日記2023.08.11-16(下鴨納涼古書まつり編)
京都の夏の風物詩に、下鴨神社の糺の森で開かれる古本市がある。それが、下鴨納涼古書まつりである。
近畿圏の古書店がテントを張って立ち並び、約80万冊の本が新たな持主を待っている。
今年は8月11日から16日までの開催だったが、15日は台風でお休み。
古書まつり編としたものの、実は初日しか行けなかった。
お金の問題もあり、猛暑の影響もあり、台風のせいでもあった。
だが、11日の買い物分で十二分に満足している。
下鴨納涼古書まつりに行くのは、京都に越してきてからの五年で三~四回くらいだろうか。
出町柳で降り、橋を渡って右に曲がり、大鳥居をくぐるという道行きにもだんだんと慣れてきている。
糺の森に近づくにつれて活気づいていく空気も変わっていなかった。
今年の信じがたい猛暑の影響で妻ともども途中で倒れないかどうか心配していたけども、木陰に守られて過ごしやすかった。
購入した本を並べる。
〇ケシ・イムレ『現代東欧文学全集 5 エリジウムの子供たち』
〇ティム・オブライエン『カチアートを追跡して Ⅰ・Ⅱ』
〇エドマンド・ウィルソン『フィンランド駅へ 上・下』
〇アンジェラ・カーター『夜ごとのサーカス』
〇ピエール・ガスカール『けものたち・死者の時』
〇秋山駿『知れざる炎 評伝中原中也』
〇金子光晴『風流尸解記』
〇佐伯彰一『近代日本の自伝』
〇『国文学 解釈と教材の研究 第27巻11号 現代文学・SFの衝撃』
今年はあまりほしい本がないかもな、と何軒かのテントを転々としていたとき、『現代東欧文学全集 5』が目に入った。一冊だけ。揃ではなかった。
恥ずかしながら、こういう一冊との出会いが人生においてなにか大きな影響を及ぼすんじゃないかという期待を抱きがちなので、このままでは手ぶらで帰ってしまうということもあり、手に取りめくり、値段を確認して買うことにした。
一冊決まると、不思議と視界が開けてくる。
古本市でいい買い物をするには、目を慣らさなきゃいけない。
約80万冊から自分がほしいと思える本を見つけるには、視界に入ってくる大量の文字情報を処理する必要があるのだ。
目が慣れていないと、出会いは生まれてこない。
そんなわけで、高橋源一郎が『小説の読み方、書き方、訳し方』で挙げている『カチアートを追跡して』や、高山宏が世界物語体系案でリストに入れている『夜ごとのサーカス』、歴史叙述としてリスト入りしていた『フィンランド駅へ』などが見つかっていく。
僕が歴史小説や自伝に興味を持っていることを知っている妻は『近代日本の自伝』などを教えてくれる。
欲しいと思った本をあらかた買ったあとは、まぁないだろうなぁと思いながらとある本を探していた。
前回の日記にも書いた『群像』での大江健三郎とキニャールの対談で話題にあげられていた作家のものだ。
ピエール・ガスカール。
大江健三郎が初期の短篇と中篇を翻訳出版すべきというほどの作家。
岩波文庫で『けものたち・死者の時』として刊行されてはいたが、絶版。通販サイトで古書価格が約2000円。
それが、帰り道、最後と思って寄ったところにあった。価格も良心的。
こういうことがあるから結局古書まつりはやめられないのだ。