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贅沢な悩み

「で、結局どうするの?うちに来るの?」

 人生には選択を迫られる場面が必ずある。多くの場合、それは二者択一。2つを天秤のかけてどちらかを選ぶ。AかBか。
 天秤がどちらかに傾けば選ぶことに苦労はしない。だがもし傾かなかったら、あるいは「こういう面ではAだが、こっちの面ではBだな」となったら。
  
 最近この二者択一を迫られることがありました。もともと1つしかなかった選択肢が急に2つになった。悩める時間はほぼない。

 今回は僕が経験した二者択一をお話ししたいと思います。少し長いですがお付き合いしていただけると嬉しいです。もしがあなたがこの状況に置かれたら、どちらを選びますか?
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 3年生6月。理系なので就活か院進かみんな悩む時期でした。が、僕は迷わず就職すること選びました。理由は私の研究室の教授が、私の代が卒業するのと同じタイミングで定年を迎えるため院進が事実上できなかったから。もともと院進するつもりはなかったので特に問題はありませんでした。

 僕は工学系の大学に進学していましたが「技術職」を真っ先に自分の進路の選択肢から排除しました。
 理由は2つ。1つは「研究・開発」と聞くと研究室みたいな閉塞的な場所にずっと閉じ込められると思い、それは嫌だと思ったから。もう1つは、自分は技術者として「一流」の最前線で勝負できるだけのポテンシャルがないと思ったから。技術職は旧帝大の研究をバリバリやっている人たちと同じ土俵で戦わないといけない。そんなところで勝てるわけがないと思っていました。
 業界はメーカーではなく商社を中心に志望しました。もともとビジネスには興味があったし、「ものをつくる(=メーカ)」よりも「作ったものをどう使うか」というところに興味があったので、それが実現できそうな仕事がいいと思っていました。
 でも不安と悩みもありました。主に2つ。1つ目はその業界の職種は営業しかなく文系の「コミュ力おばけ」たちと競争していかなければならないこと。2つ目はせっかく理系の大学に行ったのでそこで学んだ知識や経験を活かしたいが、その場面があるのか。僕は半導体関係を専攻していたのでそれを活かしたいなと思いました。
 調べていくうちに「半導体専門商社」というものがあることを知りました。もしかしたら自分に合ってるのかもしれない。そんなことを考えて申し込みました。

 夏になり選考を通過してインターンシップに参加しました。結果から言うと、自分にとって最高の職であり仕事場でした。
 仕事内容は技術職と営業職の本当に中間。どちらもやるし良いとこどりな感じ。いわゆる「技術営業」という職でした。おまけに半導体の専門的な知識や技術的なアシストが要求される。でも営業ばかりがメインではない。
 専門を生かしながらビジネスもできる。仕事内容としてはまさに自分が求めている最高ものでした。また社員の人も自分と似た性格の人が多く、職場の雰囲気もオープンフラットでとても居心地がよかったです。

 インターンシップ後早期選考が始まり、すぐに内定が出ました。すごく嬉しかったし、もうここに決めてもいいかもと思いました。
 でも就活を始めてからまだその1社しか見ていなかったのでもう少し他の会社を見てから決めたいと思い、保留にさせてもらいました。もしかしたら今後会社を見ていく中でもっといい仕事が見つかるかもしれない。だからもう少し就活したいというのが本音でした。
 先方も内定保留を承諾してくれ「君の決意が固まったタイミングで内定承諾書を出してくれ!期日はないよ!」と言われました。なんていい会社なんだと心の底から思いました。「最高の滑り止め」を確保。

 その後他の会社も色々見ました。総合商社にも興味があったのでそこのインターンシップの選考も受けてみました。
 年が明け1月上旬。書類は通過したもののグループディスカッションで他の学生にマウントを取られまくって萎えたし落ちた。やはり厳しいなと思いました。が、勝てないわけではないなと思い本選考も頑張ってみようと思っていました。内定をもらったところも待ってくれるって言っていたし、連絡をもらったときに何度「期日はいつまでか?」と尋ねても特に言われませんでした。先方としては学生を急かして印象を下げないようにしていたのだと思いますが、私は待ってもらっている身として少し申し訳ない気がありました。でも返答の期日がないなら、本選考も含めて就活をして最終的に6月くらいに決めればいいかーと考えていました。

 1月下旬。テスト期間中も終わり、久しぶりに研究室に顔を出しました。するといきなり私だけ教授に呼ばれました。
 「今就活どんな感じなの?」
 「一応内定もらって他の会社も何個か受けてるところです。」
 「そうか。じゃーいきなりなんだけど院進する気ない?」
ん??どゆこと??大学院ないって話じゃなかったっけ??
 話をよく聞いてみると、どうやら教授の知り合いから「優秀な子がいたらうちで引き取って面倒見るけどどう?」という話が出たようです。それで自分に声がかかったという状況。(自慢ではないですが大学の勉強はかなり頑張って成績は上位です。)
 しかもその受け入れ先は元々私が大学受験のときに第一志望で目指していたところ。運命かと思いました。それに今の研究も正直とても面白くて「大学院があったらもっと研究したかったなー」なんて考えていたので、研究を続けるチャンスある!しかもハイレベルな環境で!とソワソワしました。
「うちの研究室で先方の条件を満たしているのは君だけで、私としても君に行ってほしいと思っている。実際君は技術者としてのポテンシャルを高く持っていると私は評価しているよ。どうかね?」
 まじか。え。どうしよう。院進するつもりなかったのに。
「とりあえず考えさせてください」「わかった。前向きに考えてくれ」

 すごいチャンスが舞い込んできた!悩ましいなー。でも自分の進路が180°変わるからここはしっかり考えて選びたい!

