【WBC2023】なぜ周東佑京は1塁から悠々生還できたのか。〜今日のワンプレー
足が速いからである。と言ってしまえばそれまでであるが、そこにはやはりプロの技術と判断があった。
場面は9回の裏。4-5で1点ビハインド。ノーアウト1・2塁。2塁ランナーは大谷翔平。周東佑京は1塁ランナーであり彼がホームインすれば逆転で勝利が確定する貴重なランナーである。
まずMLB Japan公式Twitterが公開しているこの動画を見ていただきたい。
https://twitter.com/MLBJapan/status/1638038977721556993
2塁ランナー大谷翔平はサイドステップで打球が抜ける状況を確認している。一方1塁ランナー周東佑京は打球を見ている大谷翔平との差を詰めるように、かまわず2塁へ向かい走りながら打球を確認。そのまま2塁・3塁を蹴って一気にホームを踏んだ。
大谷翔平はサイドステップで打球を確認、周東佑京は打球の状況に構わず先の塁へ向かう。この違いは2塁と1塁との外野からの距離の違いによるものである。
言うまでもなく、2塁ベースの方が1塁よりも外野手が捕球を試みている打球の落下点に近い。2塁ランナー大谷翔平は万が一センターがノーバウンドで捕球しても戻れる距離を保っておかなければならない。なのでサイドステップで状況を見ながら、打球が弾んだことを確認したのちにホームベースに向かったのである。
戻るための距離を確保しておかなければいけないのは1塁ランナーも同様である。しかし想定される捕球地点から1塁は距離がある。センターがノーバウンドで捕球しても自分の走力なら2塁ベース付近まで進んでも1塁に戻れると周東は判断し、打球の状況にかまわず2塁を目指したのである。
また試合後のコメントで周東佑京はこのようなことを語っている。
「この場面で絶対にやってはいけないことだけを確認した。」
詳細は語られていないがおそらく「絶対にやってはいけないこと」とは、
牽制死
バッテリーエラーなどの際に2塁ランナーの動きを確認せず動くこと
ライナーやフライによるダブルプレー
このあたりであろう。
1、牽制への注意は当然であるが、WBCのような国際大会では日本の審判なら反則とされる牽制球でもペナルティとならないケースが散見されるため、国内リーグでプレーしている時よりも注意することが必要である。
2については2013年のWBCで、内川聖一選手が1・2塁間で挟殺されたプレーを思い出していだたきたい。当時のプレーではダブルスチールを試みたものの2塁ランナーの自重に気づくのが一步遅れそのまま挟殺されたものであった。今回のメキシコ戦のこの場面でダブルスチールは考えにくいものの、ワイルドピッチやパスボールなどのバッテリエラーによって同様の状況が発生することも頭に入れておかなければいけない場面であった。
そして今回実際に起こったプレーに大いに関わるのが3。野手に打球をノーバウンドで捕球され、ランナーが戻れずダブルプレーとなることは絶対に避けなければいけない。そうなれば押せ押せムードから一気に配色濃厚ムードに転落である。
周東佑京は村上宗隆の打球が上がった瞬間に、左中間のあの位置であの体制でノーバウンドで捕球されてたとしても、自分がどの位置にいれば戻れるのかを瞬時に判断した。一方で、外野手が捕球できなかった場合には一気に本塁を狙うために、どの位置まで進んでおくべきかも判断した。そして、外野手が打球に触れるか触れないか明確に判断できる瞬間に、自分がどの位置にいるべきなのかを計算した。
周東はその時にその位置にいるために、明確に打球が抜けるかを目視で判断できるまでは8割程度の力で2塁へ向かっている。打球が抜けた瞬間にギアを一段上げアクセル全開にした。
もう一度動画を見ていただきたい。以下の過程がよくわかるはずだ。
村上宗隆の打球が左中間へ上がる。
↓
大谷翔平はサイドステップで3塁方向へ・周東佑京は8割程度の速さで2塁へ向かう
↓
打球がフェンスに直撃したことを目視した2人の走者はほぼ同時のタイミングでアクセル全開に切り替え本塁へ向かう。
https://twitter.com/PrimeVideo_JP/status/1638015775813378048
そもそも周東の足が速いという要素ももちろんあるが、併せて最適なタイミングで最適な位置に自分の体を置くことによって、クロスプレーにさえならないゆとりのあるホームインとなったのだ。
このプレーに限らず、両チーム超一流の力と技がふんだんに堪能できた見事なゲームであった。侍ジャパンが決勝で対峙するのは名実ともに最強軍団。勝利をめざしてはほしいものの、選手たちには頂点の戦いを満喫してほしいものである。