ドラマ感想 ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪 第7話感想 中つ国の平和が崩壊を始める……
前回
火山の噴火後、村は灰に飲み込まれるのだった……。
火の点いた馬! すごい、どうやって撮影したんだろう。
こういった場面で、動物を導入部に使うというのはよくある表現だけど、燃えあがる馬はなかなか凄い。
ガラドリエルはこの惨劇の中、テオだけを救出して、一緒に脱出する。
テオしか生存者を発見できなかったのだろうか……という疑問はあるけれども。ガラドリエルとテオが語り合う場面を作りたかった……という事情によるものなのはわかるけども。
一方、ミーリエル女王は避難の道すがら、自ら人々を救助しながら進んで行きます。
なんだ、ミーリエル王女、いい人じゃないか。前回で王の帰還をお膳立てしたり、なかなかの人格者じゃないか。ヌーメノール国ではずいぶん堅苦しい人のように思えたけれど……。こういう災害時に行動に出られる、というところでこの人の本来の人格が見えてくる。
ガラドリエルはテオだけを救助して、村の外に出る。
……ここのシーン、どうやって撮影したと思う? いや、私もよくわらかんの。
今はロケ撮影時の環境保全は非常に厳しいんだ。ロケ地の自然を絶対に破壊してはならない……というのがあるんで、こんなふうにロケ地全面に灰を撒いて撮影……なんてできない。ということはこのシーンはセット撮影……?
でもふと思いついたんだけど、もしかするとこのシーンの背景に見えているものは実は「灰」ではなく「雪」かもしれない。撮影時は雪だけど、色味調整で灰のように見せているだけ……。これなら雪が降っているときに撮影をすればいいだけなので、予算も少なく、環境を破壊しなくて済む。
実際はどうだったんだろうね。
そのまま夜になり、ガラドリエルとテオは語り合う。
テオ「誰か殺されたことがある? やつらに。家族とか」
ガラドリエル「兄のフィンロド。それに夫も」
テオ「夫?」
ガラドリエル「名前はケレボルンよ」
ちょっと待ったァ!
ガラドリエルは確かにケレボルンと結婚している。でもケレボルンは死去していない。それどころか、後の映画『ロード・オブ・ザ・リング』にも登場している。第3紀の終わりまで中つ国にいて、最後の船で西方へ帰っている。
ドラマではケレボルンは死んじゃっている設定に……。歴史を変えちゃったよ……。これは良くないよ。
一方のミーリエル女王は失明。しかし他の者に悟られまいと振る舞う。
この場面では「煙はどこまで続くのかしら」と尋ねてみるが、周りの空気を察して「煙を抜けたのはいつ?」と質問を変えている。ここはミーリエルの賢いところ。
さらに周りに混乱を広げないように、失明したことは他言させず、王としての威厳を保つため、馬の上に背筋を伸ばして座り続ける。自分は王であり、騎士達のシンボルである……という自覚を持った行動だ。王としてふさわしい振る舞いだ。
野営地までやってきて、ようやくミーリエルとガラドリエルが合流する。……これはまたすごいロケーションだ。モルドールは高い山地に囲まれているので、その入り口部分はこんなふうになってるのか。いったい、どうやってモルドールの山地を馬で越えてきたのだろうか……と疑問だったが、鬱蒼とした森がどこまでもあるわけではないので、侵入そのものは可能だったわけだ。
ところでミーリエルが座っている岩、なんであんな模様が入っているのだろう。撮影隊が用意したものではなく、天然のものだと思われるが……。いったいどんな条件が加わると、あんな模様が入るのだろうか……。
ミーリエルが中つ国を去って行く。その様子を見届ける2人のエルフ。
なるほど、あんなふうに山地に割り込むように川ができていたのか……。地図だけではどういう地形なのかいまいちイメージできなかったけれど、この風景を見てやっと理解できた。それにしてもいいロケーションを見付けてくる。
ミーリエルはガラドリエルに恨み言をいったりもせず、モルドールの噴火に恐れおののいたりせず、むしろ闘志を燃やして、再び中つ国へやってくることを宣言する。
ミーリエル女王格好いいじゃないか。急に好きなキャラになってきた。
ガラドリエルはギル=ガラドへここまでの話を報告するために、さらにハルブランドを治療するためにエルフの国へと連れて行く。怪我人を1人で馬に乗せるのはどうかという気はしたけれど……。こういうのも王としての威厳を保つため、なんだろう。
テオに剣を託し、戦士としての覚醒を促して、ガラドリエルパートは完了する。この伏線がどう結実するのか、楽しみだ。
ハーフットたちはどうしているのだろうか?
