【詩】落ちる
落ちていく
巨匠の机からペンが
牛乳の入ったコップが
通学路に咲くツバキの頭が
誰の目にも明らかな悲しみが
本当の悲しみを隠している
靴箱に入れたはずの靴を探した
忘れ物リストチェック済みのものを探した
授業参観で母の姿を探した
なんてことのない日常が
みぞおちに鉛を落している
……。
落下した日はケーキを食べている
ケーキが鉛を溶かすから
そう伝えると恋人は顔を背けて笑った
……。
落ちない
手に汚れたペンの跡が
頼まれた食器の汚れが
苦手な香水の匂いが
嫌いな女のメイクが
……ケーキが食べたい。
わたしはきっと
体重計に映る数字が落ちない