【お話】セキセイインコのうた

以下は(おそらく1990年代前半の大学時代以降にキヤノンのワープロ専用機で書いて)2005年頃mixiに掲載し、2007年にアメブロに再掲載して、今回noteに再々掲載した記事 #初期の桔梗の花 #桔梗の花

http://ameblo.jp/toraji-com/entry-10036935355.html の続き。  

鶏がいなくなったのち、父がおもむろに鳥かごの修理を始めました。何をするつもりかと思っていると、その日の夕方には5羽のセキセイインコが飛び交っていました。 
それから何日か経って、鳥かごの底にうずら豆のような卵が落ちていることに気付くと、父は大きな鳥かごの中に小さな巣箱を三つ取り付けました。  

セキセイインコは、その後、自然に繁殖していき、何年か経つと鳥かごは色とりどりのインコたちであふれかえりました。
そんなある日曜日の午後、遊びから帰ってくると、鳥かごの前で父と一人の女の子がなにやら話しこんでいました。誰だろうかと思って近づいてみると、その子は女の子ではなく、同じクラスの牧野君でした。茶色の髪と瞳、白い肌をした牧野君は華奢な体をしていて、よく女の子と間違われることがありました。ある体育の授業の前、着替え中の彼が女の子のプリント柄のパンツをはいているが見つかって、みんなにからかわれたことがありました。もしかしたら、彼のお姉さんのパンツをはいていたのかもしれません。そんなこともあって、彼をみるとつい女の子を連想してしまうのでした。  

「どうしたの。」 
私は彼に近づいて尋ねました。 
「うん。前からインコを飼いたくてね。近所にインコをたくさん飼っている人がいるって聞いて、分けてもらおうと思ってきたんだ。君んちだったんだね。」 
「そう。」  

それから、彼は私の父にインコの飼い方についていろいろと質問をしていました。そのうち父が、彼の尊敬のまなざしに気をよくしたのか、「どれでも好きなのを持っていきなさい。何羽でもあげよう」と言い出しました。私はそれを聞いてあわてました。何故なら、鳥かごの中には最近成鳥になったばかりのとても美しい、珍しい柄のインコが一羽いたからでした。なんともいえない深いグリーンから目の覚めるような黄色い柄のグラデーションがかかっていました。模様の入り方も普通のインコとはまったく違っていました。私はそのインコに特別に目をかけていました。  

私はそのインコが今巣箱にいることを祈りましたが、運悪くそのインコは鳥かごの中を飛び回っていました。私は牧野君がそのインコを指名しないことを心の中で祈りました。  

そんな私の思惑にも気がつかず、牧野君は真剣に鳥かごのインコたちを見詰めていました。金網のすぐ近くまで顔を近づけ、無意識に白い指を唇に当てながら、一羽ずつ、その柄を確認していました。  

長い時間ののち、じゃあ、これとこれくださいといって、彼が指差したインコは、むしろ当時の病院に行くと受付に必ずいたような典型的な柄の二羽でした。セキセイインコ初心者の牧野君はむしろ絵に描いたような柄のインコが欲しかったのかもしれません。『本当にそんな柄でいいの?』私はそんな心の中の疑問をあわてて飲み込みました。  

「じゃあ、待ってなさい」と言って、父は鳥かごに手を突っ込んで、その二羽を捕まえようとしました。牧野君はあらかじめ持参していた緑色の虫かごのふたをあけて待っていました。  

やがて、父が、水色に白色の体色にマーブル模様の入ったインコを捕まえると、それを牧野君に手渡しました。  

さっきまであわてて逃げ回っていたそのインコは、牧野君の手の中でトカゲのような目を閉じて、死んだようにじっとしていました。
それから、父がもう一匹のインコを捕まえました。こちらは黄色に黄緑色の体色にマーブル模様が入った柄でした。  

父から受け取ったインコを牧野君が虫かごに入れている最中、彼らの後ろで鳥かごから一羽のインコが出ようとしているのに気がつきました。私があわてて走り寄ると、そのインコはばっと飛び出しました。それからふっと塀の上に止まりました。 
インコの繁殖をしているとしばしば中途半端な模様のインコが生まれることがありました。そのインコもそのうちの一羽で、あまり気に留めていないものでした。  

父が捕まえようと手を伸ばすと、そのうすい模様のインコはふわりと飛び上がり、弧を描いて私たちの家の屋根の上に上がっていきました。 
(別のブログからの再録)

https://ameblo.jp/toraji-com/entry-10036973686.html

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