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背中で聴いたハワイ

2年前、母は緩和ケア病棟に入院していた。
コロナ禍のため面会に時間制限があったが、8月初めから一ヶ月ほぼ毎日、私はその病院までバスで通った。

強い日差し、湿度、セミの声…
夏だから暑いに決まってる。だけどそれに拍車をかけるように背後から聞こえてくるのはハワイなBGMだった。

バス停のベンチに一人腰掛け、今日はお母さんとどんな話をしよう、聞いてもらおうと思いながらバスを待つ。背後にあるロッテリアから流れるのはハワイなBGM。

ファーストフード店のハワイ関連のキャンペーンのようだった。

母に会いに行く状況がいつまで続くのか、ずっと続いて欲しい、複雑な気持ちにそのBGMはなんとも滑稽だった

ロコモコ、アボカド、他に何かあったかな?カラフルなハワイの幕があったことは覚えているけれど、内容まで見る余裕はなかった

あれから2年
キャンペーンの横断幕を見る余裕はできたようだ。
というわけで今日はアボカドエビバーガーをセットで買ってきた

ロッテリアで買い物をすること自体何年ぶりだろう。食べ慣れたマックとちがい、新鮮で美味しかった。

お母さんが生きていたら、健康に暮らしていたら、あのとき再婚していなかったらもう少しマシな人生だったんじゃないかって、最近はタラレバな妄想をする余裕もできた

「一度も海外に行ったことがないお母さん、もし今ごろ元気だったら一緒にハワイ旅行なんてのも良かったね」

妄想の母が返事をする
「円安だからダメよ。宮古島のほうが良いわ!」

娘の私に辛い顔をほとんど見せなかった母を思い出すと、笑顔だらけだ。

だから私もこれを書きながら、少しだけ口元が微笑んでいる。ありがとう、お母さん。明日はお母さんの誕生日。私と母、そして2匹の犬と一緒にお祝いだね

いただきまーす!