挑戦する街、ポートランドに恋をした
「人生の片付け祭り」を終えたら、ブルドーザーのような勢いで人生が動き出した
2019年1月末、個人事業主として仕事を始めて半年程経った頃、私は今後の方向性に悩み、途方に暮れていた。「もう一人では立ち直れないかもしれない…」。そう思った私は、勇気を振り絞り、ご無沙汰している知り合いで尊敬する片付けコンサルタントの方にSOSを出した。
すぐに事前ヒアリングの連絡を貰い、現状について話を聴いて貰った。一通り話を聴き終えると、「今のタイミングでなら、きっと役に立てると思う。私ね、残りの人生を片付けにかけてみようと思ってるの。絶対にリバウンドさせないから。」と片付けコンサルタントの方が静かに仰った。「この人がここまで言うのだから、信じてお願いしてみよう」、と即決でお願いすることにした。片付けコンサルタントの方には、「なぜかは分からないんだけど、片付けを終えた人は必ず新しい出会いや変化があって人生が好転するのよ。」とも言われた。こうして、約3ヶ月にわたって、”コンマリメソッド”に則り、”人生の片付け祭り”を始めることとなった。片付け始めた頃は、「私にも片付けのご利益があると良いなぁ…!」位の軽い気持ちだった。
片付け祭りを終えてすぐに今後の方向性が決まった訳ではない。しかし、片付けを終えて1〜2ヶ月の間に、知人から仕事の紹介を受けたり、国際会議への参加が決まる等、様々な変化が現れ始めた。当時、会社員へ戻ることも視野に入れた転職活動も始めていた。いつ内定が出るかも読めないため、2ヶ月先に長期旅行を入れていいものか悩んでいた。以前から気になっていた街、ポートランドで社会起業家に会いに行くスタディーツアーがあることを知り、直感的に惹かれたのだ。「ツアーの料金も決して安くないし、内定早々有給も使えないし…」、とあれこれ不安が頭を過った。最後は、夫の「行ってみたら」という言葉に背中を押して貰い、「えいやっ!」と勢いで申し込んだ。
2年経っても、忘れられないご飯
初めてのポートランド訪問で、私に最も大きな影響を与えてくれたのは、Able Farms PDX(エイブルファーム PDX)のMegan(ミーガン、トップ画像左)さんとの出会いだ。ツアー最終日、元々お昼を頂く予定だった別の農園でのランチが先方の事情でキャンセルに。急遽、ミーガンさんの農園にお世話になることになった、と後で知った。
ミーガンさんは、ポートランド郊外で農園経営する農園主兼シェフ兼ソムリエという多才な方だ。彼女の農園に着くと、まずりんごの木が生い茂っており、「この辺りは、夏休みに近所の子ども達のサーマースクールのために開放してるのよ。」と話しながら私達を出迎えてくれた。彼女の農園に足を踏み入れた瞬間から、自分の中の童心がむくむくと湧き上がってくる。ハイジのように駆け出したい気分だ。
ポートランドのダウンタウンにあるレストランは、地産地消を大切にしている店も多いと、レストランスタッフから聞いていた。ミーガンさんも、農園経営にあたって、他の地元の生産者と助け合い、”顔の見える消費”を大切にしながら日々野菜や果物、家畜と向き合っている。
しばらく歩くと、農園のど真ん中に広がるブルーシートが目に止まった。「そのシートをゆっくり、そおっと、どかして欲しいの。」とミーガンさん。ブルーシートをはがすと、藁でできたテーブルと椅子が現れたのだ。
その日は、少し前まで雨が降っていたため、濡れないようにとブルーシートをかけてくれていた。麦に囲まれながら、藁でできたテーブルと椅子のセットでお昼ご飯!!藁のテーブルセットを目の前にして、遠足に来た小学生のように、心が踊る。「手作りのパン、フェンネルの炭火焼、チキンのグリル、大麦ときのこのサラダ、ケールとチーズのサラダ、チェリー。全部、私の畑で育てた食材を、今朝収穫して作ったのよ。」とミーガンさんがお料理の簡単な説明をしてくれた後、ツアーメンバーと早速、いただきます。
食材の持ち味を大切にした、シンプルな調理方法と味付け。一口、また一口とお料理を口に運ぶ度に、有り難さが込み上げる。噛みしめる度に、作り手ミーガンさんの食材への愛、食べ手に向ける愛がひしひしと伝わってくる。なぜそんなことを感じたのか、今振り返っても理由はわからない。しかし、当時、「あなたは、何者かになろうとしなくても良い。そのままの自分で良いのよ。」と、ミーガンさんが料理を通して、丸ごと自分を受け止めてくれたように感じた。自分でも気付いていなかった心の奥のしこりがほぐれて、心が柔らかくなる感覚。初めて訪問するポートランドに来て、張り詰めていた心の糸がプツンと切れ、優しい気持ちになっていく。ミーガンさんのご飯の力と自然の力も借りて、ツアーの参加メンバー同士の心理的距離もグッと近くなり、会話もこれまでの食事より弾む。漸くメンバーと打ち解けられた気がした。また、普段、チェーン店のスーパーで食材を購入することが殆どという私は、ご飯を食べる時、食材一つ一つがどこから来たか、どんな風に育てられて自分の手元に運ばれてきたのか、全然気に留めることがなかったな、と反省もした。同時に、「人間は、本当に食べるモノでつくられるんだな。もっと1回毎の食事を大事にしよう。」と思った。
