【ブックレビュー】フランク・マコート『アンジェラの灰』 (寺田和代)(「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」第1回 アイルランド篇)
フランク・マコート『アンジェラの灰』上・下、
土屋政雄訳、新潮文庫、2004年1月
アルコール依存症でDV野郎の父と、共依存の母、ネグレクトで命を落とす幼いきょうだい……。
逆境と極貧の家庭で育った著者が、子ども(長男の “ぼく” )の視点でその来歴を綴った自伝的長編小説。児童虐待の坩堝のような記述がつらすぎて、何度も挫折しかけながら読み通さずにいられないのは、そんな暮らしにも息づく詩や歌、シェイクスピア劇に自らの尊厳を保つ、幼い日の著者の“正の走光性”に鼓舞されるから。
明るくリズミカルでドライな筆致も読書の楽しさを後押ししてくれる。
成長した “ぼく” が希望を抱いて新天地に発つ過程にさりげなく挿入された故郷への愛惜に、ついに涙の堰が決壊……
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