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ヒットのメカニズムと指数関数的成長
現象レベルではヒットのメカニズムは2つのパターンに集約される。個々人の独立的・主体的選択において、多くの人を誘惑誘引するパターンが一つ。もう一つは相関的・社会的選択によって模倣が模倣を呼ぶネットワーク効果である。厳密にはもう一つ、ネットワーク外部性の論理があるのだが、話が紛らわしくなるので、でここでは割愛する。
さて、指数関数的成長であるが。これは独立的・主体的選択パターンから生まれることはあり得ないことに刮目すべきである。見かけ上指数関数的になることは多い。だが、本質的に需要が指数関数的に爆発しているのではないのだ。簡単なこと。もし独立的・主体的選択ならば、その商品を選好する人の上限はハナからほぼ決まっているからである。その浸透上限に向かって浸透していくのだ。ロジスティック曲線等指数関数で表現できる。だが、指数的需要成長ではない。単に浸透が指数関数的なだけである。
相関的・社会的選択のネットワーク効果はまるで違うメカニズムだ。独立的・主体的選択では選ばなかったであろう人が次々に需要者になっていく。もちろん無限の成長などありえないわけで、人口的上限はある。だが浸透上限は事前に決まっているわけではない。浸透上限を探ろうとする人が見ればそれがどんどん時間と共に更新されていくイメージだ。厳密にはランダム型とスケールフリー型で効果は異なるが、いずれにしても間接コミュニケーション(簡単に言えば噂の類)の効果が指数的需要成長の程度を大きく左右する。そして現代では間接コミュニケーションが加速している。このメカニズムが駆動を始めると瞬く間に需要が拡大する。
大ヒットにはほぼ例外なくこのネットワークメカニズムが駆動しているだろう。大ヒットを狙うマーケティングの核は明らかである。模倣、そして模倣が模倣を生む、心理的・社会的メカニズムを創出すること。初期フェーズのユーザーがどう動いてくれるかが第一のカギであり、次に局所的で直接的な周囲集積状況が生まれることが第二のカギであり、そこから大域的で重層的な周囲状況へと発展することが第三のカギである。狙ったマーケティングを行っても常に上手くいくとは限らない。結果は多分に偶然・状況に左右される。だが模倣が模倣を生むメカニズムが駆動しているか否かは、現代においては慎重な定量・定性検証で、かなり早期の段階から検証・追跡可能だ。つまり、後戻り、軌道修正、諦めて次にいく、等の判断を早期に行うことが出来る。シナリオプランニングや長期戦略とも接続可能になる。
新時代のマーケティングのカギがここにある。