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寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第1回 アイルランド篇 ――(10)

(9)多様性尊重のハートにふれる からのつづき

アイルランド篇――
(10)世界で最も美しいとされる本と図書館(上)


 翌日は今回の旅のハイライトの一つ、トリニティ・カレッジ(ダブリン大学)へ。1592年創設のアイルランド最古の大学で、文学や歴史好きには2つの理由からたまらない名だろう。
まず、なんたって世界中でその評判を知らしめるアイルランド文学の殿堂であること。ウィリアム・バトラー・イェイツバーナード・ショーサミュエル・ベケットらノーベル文学賞受賞者をはじめ、ジェイムズ・ジョイスオスカー・ワイルドなどそうそうたるビッグネームはみなこの大学の卒業生。トリニティ・カレッジを見に行くだけで頭がよくなる気さえする。

出がけに宿のトムが教えてくれたプチ情報によれば、実際、この国では詩人が社会的な尊敬を集め、現大統領マイケル・ヒギンズは優れた詩集を上梓している詩人でもあるそう。

もうひとつ、世界中の旅行者がこの大学めがけてやってくるわけは大学図書館、通称オールドライブラリーに保管される9世紀頃に描かれた福音書の写本でアイルランド最高の宝、世界で最も美しい本とされる『ケルズの書』(一部公開)だ。
宗教史や美術史の知識がない人(私)も、世界のお宝を見に行く的ワクワク感がある。

B&B前の停留所からトリニティ・カレッジ前までバス約30分。
見学は30分刻みの予約制で入場料15ユーロをすでに振り込み済み。10分前には現地到着したけれど入り口にはなんと100m以上の列。大変な人気だ。

見学者の密度は、『ケルズの書』展示室に入っても変わらず、ラッシュ時の電車並み。にもかかわらず、列の先にある展示物が放つ力に息をのんだ。
人や動物、ケルト美術特有の渦巻模様、デザイン文字などのユニークさ、緻密なデザイン、なんという美しさだろう。
1200年前の作品でありながら、今なお私たち人類のはるか高みで普遍の芸術性を放ち続ける存在であることが、知識や経験の乏しい私にも認識できた。いや、知識や経験の多寡を超えて人の心に訴えてくる力というか。
バチカンのシスティーナ礼拝堂や、スペイン北部でアルタミラの洞窟壁画を見た際に感じたのと似た感嘆と畏怖がわきあがる。

トリニティ・カレッジの『ケルズの書』解説コーナー(撮影可エリア)

(11)世界で最も美しいとされる本と図書館(下) へつづく

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