願いします」
お互い背を向け反対方向へと歩いて行く。

○大学最寄り駅の改札前(夜)愛理と紫音、二人並んで歩いている。
紫音「愛理、今日遅かったね。何か用事でもあった?」
愛理「ああ、展示会の準備で準備室の先生の所まで行ってたから
遅くなっちゃって」
紫音「そっか、いつもご苦労様。ありがとうね」
愛理「ううん、できる限り、紫音の希望に添えたらいいなって思っ
た」
紫音「そんなそんな、私は開催さえ出来ればいいかなって」
愛理「そうだよね……」
愛理のM「だって、大事な人に自分の作品見て貰いたいもんね。同
じ創作者として尊敬してもらいたいもんね」愛理、その場にへたり込む。
紫音「愛理?! 大丈夫?」
愛理「だいじょう……うっ……」
紫音「絶対大丈夫じゃないでしょ! ほら、お手洗いいこ」

○駅の共用トイレ(夜)

思わず吐いてしまう愛理。背中をさする紫音。吐瀉物が服に付着してしまう。
愛理「ごめんなさい…… 汚くてごめんなさい……」
紫音「何で謝るの? 愛理は汚くなんかないよ」
愛理「ごめんなさい…… すぐきれいにしますから……」
汚れた服を水道の水で洗う愛理。荷物をベビーベットに置く紫音。
愛理「はぁ……はぁ…… ごめん、紫音」
紫音「ごめんじゃないよ、なんでバス乗った時、気分悪いって、言ってくれなかったの?」
愛理「心配、させたくなかった、から」
紫音「心配させたくない、って心配になるでしょ、私たち「恋人」な
んだし」
胸を押さえる愛理。洗面台に手を乗せ、俯く。
愛理「そうだよね、恋人なのに。相談しないでごめん」悲しそうに笑う愛理。紫音「愛理、辛いことがあったらちゃんと私に相談して。私が協力出来る範囲で頑張るから」
愛理「ありがとう……」
伏せ目になる愛理。鏡に映る自分の姿を見る。鏡に映る紫音の方を見ることが出来ない。

○愛理の自室(夜)

愛理、布団の上でラインを開く。紫音のアカウントを開いてメッセージを送る。
愛理のメッセージ「今日はありがとう。迷惑かけてごめん。今日は
ゆっくり休んでください」
紫音のメッセージ「お気になさらず、愛理こそゆっくり休んで」目を閉じて葵と紫音のことを考える愛理。
葵のM「大事な、友達です」紫音のM「「恋人」なんだし」
閉じていた目を開く愛理。誰もいない部屋で一人つぶやく。
愛理「もう何が恋か分かんないよ…… 私は紫音が好きで、紫音はきっと葵さんのことが好きで、葵さんもきっと紫音のこと
が大事で……」
枕に顔を埋める愛理。嗚咽を上げる。

○大学の最寄り駅にあるカフェ(夜)

いつもの様に窓際の向かい合わせの席に案内される愛理と紫音。メニューを広げる二人。お互い注文が決まり、店員を呼ぶ。特製パフェを頼む愛理、アイス珈琲を頼む紫音。店員が去って行く。
愛理「話って何?」
紫音「新しい原稿、見て欲しくって」
鞄からノートを取り出す。愛理、渡されたノートを読んで驚く。ノートには葵にそっくりな人が描かれている。
紫音「どうかな?」
愛理「ストーリーにおかしい所はないかも。でも、「アオイ」が目立ちすぎじゃない?これじゃ主人公とヒロインの関係が描きたいのに埋もれちゃうと思う。「アオイ」のエピソード削れない?」
紫音「そう……だよね…… 全面的に「アオイ」が描きたいって思
いが出てるかも……」
店員「お待たせしました。アイス珈琲と特製パフェになります」愛理と紫音「ありがとうございます」
アイス珈琲を口にする紫音。パフェを少しずつ食べる愛理。何か言い出そうか迷い、閉じるを繰り返す愛理。
紫音「愛理どうした?食欲ない?」
ぽろぽろと涙をこぼす愛理。
愛理「なんともないよ、ほんとに、何でも、ないんだから……」
紫音「愛理、本当に何でもないなら、「何でもない」なんて言葉出てこないんだから」
愛理「ごめん…… 紫音、好きな、人いるでしょ」紫音「好きな人、ではないけど、憧れの人なら」
愛理「その、憧れの人が、いるのが、辛かった」
愛理、つっかえ、つっかえ言葉にしようとする。愛理「紫音はさ、どうして、私と、付き合おうと、思ったの」
紫音「どうしてって、面白そうだと思ったから」
愛理「私は、苦しかった。紫音の好きは、こっちを向いてないから。痛かったんだよ。葵さんのこと好きで、私は愛理に振り向いて貰いたくて、努力したのに、それなのに……」
あきれ顔の紫音。愛理は俯いたままパフェをぐちゃぐちゃにかき混ぜている。
紫音「──そんなに夢中になれるものがあっていいね」
愛理「「そんなに夢中」って一言に括らないでよ…… 私本気で紫
音のこと好きだったのに……!」
ぐちゃぐちゃになったパフェにスプーンを突き立てる。
紫音「そんなこと言って、同情して欲しいの?」愛理「そんな安い同情はいらない!」紫音「じゃあ、愛理はどうしたいの?」愛理「私は……」
愛理、一呼吸置いて、冷静になる。愛理が顔を上げる。紫音と向き合う。
愛理「私は、私が幸せになるために別れたい」
愛理の勢いに圧倒され、何も言えない紫音。ゆっくり立ち上がり、お代だけ席に置き、店を飛び出して行く愛理。

○大学の最寄り駅(夜)

泣き顔でぐちゃくちゃになったメイクをフェイスタオルで拭く愛理。
愛理「これで、よかったんだよね……」
駅の改札の方を向きながら、突っ立っている愛理。駅の改札から降りてくる人、改札へ向かう人が愛理を避けて通り抜けて行く。少しの間、戸惑っていたが、顔を上げ、決意したように、改札の向こうへと歩む愛理。

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