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寺田和代【Book Review】『パオロ・ジョルダーノ『天に焦がれて』飯田亮介訳、早川書房
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「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」
第4回 イタリア・プーリア州篇【Book Review】〔3〕
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◆ パオロ・ジョルダーノ『天に焦がれて』飯田亮介訳、早川書房、2021年11月
よりよく生きたいと願いながら、どうしていいかわからない。それを知ろうとして、とりわけ若い頃は過ちや失敗を重ねてしまう。登場人物たちの10代から20年間に及んだ物語のあちこちで、自分の遠い記憶や忘れたはずの感情の蓋が開き、結末寸前までハラハラ、ヒリヒリしっぱなしだった。
82年イタリア・トリノ生まれの著者は、“孤独”でつながる2つの若い魂のゆくえを描いた小説『素数たちの孤独』でデビューし、2020年にエッセイ『コロナの時代の僕ら』で世界にその名を知らしめた、現代イタリア小説を代表する作家の一人。2018年に本国で刊行された本作でも純粋さを失わず、より高い理想に向かって苦闘する若者の輝きと挫折が描かれている。
物語は、北イタリア・トリノの堅実な家庭で育った語り手女性テレーザが、南イタリア・プーリア州の農村にある祖母の家で3人の同世代少年に出会い、その中の一人ベルンに一目惚れした14歳の夏から始まる。
夏が来るたび農村や少年たちとのつながりを深め、17歳の時とうとうベルンと結ばれる。世俗の価値観や凡庸さとかけ離れた存在感で周りの人を虜にするベルン。一方テレーザは感受性の豊かさと真面目さゆえに器用な生き方ができず、トリノで開けたはずの未来を捨て、ベルンらと農村コミュニティで生きる道を選ぶ。やがて彼らは現代社会の“毒”と無縁の農園経営に乗り出すものの、それぞれが、自他に、神に、自然に誠実であろうとするほど集団内部に矛盾をはらみ、社会ともさまざまな軋轢を生じていく。理想と自由を求め続けた魂が行き着いた場所は……。
一読した時は意外に思えたその場が読後、時間とともに腑に落ちた。彼の輝きに拮抗する場はそこ以外なかったのだろう。そしてヒリヒリさせられっぱなしだった物語が最後の最後に示した希望の大きさに緊張がどっとほどけ、体のすみずみまで温かな血が巡るのを感じた。
彼らの心身をはぐくみ、生きる力になったマッセリアと呼ばれる伝統的な農家での暮らし、樹齢何百年というオリーブ林のいきいきした光景がありありと脳裏に浮かび、いつまでも心に残る。自分とかけ離れた世界で、彼らの仲間の一人となってあの若く痛ましい時代をもう一度生きたような気がする。
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