寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第4回 イタリア・プーリア州篇(4)
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(4)運に見離されたアルベロベッロへの遠い道のり
旅初日、まずは近隣の世界遺産アルベロベッロとその先のロコロトンドへ行こうと決め、バスチケットをスマホから予約する。
写真を見れば、ああ、と分かる人も多いはず。とんがり屋根と白い壁の家で知られるアルベロベッロは世界中のガイドブックに “おとぎの国に迷い込んだようなかわいい家=トゥルッリが並ぶ街” と記される世界遺産界の大御所的存在。
ひとつ先のロコロトンドもまたトゥルッリの街として知られ、ガイドブックには“イタリアの最も美しい村”に加盟するとある。南イタリア旅行者なら外すわけにいかない、という気持ちに駆られた。
バス乗り場は、昨夜バスに乗った駅前の噴水側ロータリーから駅地下通路をくぐった反対側らしい。チケットはあるし、乗り場までは楽勝だろうとのほほんと向かった私は甘かった。
地下通路から出ると十数台もの大型バスがずらり。
行き先表記が一目瞭然の形で停車しているのでなく、道に沿ってはるか彼方まで縦に並ぶバスの行き先を1台ずつ確かめながら進まなくてはならず、目的のバスを見つけた時は発車時刻ギリギリ。
車内はすでに満員で、予約していたにもかかわらず補助席に座るのがやっと。思えばそれがツキに見放されたこの日の始まりだった。
約1時間半後に着いたアルベロベッロの停留所で、私と地元の人らしい若い女性以外の全員が下車。路線図を見ると次の停留所がロコロトンド。
最初にそこまで足を伸ばしたのちアルベロベッロに戻り、街並みの魅力を2つの違いを通して味わおう、と計画したワタクシは旅の上級者だわ……と、ここまでは浅はかにも余裕しゃくしゃく。
ところが、10分と予測したロコロトンドの停留所がなかなかこない。
車窓の家並みはとっくに絶え、オリーブやブドウの畑が延々と続くだけ。15分、20分……。
20分過ぎた時点で、車内に残っていた女性に、ロコロトンドに停まりますよね、と聞くと、けだるそうに耳のイヤホンを外して、うん、と言う。いったん気を鎮めて席にもどるも30分……。
ついに運転中のドライバーににじり寄って、ロコロトンドまだ?と英語で訊くと、もう過ぎた、と言う。
そんな! ブザー押したかと訊かれ、押すもなにもアナウンスがなかった、と言うと、首をすくめられる。
そうか、アナウンスがあると思い込んでいたのはこっちの認識違いか。にしたって2人しかいない乗客のうち1人はどう見たって旅行者ふうなんだから、この先ただひとつの観光地であるロコントンドで降りるだろうと想像して声かけしてくれたって……。
なんて憤慨は世界じゃ通用しない。とにかく次で降ろして、と頼むと、んー、と一瞬考えたのちOKと首を縦にふった。
あの時なぜ、んー、だったのか降りてわかった。戻るバスがないのだ。スカスカの時刻表を必死に確認すると、ロコロトンドを通って聞いたこともない街に向かう便が……約3時間後?
ふと、ベンチからこちらを物珍しそうに見る少年と少女の視線にぶつかる。ここはどこ? と英語で訊いたけど首をふるだけ。
イジワルなのではなく英語が分からない様子。
初めのうちこそ好奇心満々で私を見ていた目もすぐに飽きて再び大音響でヒップホップをだるそうに聴く彼らの傍で懸命に気を鎮め、スマホで場所検索をした結果、マルティーナ・フランカという街の郊外だと判明。
ロコロトンドを通るバスはやはり3時間後……その3時間がどれほど長かったか。若いカップルが去った後のバス待ちには私ひとり。
地の果てに置き去りにされた気分で旅初日の貴重な時間が消えていくのをジリジリ耐えるしかなかった。
旅の醍醐味は道草と言えるのは、そこに思いがけない出会いや発見がある時だけだ。暗くなったらちょっと怖そうな場所でバスを待つだけの時間に耐え、ロコロトンドを通過するバスに乗れたのはすでに午後1時すぎ。
こうなったら意地でもロコロに寄ろうと下車し、時刻表を見ると10分後にアルベロベッロ行きが来て、次は2時間後とある。ロコロは諦めるしかない。でなきゃ今日中にバーリに戻れるかわからない。
こんなことになるのなら初めから余計な計画立てなきゃよかった。
すでに傾き始めた陽を浴びてアルベロベッロ停留所から旧市街地への坂道をとぼとぼ歩く。
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