緊急避妊薬市販化について2020年10月末に思う事
この10月、内閣府から「緊急避妊薬を薬局で処方箋なしに購入できるよう検討する方針」が打ち出され、各種メディアで報道された。そしてその直後から、ざっくり言えば「緊急避妊薬を避妊手段のひとつだと言う男性を馬鹿にして良いという風潮」が見られるようになった。
非常識な人に対してあえて馬鹿にする事で遠回しに嗜める、あるいは極端な悪例に例えて同様の過ちを起こさないよう注意を促す、そういった伝達手段がある事は否定しない。だが、それらの伝達手段は元となる問題提起について大多数の人が正しい情報を知っている状況になってから使われるべきと筆者は思う。少なくない人達がまだ正しい情報を把握していない段階では、極端な悪例を持ち出したところで「それが何故おかしい事なのか理解されない」からだ。時期尚早の例え話は正しく理解されないまま、ただ混乱の原因になるのみである。
筆者は緊急避妊薬の認知度合いについて、この9月まではその名前ぐらいしか知らないか存在すら知らなかったという比較的関心の低い人々へ急激に存在が知れ渡った状況と見ている。そして緊急避妊薬という言葉を初めて知った人が「緊急避妊薬は一般的な避妊方法には含まれない」という点を正しく認識できるかどうかについては懐疑的だ。もし「初めて知る人でも存在意義と使い方をきちんと伝えれば正しく理解できるはずだ」というなら、この10月に各種メディアを駆け巡った関連ニュースの中で、その存在意義と使い方までをも詳しく添えて報道されたケースが果たして全体の何割あっただろうか。おそらくこの10月に起きた変化は、緊急避妊薬という言葉を知っている人口が増えた反面、存在意義を正しく答えられる人の占める割合は減ったという現象だろう。
新しい参加者が流入し人口が増えたコミュニティにおいて、思い違いや理解不足や誤解をする人がある程度現れる事は決して避けられない。長年緊急避妊薬の市販化に高い関心を持って活動してきた人達からすれば、その必要性を訴え続けてやっと市販化の足掛かりが見えた途端、正しい使い方がわからないどころか下手をすれば緊急避妊薬の存在自体を危ぶませる誤用すらしかねない人々が大挙してきたような状況だろう。それがどれほど恐ろしい事かは心中察するものがある。
だが、そういった人々、つまり「にわか」の存在へどう接すれば良いか、我々はほんの一年前ラグビーワールドカップを通じて好例を見ている。知らないルールは一から教える。ルールを知ってもわからない事があればさらに説明を重ねる。ルールだけでなくラグビーに関する様々な情報を伝えて楽しみ方を知ってもらう。にわかファンを馬鹿にすることなく受け入れて同じファンの一員として導いた結果、ラグビーは大いに盛り上がり古参のファンも大いに喜んだ事だろう。
緊急避妊薬についても同様に考えれば良い。現時点でまだ詳しくもなく誤解していたりもする人々を馬鹿にするのではなく受け入れる。その効果や存在意義を知らない人には一から教える。使い方に限らずなかなか理解の及ばない人には何度でも説明する。緊急避妊薬の情報だけでなくそもそも第一選択としての避妊手段がまず先にある事を伝えて避妊への意識と知識を高めてもらう。理想論ではあるだろうが結果として緊急避妊薬は必要な場面で正しく使われる事になり、これこそが市販化を目指し活動してきた方々の望む結果ではないだろうか。
何より、あのラグビーの盛り上がりを心から喜んだのはファンだけでなくラグビー選手達自身でもあった。緊急避妊薬が正しく理解され適切に使われるようになる未来は、予期せぬ避妊の不備に直面してしまった当事者達にこそ感謝されるはずだ。緊急避妊薬が必要な時に処方箋なしで購入使用できる日がやってきたその時、存在意義と使い方が常識としてどれだけの人々に知れ渡っているか。その日を待ち望み続けた人々のため、いつか必要に迫られるかも知れない人々のため、今こそ基本情報と存在意義を丁寧かつ繰り返し周知する事に徹すべき時と筆者は思う。
緊急避妊薬の処方箋なしでの購入使用の実現を推し進めるすべての活動家へ、拙文ながら捧げる。