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林浩治「在日朝鮮人作家列伝」08 金鶴泳(きんかくえい/キムハギョン)(その3)
*ヘッダー写真:晩年の志賀直哉/撮影者不明、1952年/
原典:角川書店『昭和文学全集7巻』1953年2月刊/パブリックドメイン/Naoya Shiga 02.jpg
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金鶴泳──不遇を生きた在日二世作家(その3)
3.文学と出会う
1957年、上京し杉並区内に下宿して浪人生活を送り、翌年、東京大学理科Ⅰ類に入学した。
1959年大学2年のとき志賀直哉の『暗夜行路』と出会った。憂鬱で満たされない思いで下宿の部屋で横になっていて、ふとラジオのスイッチを入れたところ流れてきたのがラジオ小説の「暗夜行路」だった。その声に魅了され小説の『暗夜行路』を読むようになった。
『暗夜行路』は感動を覚えつつ読んだ最初の小説だった。文学は金廣正にとって禁断の果実だった。
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国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1182155
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1960年4月、1948年の韓国「建国」以来の独裁者李承晩(イスンマン)に対する学生を中心にした大規模な抗議活動が起こり政権が倒れた。
いわゆる「四・一九学生革命」だ。
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撮影:不明、1960年4月19日/パブリックドメイン/4.19 혁명.jpg
原典: http://news.khan.co.kr/kh_news/khan_art_view.html?artid=200808181834035&code=210000
この韓国の政変は在日朝鮮人社会にも大きな影響を与え、韓国系の「在日韓国青年同盟」(韓青同)は本国の民主化、祖国の統一を目指すようになった。北側、朝鮮民主主義人民共和国の金日成は「南北連邦制案」を提起し、在日本朝鮮人総聯合会(総連)と在日本大韓民国民団(民団)は対話交流を始めた。
しかし翌1961年5月16日、韓国で中堅将校らによる軍事クーデターが起こり、朴正熙(パクジョンヒ)の独裁的支配が始まった。民主化・統一運動家が次々に逮捕拘束されて、短い「ソウルの春」は終わった。
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原典:(撮影?)キム・ジョンギル- http://photo.chosun.com/site/data/html_dir/2016/06/08/2016060801636.html /
パブリックドメイン/Pak Chŏng-hŭi, 18 May 1961.jpg
民団はすぐに朴正熙の「革命政府」絶対支持の方針を打ち出し、民団内の「在日韓国学生同盟(韓学同)」「韓青同」などの民主派を排除した。韓学同らは反軍政を掲げて民団中央と対峙した。
***
この年金廣正は大学で工業化学科に進級したが、神経衰弱で留年、1年間登校しなかった。
それでも1963年には工学部工業化学科を卒業、東京大学大学院化学系研究科修士課程に進んだ。
この年9月に朴静子と結婚し小金井市に暮らし、翌年6月には長男広文が生まれて小平市に引っ越した。
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*本文の著作権は、著者(林浩治さん)に、版権はけいこう舎にあります。
◆参考文献
◆著者プロフィール
林浩治(はやし・こうじ)
文芸評論家。1956年埼玉県生まれ。元新日本文学会会員。
最新の著書『在日朝鮮人文学 反定立の文学を越えて』(新幹社、2019年11月刊)が、図書新聞などメディアでとりあげられ好評を博す。
ほかに『在日朝鮮人日本語文学論』(1991年、新幹社)、『戦後非日文学論』(1997年、同)、『まにまに』(2001年、新日本文学会出版部)
そのほか、論文多数。
2011年より続けている「愚銀のブログ」http://kghayashi.cocolog-nifty.com/blog/は宝の蔵!