![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/130955263/rectangle_large_type_2_3b6bdeb626ddd9b8d5c279673b1357da.png?width=1200)
Photo by
shigekumasaku
デジタル・バレンタイン 【毎週ショートショートnote 】
今日は僕が「本当のカノジョ」を購入してから、はじめてのバレンタインだ。
「アイちゃん、今日はバレンタインなんだ。僕にくれるチョコはもう用意できてるかい」
モニターの中の彼女がうなずく。その顔は僕の好きなアニメのヒロインが素になっている。
「べ、別にあんたのために用意したんじゃないんだからねっ」
彼女が言った。それは僕の好きな声優の声に、限りなく近かった。
「ちがうだろ。そこはデレだ」
僕は呆れた。
バレンタインの発言パターンは「デレ」に固定したはずだ。
彼女は、いわゆる「ツンデレ」タイプのAIとして販売されていた。カスタマーサポートは「ツン」と「デレ」の頻度はこちらで好きなように調整できる、と言っていたのに。
ー返答をお願いします。
画面に字幕が浮かぶ。
僕はわざとらしくため息をつきながら、机の端に目をやる。そこには細長い箱のバレンタイン・チョコレートがあった。今日の朝、母さんに貰ったやつだ。
僕はそれをひとつ食べて、なんとなくつぶやく。
「ありがとう」
モニターの中から「どういたしまして」が聞こえた。