時間制限家族(5)

まずは整理しよう。
ヨシコはなぜ籍を抜きたいのか。
簡単だ。僕と夫婦である証をなくしたいんだ。それだけ嫌われたんだ。
じゃあなぜ嫌われたのか?
確かに僕はヨシコに無関心だった。今ならわかる。離婚しなきゃいけないとなってからじゃ遅いのはわかるが、今ならわかる。
旅行以外の思い出をヨシコにあげれてない。僕はヨシコに何もしてないんだ。
その旅行ですら八つ当たりをして泣かせてしまった。
逆に今までよく夫婦でいてくれた。
僕はなんてダメな旦那なんだ。

あんなにもヨシコを守ると、ヨシコを大切にすると誓ったのに、なぜ僕はダメになってしまったのだろうか。

整理するどころか自分のダメな所ばかりみつかる。

よし、まずはヨシコに話しかけよう。
わかってる。離婚はする。今さらなんとか引き留めれるとは思ってない。

ヨシコは本気で離婚しようと決めたんだ。

僕にできる事はヨシコに言われた選択を決める事と今までの僕を反省する事くらいだ。

普段、ヨシコに帰宅した事など伝えない。
でも伝えよう。僕なりの後悔だ。まずは会話をする為には話しかけよう。
夫婦としていられる時間はきっと短いのだから。

「ただいまー!」

ヨシコにもナナにも伝わる言い方で久しぶりに言ってみた。

「おかえりー!」

ナナが抱きついた。
ナナを抱きしめた。ヨシコはこちらを見る事すらせず僕が帰宅するなりバイトに出掛けた。
なぜかショックだ。
昨日までと同じ光景なのに、昨日までは気付かなかなったのに、今はショックだ。

でも、仕方ない。
見返りは求めない。僕は僕なりに考えてヨシコと接しよう。やれる事をするんだ。

ナナが満面の笑みで

「よっさん仕事だね!今日も二人だね!何する?」

と、聞いてきた。元気がないのを悟られないようにするので僕は精一杯だ。

いつもとかわらずナナとの時間はナナの為に全力でつかった。
空元気からなのかいつもより全力で遊んだ。
からなのか、いつもより早く寝たナナ。
ナナは可愛いらしい寝顔で寝ている。
ナナが寝付いた時にバイト中のヨシコからメールがきた。

【わざとらしく話しかけないで、今さら何も変わらない】

読んだとき、少しだけ辛かったが僕も何かかわるとは思ってない。
反省して、それをちゃんと言葉や態度にしようと思っているだけ。

【わかってるよ。僕なりに考えて行動してるんだ】

と、送ってからヨシコからは返信はなかった。

つい、落ち込んだ。落ち込んでなんかいられないのに。
僕は少ない時間で大事な判断をしなくてはいけない。なのに考える事がなかなかできない。
ナナの寝顔をじっくり見た。
毎日見ているはずなのにこうも状況が違うと感情が変わるんだな。
抱きしめたい。
起こしたら可哀想なので可愛い小さな手を少しだけ握った。

なぜだろう。
やはり落ち着かない。
急ぐ気持ちとは真逆に心がついてこない。

よし、今日は考えるのはやめよう。
今日の目標は心を落ち着かせることに集中しよう。

ナナの寝顔を見ながら、朝方までぼーっとしてみた。

ヨシコは僕が仕事に行く数分前まで帰ってこなかった。

ちゃんと「いってきます」は伝えた。

寝不足。というより寝てすらいないが、妙に頭は冴えている。長い時間落ち着かせる事に集中したからか、気持ちもかなり落ち着いた。
仕事にも支障はでなかった。

ヨシコにメールしてみた。

「今日バイト?」

「いいえ。」

「じゃあ夜出掛けていい?」

「はい。」

だけのやりとりはした。
昨日は心を落ち着かせる事に集中した。
今日は決めなくてはいけない。明日は話合うんだ。

ナナとの時間が惜しかったが、
たまには1人でゆっくり考える事に決めた。

仕事が終わり、1人の時間。
自分で1人になると決めたくせに何をしたらいいかわからない。
ヨシコと付き合って、ナナが産まれてからというもの1人で夜出歩く事などほぼなかった。
さて、どうするか。
お酒は飲まないほうがいいだろうか。

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