【思い出】中学時代の在日の同級生

以前にも書いたが、私の小学校はありふれた日本の小学校だった。しかし、地元の中学に進学すると、在日の多い部落を含むその隣とさらに隣の小学校の出身者と同じ中学区で同級生になった。今から35年ぐらい前の話だ。

その新しい同級生の中に在日の男子がいた。彼はおそらく朝鮮籍だったのではないかと思う。ある日先生が彼を教室の壇上に呼んで、彼がしばらく祖国に帰るとわざわざ紹介していたから。

で、この彼なのだが、根は素直で真面目でいい奴だった。私も学校では一緒によく遊んだのだが、少しばかり付き合いにくいところがあった。理由は本人に差別や社会格差について劣等感があったようで、よく言えば向上心があり真面目に努力して勉強しているのだが、悪く言えば何かある度にいちいち自分と他人を比較し、マウントポジションを取らないと気が済まないのだった。
そして運悪く、私は彼より毎度少しテストの点が低かった。そこを彼に気に入られたのか、彼は定期テストの度に私のところにやってきて、
「お前、このテスト、何点だった?」
「えっ、X点?俺、X+n点! 勝った!」
と言って、嬉しそうにガッツポーズをして帰って行くのだった。
彼にとっては、自分が真面目に猛勉強し、ライバルで“日本人”の私に僅差で競り勝つのが、自己承認欲求が満たされて、愉快でたまらなかったのだろう。
しかし、私の方は彼と学力で争うつもりは特になかった。切磋琢磨することは悪いことではないのかもしれないが、私は創作的なことが好きで、他人と競争することには興味なかった。彼の態度は愉快ではなかったし、むしろ私は彼のことを気の毒に思っていた。何故なら彼は私に依存していたから。

ある日、小さい頃にアニメで見ていたゲッターロボの原作漫画が復刻され、私は無理して全巻買った。私が彼にその話をしていると、彼が借りたいと言って、ある夕方、私のうちまで借りにきた。貸してやってしばらくして、今度は私の方が返してもらいに彼のうちに行った。

彼のうちは黒ずんだ古い木造家屋で、その角に長男の彼の子供部屋があった。部屋に上がると当時はまだ一般に珍しかったパソコンのフルセットがあった。プリンターも入れて軽く百万円はしたのではないかと思う。おそらく御両親が長男の彼に期待をかけて教育を惜しまなかったのだろう。それに対して私のうちには教科書しかなかった。

その後、中学を卒業し、彼は地元の有名な私立の進学高校に行き、私は郊外の普通の県立高校に行った。彼はまたしても私のところにきて、私の進学先を確認した上で、いつものようにガッツポーズをして帰っていった。改めて気の毒なことだと思った。

それから三年して、高校を卒業した際に中学の同窓会があった。私は初めてお酒を飲んだ。

そしてなんとなく宴たけなわで、彼ともう一人の同級生となんとなく話していた。
彼は新聞で同級生の合格者をチェックしていたらしく、いつものように私に言ってきた。
「お前、東京理科大に受かったんだって?ところでさあ、俺はあの有名な国立大学に受かったんだ。」

彼が劣等感をバネにして頑張ってきたのは分かるのだが、何故いちいち自分と他人を比較しないと気が済まないのだろうか。
人間って変わらないものだと思った。

その後、飲み会で彼が言い出した。
彼「実はさあ、俺は朝鮮人なんだ。」
もう一人の彼と私「うん。」
するともう一人の彼が言った。
もう一人の彼「実は俺も朝鮮人でさあ。」
彼「うん。」私「へぇ。」
そして私も言った。
私「実は俺も朝鮮系でさあ。母親が在日韓国人なんだよね。」
彼ともう一人の彼「ええっ!!」
彼らはお互いが朝鮮人であることを以前から認識していたようだったが、私も朝鮮系だとは知らなかったようだ。

私は彼の顔を見た。彼は明らかに動揺していた。

結局、彼は何と戦っていたのだろう。

https://ameblo.jp/toraji-com/entry-12443277859.html

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