寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第2回 ジョージア篇(16)
←(0)旅のはじまり (著者プロフィールあり)
←(15)おいしくて手頃で親切な料理店に毎日通う からのつづき
ジョージア篇(16)
軍用道路を北上しコーカサスの史跡をめぐる
旅の終わりが近づき、ロシア国境の手前、コーカサス山麓にある三位一体(ツミンダ・サメバ)教会行きのバスツアーに参加しよう、と決める。
ぎりぎりまで決めなかったのは、乗り心地がいいとはいえないミニバス片道3〜4時間の道のりに腰痛持ちのBBA体が耐えられるか不安だったし、旅の疲れが溜まりすぎていたら老体に無理をさせず見送ろう、と考えていたから。
幸い大丈夫そうだった。よし行こう。集合時間の12時間前、スマホ画面から「ガイド付き ジョージア軍用道路ワンデーツアー80ラリ(約4500円)」のボタンを押した。
きな臭さにドキッとする軍用道路の名は、1799年にロシア軍が古来の街道を軍用道路に整備したことに由来する。
トビリシから北上し、コーカサス山脈を越えロシアのウラジカフカスに至る約210キロの山岳ハイウェイで「ときに貿易の道、ときに侵略の道として地域の歴史に重要な役割を果たしてきた」とガイドブックにあるけれど、今はすっかり観光道路として世界各国からの旅行者を魅了している。
ツアーは沿道の歴史的スポットに立ち寄りながら、ロシア国境手前10キロほどの街カズベキを経由し、ツアーのハイライトであるゲルゲティ村の三位一体(ツミンダ・サメバ)教会を目指すというもの。
朝9時、集合場所の地下鉄アヴラバリ駅に集まった乗客は、トリポリ大学(リビア)の女子学生2人連れ、シンガポール人夫婦以外は全員ソロで、ドイツ、カズベキスタン、アメリカなどからと私を含めて11人。
3人以上のグループがいないことにひそかに胸をなでおろした。そうでなくてもぎゅうぎゅうのミニバス内でグループの高揚したおしゃべりの傍にいるのは楽じゃないから。
1時間半ほどで到着したジンヴァリ湖というダム湖を見下ろすアナヌリ要塞がすばらしかった。17世紀、この地域を統治していた貴族が北部(ロシア)からの防衛拠点と一族郎党の住まいを兼ねて建てたのだそう。中世後期の特徴的な建築設計には、要塞、2つの教会、鐘楼、牢などが点在する。
中心的な建物は聖母被昇天教会。内部に一部が残るフレスコ画が有名だけど、それ以上に、入り口左側の石壁にびっしりと刻まれた古いジョージア文字が放つ神々しさに圧倒された。映画「インディ・ジョーンズ」に登場しそうな “人類のお宝” 感。
どこの国の文字とも似ていない丸くクタっとしたジョージア文字はユネスコの無形文化遺産にも指定され、「現在使われている文字は、11世紀頃に定着したまるいカーヴが印象的な、他国では見られない独特な書体で、文字の数は33です。戦乱が続くなか、他国の支配下におかれても人々に大切にされてきました」(はらだたけひで『グルジア映画への旅』未知谷)
ガイドさんによれば、書かれているのは要塞が築かれた経緯だそう。いや、なにかもっと人類の深淵な謎や秘密が書かれていそう。
*****
→(次)ジョージア篇(17)5000m級の山々に囲まれた孤高の三位一体教会へ へつづく
←(前)ジョージア篇(15)おいしくて手頃で親切な料理店に毎日通う
←(先頭)ジョージア篇(0)旅のはじまり (著者プロフィールあり)
←寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」マガジン topへ
←寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」総目次へ
*****
このページの文章・写真の著作権は著者(寺田和代)に、版権は「編集工房けいこう舎」にございます。無断転載はご遠慮くださいませ。
もちろん、リンクやご紹介は大歓迎です!!(けいこう舎編集部)