ハーフット達は移動目的地に到達したが、しかし焼けた岩が落下していて、周囲の自然環境も破壊されてしまっている。南で火山が噴火したせいだ。
立地はこんな感じ。背後に森、手前になだらかな斜面があって、地形そのものが隠れるような窪地になっている。リンゴの木が自然に実っている……という場所だが、そのリンゴの木も低く、ハーフットの背丈でも収穫しやすい。ハーフットは農業をしない代わりに、こんなふうに自然に食物が実っていて、かつ隠れやすい場所を好んで巡り歩いていることがわかる。
少し気になったのが、この建物。ハーフットは家を持たないから、人間の住居だったものじゃないかと思われる。
もしかするとこの場所は、もともと人間が住んでいて、「自然に実っていた」のではなく「リンゴが栽培されていた場所」だったんじゃないだろうか。やがて人が住まなくなり、ハーフットが巡回地に選ぶようになった……。
本当なら、自然のままに任せた場所だったら、もっと荒れているはず。こうやってハーフットが数年おきにやってきて(もしかしたら毎年)、管理や清掃をしているから、こんなふうに美しい場所として保たれているのだろう。
果物が実っている只中を、階段が一つ作られている。ハーフットが人工物の痕跡を作るとは思えないので、やはりここはもともと人間の農園だったんじゃないかと……。
するとハーフットがどうやって布や鉄器などを手に入れたのか……ということも推測できる。以前は人間が住んでいたような場所を巡り歩いているので、残されたものを少しずつ手に入れているのだろう。
ところで奥の方……手前の苺が実っている場所から奥の方だけど、なんでこんなに合成っぽい感じになっているんだろう?
ハーフットたちの停留地から少し丘を登ると、モルドールの山地がそう遠くない場所に見える。モルドールの北の、ほとんど人の住んでいない広い草原や森を住処としているのがわかる。第3紀の頃はここも荒れ野になってしまうのだが、第2紀のこの時代はまだ自然が旺盛だった。
「ここは緑森大森林。視線を下げて崖の向こうを目指せば、大きい人たちの集落がある。連中なら、あんたの星座も知っているかも」
とサドクは灰色の人に語る。要するに「南方国へ行け」ということ。あそこなら人がたくさんいるから、ハーフットよりも物知りな人もたくさんいるだろうから。
灰色の人はサドクの助言通り、あの山を目指していくのだった……。
灰色の人が去った後の夜。ノーリが車輪の淵を砥石で研いでいる。画面の手前側には車輪が一杯……。ノーリの父親は車輪職人だから、ノーリもこんなふうに仕事を手伝ったりするのだろう。
そんなハーフットの集落に、怪しい人たちが現れる。……あれ? もしかして3人とも女?
それにしても、この3人は本当に何者なのだろう? 衣装の文様から何か探れるかと思ったけど、ピンと来るものがない。1人は盾のようなものを持っていて、その裏側に灰色の人が探している星座が描かれていることはわかっているが、それ以上のヒントはない。
怪しい3人組を見送った後、ノーリとポピーがあの大きな人に危険が迫っていることを伝えに行くことになる。
このシーンを見て、ちょっと気分が盛り上がる。どう見てもフロドとサム。「お、ハーフットの物語が始まったな」という感じがある。これになぜかマリゴールドとサドクもついていくことに。
4人のハーフットは灰色の人を追いかけて、旅を始める。
遠くに見えるモルドールの山地はもちろんCG合成。これは『ロード・オブ・ザ・リング』の頃からそうで、本当はニュージーランドにばっちりな山地があるのだけど、しかし現実にある山をあの邪悪な場所に見立てるのは気が引ける……(しかもその山は地元住人達が信仰の場にしている)。それでバッチリな山地を撮影しておいて、あえてCGで差し替える、ということをやっていた。
(モルドールの山脈は邪悪なイメージなので、現実の風景そのまま撮っても、その風合いは出ない。むしろ“作り物”っぽさをあえて出し、邪悪さを出そう……という意識があった)
今回のドラマ版もそういうところは引き継いでいて、モルドールの山脈だけはCGで作られている。
それにしてもこのなだらかな地形はニュージーランドの風景そのまんまだと思われるが、こんな風景よく見つかったなぁ……。『ドラクエ8』をリアルにしたらきっとこんな風景なんだろう……というイメージになっている。
ドワーフとエルフ達はその頃どうしている?
