電話と黒い洋服
いつものように目を覚ましてからスマホを開くと弟からメールが入っていた。
奥さんが亡くなったそうだ。
彼女は数年前から良くない病気にかかっていた。返信をすると、すぐに弟から電話がかかってきた。弟が泣いていた。奥さんの御両親が朝から来てくれていると言っていた。
僕は電話を切ると仕事に行って、いつものように終わると帰ってきた。何も変わらない。父は死に、母は兄に介護をされて毎日をベットの上で過ごしている。
弟の家では、娘さんを亡くした御両親の想い、お母さんを亡くしたお子さんの想い、奥さんを亡くした弟の想い、そして、なによりも未練がたくさんあっただろう、怖かっただろう、死にたくはなかっただろう、御本人の無念の想いがある。
この先、良いことがあるのだろうか? いつか病気になって、色んな所が痛くなって、悲しくて、哀しくて、毎日、泣くことしかできなくて、そんな日々が必ずやってくる。
何も変わらない日々、退屈な毎日に幸せがあるのかもしれない。
仕事から帰ってきて、タンスからまだ襟元にクリーニングのタグが付いた喪服を取り出した。以前、この服を着た時は火葬場で父親の身体を骨にしたときだった。