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「おまかせコース」について(後編)

前回、前々回に続き「おまかせコース」(12000円)の料理内容についての解説です。
解説すると逆に難しく分かりにくくなってしまうのかもと思い始めていますが、やり始めた事ですし、解説は今回までですのでどうぞお付き合い下さい。


8品目(写真1枚目)
「ヨモギを練り込んだタリオリーニ 自然農菜の花」
こちらはシンプルに藤井ファームさんのヨモギをパスタ生地に練り込み、ソースにも菜の花をたっぷりと使って「春」を表現した一皿です。
ヨモギも菜の花もとても好きな素材でホタルイカと合わせることが多いのですが、今回はあえてホタルイカを使わずに二つの素材だけでパスタにしました。結果、よりほろ苦い春の味覚にフォーカスされたと思います。
ほろ苦いといっても、元々藤井ファームさんの菜の花は柔らかい苦味と甘味があるのが特徴ですので「優しい春」を感じていただけたのではないでしょうか。
もちろんパスタに練り込まれた香り高いヨモギがアクセントになっています。
藤井ファームさんのヨモギと菜の花を使っていなければ、玉ねぎとセロリのソフリット、ドライトマト、アンチョビを使うところですが、藤井ファームさんのお野菜を使うことによって不要となりました。

9品目(写真2枚目)
「鹿児島県産40日熟成黒毛和牛ランプ肉のステーキ」
熟成のプロによってドライエージングを施された牛肉です。
熟成にはドライエージングとウェットエージングがあります。
あまり詳しく説明すると、これもまた長くなってしますので簡単に説明させていただきます。
当店でいう熟成肉とはドライエージングされたものの事を言いますが、これは低温で風に当てながら微生物や菌類の力を借りて長時間、約1週間から2ヶ月冷蔵庫で保存したもののことです。
これによりタンパク質の変性が起こり、肉質の固い赤身肉も柔らかくなります。
そしてアミノ酸が増えることによりうま味も増します。
あと一番の特徴は独特の「熟成香」と呼ばれる香りがしてくることです。
生の状態でも、焼き上がってからでも、いわゆるナッティな、何とも言えない芳醇な香りがします。
肉自体を楽しんでいただくためにシンプルに焼いて、塩胡椒で味付けだけしたものをお召し上がりいただきました。

10品目(写真3枚目)
「うま味パラドックス 100年茶と共に」
一言で言いますと、お茶漬けです。
無農薬で育った藤井ファームさんのお米を出汁で炊き、炊き上がってから白味噌を加えて混ぜ、お茶漬けで食べていただきました。動物性のものは一切使っていません。
人の味覚は、五味と言われる5つからなると言われています。
そして本来、味覚は脳に情報を送るためのものです。
甘味 ー エネルギー
塩み ー ミネラル
うま味 ー タンパク質
酸味 ー 腐敗
苦味 ー 毒物
「美味しい」と思うものは、体に必要であったり、必要とされているもののことが多いのは脳による生命維持活動の一環なのかもしれません。
タンパク質はアミノ酸つまりうま味となり、でんぷんは糖質です。
しかしながら元々肉食ではなかった日本人は野菜やタンパク質を美味しくするために出汁を使うようになり、世界でも類を見ないほどの出汁文化が発達したのではないかと思います。
そこにうま味は存在していないのにうま味を感じる、つまり「うま味パラドックス」が生まれます。
最後の料理はそれを分かりやすく具現化してみました。
合わせたお茶ですが、こちらは100年前の古木から摘んだ茶葉を使った番茶です。
品種改良される前のお茶の木で、室町時代からそのまま続いていると聞きました。
こちらのお茶の木はよく想像するような茶畑のような状態ではなく、山奥の急斜面にぽつんぽつんと点在しています。お茶摘みは毎年ボランディアを募って行い、何とか引き継がれているような状態です。
そんな貴重な茶葉で入れたお茶と、これまた非常に貴重な藤井ファームさんのお米。
長い年月をかけて紡がれてきた食材を味わうことの喜びを感じていただければ嬉しいです。

11品目(写真4枚目)
「ティラミス」
誰もが知る定番のデザートです。
作り方も材料も本当にシンプルですがとっても難しいデザートでもあります。
ちょっとしたクリームの立て具合。パータ・ボンブの加熱具合。
全てが感覚で、しかも美味しくできるポイントが非常に狭く、少しでもずれると思い描いたものと違ってしまう。
それが作る側にとっても魅力なのかもしれません。
ですから食に関して非常に保守的なイタリアにおいても全土で知名度が高く、アレンジの種類も多い、珍しいデザートです。

おまかせコースのお料理についての解説は以上です。
今回はこんな内容でしたが季節やお客さまのご要望などによって内容は変わります。
ですが毎回今僕ができる最高のものをお出しするコースです。
内容が少し分かりづらかったと思いますが、日々様々なことを考えながら料理を作っています。何となくそんな雰囲気が伝わればいいなと思い書かせていただきました。

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