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「灰かぶりの殺人鬼」片思い4部作(4)

世界でひとりきり。そんなシチュエーションを人類なら誰しもが望んだと思う。然り。僕もそのうちの1人なのさ。1人の街という物は案外不気味なもので、人の生気はぼんやりと光る街頭が示しているのに、人の気配はしん、と静まり返っていておどろおどろしさに拍車をかける。しかし、1人は楽しいものだ。こう、好きな歌をどれだけ歌ったって、クルクルと夜の街を踊り歩いたって、楽器を思い切り吹いてみたって。それは夜の街の闇の中に溶けて響く。人なんかいるから争うのだ。きっと傷つきもするのだ。1人でいれば怖くない。友達だって沢山いる。実体はなくても、自然も機械もなんでも友達なんだって。空想の友達だなんてアンネ・フランクみたいだ。僕は一緒にワルツを踊ってくれる綺麗な女の子を思い浮かべて、毎晩くるくる歩く。
「まあ、今晩もいらっしゃってるのね?」
「そうだよ。君と一緒に踊りたいのさ。いいだろ?」
「もちろんですわ。私もあなたと踊りたいの。」
1人とひとりはくるくるとまわり始めた。風が巻き起こるようにひらひらと。僕の安いジャケットが風を受けて、バタバタと音を立てる。彼女の煌びやかなドレスがきらきらと街灯の明かりを受けて、輝いていた。まるで2人の周りだけシンデレラのワンシーンのように時が宿って、ゆったりと流れてゆく。こんな時間が続けばいいのに。きっと夜の魔法のおかげなんだ。それでも、この時間が無くなってしまったら。急に怖くなって足が止まってしまう。彼女の幻影は虚空に消えてしまった。虚しい光が僕を照らすだけ。友達なんて嘘だったんだ。ただの絵空事にしか過ぎないんだ。いやだ、僕は友達が欲しいんだ。彼女は友達なんだ!本当だ!ほんとのほんとに…ほんとに、ホントなんだってば……膝を折って、どさっと道路に身体を打ち付けた。痛っ。と少し高い、声変わり前のテノールの声が響く。それは、らんらんと星が輝く空に溶けて消えてしまった。涙が止まらない顔を手で擦って。手をふと見てみる。真っ赤な絵の具を引き伸ばしたかと思われるほど、濁っていた。?と思い、泣きやみかけ…うひゃひゃひゃひゃ。そうだ、思い出した。僕の夢。僕だけの世界。1人きりの世界を叶えるために。切って切って切って切って。とうとう1人になってしまったのだった。「俺ってほんとバカだな」と静かに呟くと、すっと立ち上がって再び歩き出した。
空の白いはずの月は不気味な色を帯び、ひとつの獣を睨むように照らしていた。

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