 そんなことを考えていると帰り際電話が。内定をもらった会社からでした。
「最近就活どう?総合商社ダメだったって聞いたんだけど」
「実は今日院進の話をもらいまして、ちょっと悩んでるところなんですよー」
人事の人はこれまで親切にしてもらっていたので、正直に答えました。
「あのさ、真剣に考えてくれる?総合商社ダメだったって聞いたから連絡したのに。君が総合商社受けるっていうから待ってたのに、次は院進と悩んでますって何?」
怒られた。今まですごい優しい感じだったからびっくり。
「先に用件だけ言わせてもらうと、君の内定保留の期限がもうすぐです。だから早くうちに決めてほしいんだけど」

 え??まじ??期日ないって言ってたじゃん。
 確かに企業側からしたら内定保留されてるの困るのはわかる。だからそれ見越して何回も確認したやん。でも何回尋ねてもないって言ってたやん。
いまさらなんで・・・。
「で、結局どうすんの?うち来るの?」
そんなこと言われても今日院進の話もらったばっかだし慎重に考えたいのに。今すぐ決めるの無理なんだけど。
「正直申し訳ないですが、今ここで答えを出すことはできないです」
「わかった。じゃー1週間以内に答えだして電話して」

頭の中がぐちゃぐちゃになりました。いずれは内定先に行くか行かないか決めるときが来ると思っていたが、もっと先だと思ってた。

院進か?就職か?

ここにきて今後の人生を決める岐路に立たされました。期日は1週間。
まず院進・就活のそれぞれの可能性を考えました。
〈大学院〉○プラスポイント ✕マイナスポイント
○研究を続けられハイレベルな環境に身をおける
✕今後どんなキャリアを築けるのか全くイメージできない
✕内定を蹴った場合、二度と受からない可能性あり
〈就職〉
○仕事は自分に合っているし、今後のキャリアもイメージできている
✕これ以上就活はできない

 今後を考えるなら就職を選ぶべき。そっちはどんな仕事をするのかわかっているしそれが自分に合っていると思っているから。これはある意味「安定」した選択肢。
 今しかできないことを取るなら院進を選ぶべき。「自分の今興味のあること」を突き詰めていく。ただ今後どうなるかはわからない。でも「自分の可能性」は広がるかもしれない。これは「挑戦」への選択肢。
 今後のキャリア(=人生設計)がイメージできるかで考えると、就職の場合、今後のキャリアはある程度イメージできている。一方院進の場合、今後のキャリアはほとんどイメージできないが、自分の可能性は広がるかもしれない。
 考えれば考えるほど堂々めぐになりました。天秤にかけても傾かない。どっちの方が自分にとっていいのか全く分かりませんでした。時間だけが過ぎていく。どうしよう。自分はどうしたいんだろう。

 思考を巡らせるうちにもう疲れてきて、結局どっちに転んでも勝ちじゃねと思うようになりました。別にどっちを選んでも自分は納得できるし、そもそもなんて贅沢な悩みなんだろうか。こんな悩みを持てる自分は幸せだ。ならここまで来たら直感を信じるしかない。そう覚悟を決めて選びました。

 俺は大学院に進学する。

今までの人生で一番大きな決断をしました。
院進を選んだ理由は、院進という選択肢が「チャンス」だと思ったから。元々選択肢としてすら存在しなかったものが、自分の努力によって「チャンス」として急に降ってきた。これは何か意味のあることなのかもしれない。ならその「チャンス」に飛び込んでみたい。そう思いました。

 この選択が良かったのか悪かったのかはわかりません。が、今はとてもワクワクしています。これまでの人生で選んできたことは結果論としてすべて「よかった」と思えるものでした。だからこの選択も自分が30歳40歳になったときにはきっと「選んでよかった」と思えるはず。そう信じています。
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ここまで読んでいただきありがとうございました。
これを読んでみて、あなたならどっちを選びますか?

 自分の思考を整理する意味で書き始めたのですが思っていたより大作になってしましました。こういうのってエッセイっていうのかな??文学詳しくないんでわからないけど笑
 天秤にかけて傾かないとき。その決断には勇気がいるものです。でもそれを決断することは何か大きな意味があることだと僕は思います。だし、こんな人生を左右する決断を迫られることってなかなかあることじゃないし。
 そして「就活か院進か」という選択は、理系にいる人ならだれでも通る悩みだと思います。意外とサラッと決める人が多くて自分はびっくりしています。僕ほど特殊なケースはなかなかないし、こんなに悩む人はあまりいないかもしれませんが、悩んでいる人の参考になれば嬉しいです。
 また、読んでくれたあなたになにか発見や共感があれば嬉しいです。

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