半エルフのエルロンドが、ドワーフ王を説得している。エルフは森での収穫物を5世紀ぶん保証すると提案するが……。さらっと500年分という提案をするのがエルフらしい。寿命が短い人間だったらあり得ない期間。取引をするならエルフだね。500年も保証してもらえば、数世代ぶんの保証を得られる。
でもドワーフ王はあまりにも疑り深くなっているので、エルフの提案をはねつけてしまう。エルフに裏表がなく、どう考えてもドワーフにとって得な提案……というのがわからないくらい、判断力が鈍ってしまっている。
鉄を叩きながらディーザ親王妃が不満をぶちまける。家の中に鉄を溶かす炉があって、さらに鉄を鍛えるための設備も揃っている……というのは凄い。製鉄が文化になっているドワーフらしい描写。ドワーフでは一家に一台製鉄セットがあるのだろうか。
たぶんこちらがディーザ新王妃が鍛えた斧。実に精巧。彫りも繊細だ(ハルブランドより腕が良さそう)。いい腕前だけど、これでもドワーフでは標準的なテクニックなのだろう。王妃の手慰みの手芸が斧を作ること……というのはなかなか凄い世界観。
王妃となるなら、斧を作るくらい基本的教養……だったりするんだろうか。
ドゥリンがなんとなくテーブルの上にミスリルの原石を放り出すが……そこに置いていた「汚染された葉」が瞬く間に回復する。
ミスリルの魔法効果(呪いの浄化)について言及されるのは初めて見た。たいていのファンタジー作品では、ミスリルは単に鉄の上位互換くらいな感じだけど、そのミスリルに魔法が宿っているという設定を見るのは初めてかも。でももともとの由来を考えると、魔力が宿っていてもおかしくはない。
話はちょっと飛ぶけれど……坑道の奥に、確かにミスリル鉱脈はあった。そのミスリルが木の根のように岩に貼り付いている描写は面白い。ミスリルは地下の火山活動によって生まれた鉱物ではなく、山脈の上に生えていた木――その木に注入された魔力が結晶化したものだったから、木の根っこみたいな形で生成されている。
もしかすると、この根っこみたいな場所を上へ遡っていけば、シルマリルがどこにあったか特定できるかも知れない。
そのミスリル鉱脈をずーっと下りていくと……バルログがいました! 普通にいるやん。私はずっと、バルログは岩場に埋まっているイメージだったが、わりと広い空間を動き回れていたんだね。
2001年の映画『ロード・オブ・ザ・リング 第1章』でバルログは初めて登場したのだけど、最初は「なんだこいつ?」という印象だった。唐突に出てきたな、という印象で、行き当たりばったりに構築したシナリオにように感じられた。
そのように感じられたのは、そもそもバルログがどういったものか、当時は知らなかったから。
バルログの歴史は古く、神話時代にはすでに姿を現している。どうやらもともとはヴァラール、つまり神々の中でも火を司る者であったようだが、やがてヴァラールから離反し、モルゴルの配下に加わる。エルフ達が生まれたのはその後の話だから、バルログの歴史はそれくらい古い。
どうやらかつての時代ではバルログはたくさんいたらしく、ゴズモグというバルログの首領もいたようだ。モリアの坑道にいたバルログは、たくさんのバルログ達の生き残り。
そういった経緯があってバルログは登場してきたのだけど、確かに映画を観ただけだとわかりづらい。しかもガンダルフ対バルログの決闘もほぼ描かれない。バルログがどれほどの脅威だったか、映画だけではよくわからないものになってしまっていた。
(ガンダルフとバルログの決闘については、映画のメイキングディスクの中で掘り下げられていた。ガンダルフとバルログが地底に落ちた後、無限階段を登りながら戦い続け、最後には氷雪に出たところで最後の一撃があった……みたいなエピソードやイメージ画などが描かれていたようだ。映像化したものを見てみたかった)
バルログと一緒に、山のトロルもいるはずだが、彼らはドラマの中で描写されるだろうか。それに目の大きな地底のゴブリン達も。
ただ、ミスリル採掘の末にこのバルログを掘り当ててしまう……という話は本来第3紀に入ってから。第2紀の頃のバルログは霜降り山の奥深いところで沈黙していた。この辺りの歴史を変えて、「第2紀の頃にもバルログと一度接触していた」という物語を作るつもりだが、ちゃんと後の物語と矛盾を作らずに展開していくのだろうか……。
エピソードの最後はアダル率いる闇の勢力。
土地の呼び名は「南方国のまま?」と問いかけられ、アダルは新しい呼び名を考える。
そこで出てきたのが「モルドール」。テロップで説明されるが……ちょっと見せ方がダサい。
サウロンが去ってから、エルフと人間が共同しておよそ1000年かけて荒れた土地を耕し、緑化してきたのだが、滅びの山《オロドルイン》が噴火したことで自然が一瞬にして崩壊してしまう。全土に灰が広がり、噴煙が深い影を落とす、忌まわしい土地に変わってしまった。暗黒の土地、モルドールがいかにして生まれたか……それが映像的に解説された初めての場面だ。
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