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林浩治「在日朝鮮人作家列伝」07   李恢成(りかいせい/イ・フェソン)(その7)

↑ NASAのMODIS計画のTerra衛星による2003年5月1日の韓国の衛星画像(*詳しくは文末に)

李恢成(その6)からのつづき
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李 恢成──日本文学に斬り込んだ在日朝鮮人作家のスター(その7)

7.秘密裏に韓国を訪問



 1970年10月、秘密裏に10日間に渡り韓国を訪問。母の故郷慶尚道延日郡などを訪ねた。

自己の半生を描いたモデル小説『地上生活者』では、「宋東奎」として出てくる留学同時代からの盟友の手配で行ったことになっている。
宋東奎は朝青中央副委員長で総連の中央委員の一人だったが、総連の第一副議長である金丙植(金炳植をモデルとした人物)に「帰国命令」を出され、排除されそうになっていた。
金の私兵「ふくろう部隊」を使って拉致されたが、危ういところで逃亡し李恢成である「趙愚哲」と連絡をとっている。

 愚哲は宋東奎の指示に従って韓国に行った。宋東奎は総連を追われたあといつの間にか朝鮮労働党員になっていた。
総連とは別の地下組織に繋がったということで、潜水艦で北朝鮮と行き来していると言う。その彼に「韓国に行ってみないか」と誘われたのだ。自主的平和統一、革命のためだ、と言う。
宋東奎は韓国情報部とも通じていて、いわば二重スパイだが、両者を手玉に取る革命家を自称する合理主義者として登場する。

 モデルとなったのは、のちに在日同胞の生活を考える会を率いた金奎一だと推定される。

 1970年の秘密裏の韓国訪問については、1973年に『群像』に発表した『約束の土地』にも書いているが、その経緯についてはそれほど詳しく描かれていない。
『約束の土地』には在日朝鮮人の組織の仕事を離れた主人公が、引っ越しの過程で遭遇した日本社会との齟齬と在日社会の不条理とが描かれている。
組織からの圧力は真綿で首を絞めるように苦しめる。妻を訪れた女性同盟からの訪問者は遠回しに離婚するように示唆する。

李恢成『約束の土地』講談社文庫版、1977年5月

 
『約束の土地』の発表は、前年に金炳植が追放されているとはいえ思い切った決断だった。命をかけたと言っても過言ではない。

李恢成『約束の土地』1973年

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*ヘッダー写真:NASAのMODIS計画のTerra衛星による2003年5月1日の韓国の衛星画像、パブリックドメイン
撮影:2003年5月1日
出典:NASAの可視地球、https://visibleearth.nasa.gov/images/66392/korea
著者 ジェフ・シュマルツ、NASA/GSFC、MODIS迅速対応チーム
カメラの位置 北緯38度17分49.42秒、東経127度06分58.5秒 OpenStreetMapに基づくKartographerマップ。
ファイル:Korea 2003-05-01 NASA MODIS Terra 250m.jpg

※本文の著作権は、著者(林浩治さん)に、版権けいこう舎にあります。


◆参考文献


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