更に、「この感動をもっと多くの日本人と分かち合いたい」という想いを強く抱いた。ミーガンさんの農園で、初対面同士の人々が笑顔で食事と対話を愉しむイメージがパッと目に浮かんで離れなかった。私は、”自然の中で、地の食材で作られたご飯を囲みながら、対話を愉しむ。素の自分で在り、自分を慈しみ、大切にする時間を過ごす”というコンセプトの企画を、キッチン・ダイアローグと名付け、実現に向けて試行を重ねている。ミーガンさんのご飯、そしてミーガンさん自身の在り方に恋をして、キッチン・ダイアローグ実現のため、3ヶ月経たないうちに、彼女のもとを再訪し、「力を貸して欲しい」と直談判に行ったのが、一番最初の行動だ。
自分の世界を狭めていたのは自分だった
ポートランドの起業家達との交流を経て、「自分の中での1番の変化は?」と聞かれたら、「無意識のうちに自分で自分に枠をはめて、世界を勝手に狭めていたことに気付かされたこと」、と今なら答える。
現地の起業家の話を聴く、直接対話することを通じて、これまで自分自身が”起業”に対して抱いていた印象が少しずつ変わっていった。これまで、起業=苦しい、歯を食いしばって、茨の道を進むようなもの、というイメージが強く、始めるまでの心理的ハードルが高かった。日本で行われているビジネスコンテストや起業塾、セミナーにも参加したものの、苦しくてなかなか次の一歩を踏み出し続けられない自分がいた。勿論、ポートランドの起業家達も壁や課題にぶつかって苦しんでいる時もあったことは承知している。ポートランドが起業家のユートピアだ、と言うつもりはない。ポートランドの起業家達との交流を通して強く印象に残ったことは3点ある。
1)ポートランドの起業家達は、”成功か失敗かという結果ではなく、挑戦すること自体に意義を感じ、挑戦を愉しんでいる。そんな彼らの姿に勇気を貰った。結果ではなく、プロセスも愉しみながら挑戦できる自分なりの方法を模索してみよう、と考えるようになった。
2)先輩起業家が後続の起業家を応援する文化があり、Pay It Forwardの精神を持っている起業家が多い。挑戦を応援し合う文化、姿勢・空気感がカッコイイな、素敵だなと感じた。
3)競合を、競争相手と見るのではなく、仲間として積極的にコラボレーションの機会を創る。(全く競争がない訳ではないと思う。しかし、競争よりも共創、一緒にマーケットをつくっていこうという姿勢が印象に残った。)もしかしたら、私が知らないだけで、日本でも競争よりも共創を優先して行っているスタートアップや起業家もいるかもしれない。
起業家達との対話を通じて、起業の動機も、起業ストーリーも、事業が軌道に乗るまでの試行錯誤も、起業家の数だけ方法があるんだな、と感じた。また、結果にフォーカスし過ぎることなく、私も、”挑戦すること自体をもっと愉しんで、自分なりの挑戦の仕方、スピードで、”事業を創る”ことに再度挑戦したい、と考えるようになった。起業が目的となってしまうのは違うけれど、起業に挑戦することへの心理的ハードルが下がった。ただ、スタディーツアーから2年近く経った今、振り返って気付いた、ポートランドの旅がくれた学び。起業塾やセミナーで聞いた成功事例を鵜呑みにし過ぎて、そのパターンに自分がハマらないからと道半ばで諦めたり、挑戦して失敗したら、”負け組”で社会復帰出来ないのではないか、と失敗を過度に恐れる等、結局は、自分で不必要な枠を自分にはめて、世界を狭めたのだ、と。そして、自分とは異なる背景や生き方を持つ人との出会いをくれたポートランドへの旅が、自分の枠に気が付くキッカケだった。その後、2019年12月、「自身のポートランドでの経験をシェアすることが、誰かの働き方、生き方、暮らしを考え直すキッカケになれば」との想いで、”挑戦する街、ポートランド”というテーマで自主報告会を開催した。報告会が、ポートランドの起業家との出会いが私にくれた勇気をPay It Forwardする機会になっていたら、嬉しく思う。
最後に…
現在、まだキッチン・ダイアローグの完成形は見えないが、農家さんと繋がる、鎌倉でトライアルの朝ごはん屋さんをやってみようという新たなアイディアが出てきたり、小さく試行錯誤を続けている。また、コロナウィルスの影響もあり今すぐには難しいかもしれないが、コロナ前に現地の方と話を進めていた、ポートランドのスタディーツアー企画・実施も時期を見て、再チャレンジしたいと考えている。小さ過ぎる一歩ではあるが、私自身のジタバタ挑戦する姿を発信することで、日本でも”挑戦すること自体を愉しみ、応援し合う文化”を醸成したいと思う。
最後になりますが、個人的な旅の思い出、そして学びを発信する機会、キッカケを下さった、Living Anywhere Commonsさんと新しい働き方LABさんに、感謝!本コンテストに参加しようと思ったことがキッカケで、改めて自分の転機の1つだったポートランドの度について、深く内省、自己対話する機会を持てたことが1番の収穫かもしれない。