見出し画像

東京

カツセマサヒコさんのエッセイを読んで、東京に関するエッセイを私も書きたいとうずうずしていた。
これは、東京出身で、地方にも住んだ私の東京に関するエッセイだ。

▼恋しくなるのは「人」

私は「東京」出身である。

が、地元愛と呼ばれるものは、ほぼない。
一番長く住んでいる今の土地に住んで、7年になる。もちろん素敵な場所はたくさんあるけれど、地方出身の友人や地元大好きな友人に比べると、「この地が一番だ!」というこだわりがない。
誇る郷土料理も、ご当地自慢も、特にない。
そこまでして「自分が生まれ育った土地の素晴らしさを皆に伝えよう!」と思わない。

だから、デンマークの学校で、世界各地で暮らしてきたモーリタニア出身の先生が、「恋しくなるのは『土地』ではなく『人』だ」と言ったとき、たしかにそうだと共感した。

デンマーク留学中にたまに感じた、「日本に帰りたい!」という想いは、「日本にいる家族や友人に会いたい!」という気持ちであったのが、良い例だ。(それか、美味しい卵かけご飯とお味噌汁を食べたい!という想い(笑))

大学時代、別府に住んでいたときも、今、東京に住んでいるときも同じだ。
別府にいたとき恋しかったのは、デンマークや東京にいる友人たちであったし、今、東京にいて恋しいのはデンマーにいる友人たちや別府にいる後輩やお世話になった人たちだ。

▼薄暗い東京と、鮮やかな別府

時はさかのぼって受験生のとき、私はYUIの「TOKYO」という曲をよく聞いていた。
タイトルの通り、地元を出て、上京してきた東京について唄った歌なのだけれど、東京を出ていく自分に重ねて聞いていた。
東京という街と実家から出たくて仕方がなかったのだ。
だから地方の大学を受けまくった。
私はたくさん引っ越しと転校をしてきたから、ひとつの場所に留まるのは苦手だ。早く新しい土地に行きたい。
そう勝手に思っていた。
私には、東京はどこか窮屈だった。
まるで、もやがかかった灰色に包まれたかのように見えていた。

そんな願いが叶って引っ越した別府は、海と山があって、開放感に満ち溢れていた。
青い空、緑の山、白く立ちのぼる温泉の湯気。
そんな自然を見渡すと、すべてが味方してくれるような気がした。

別府では、ほぼ毎日、同じ仲間と過ごしていた。
コンビニでお酒買って、浜辺で呑んで、話して、海入って、バカして。
温泉入って、コンビニでアイスとお酒買って、家でダラダラ映画観てしゃべって。
多くの友人が一人暮らしということも相まって、人間関係が東京のときより密だった。濃厚だった。

でも、ひとりになる空間がなかった。
ひとりで出掛けても、どこかで必ず誰かに会う。
市内唯一のスタバは大学生のたまり場であったし(下手したら教授もいる)、ショッピングセンターは誰かしら買い物をしているかバイトをしている。
隣街の中心街へひとりで出かけても、だいたい、誰かに会う。
それが反対に窮屈だった。
誰にも会わない遠い街へ行きたい、とたびたび思っていた。

▼両義的な街、東京

別府は、知り合いに会うという点で窮屈だったが、東京では、人に会いたければすぐ会えて、会いたくなければひとりになれる。

大学時代の先輩や友人は東京で働いていて、会いたかったらすぐに会える。家族も地元の友人にも会える。コンサートや講演会や色んなコミュニティで、新しい人にも会える。
東京は、人に会いたいと思ったら、すぐ会える街だ。

その一方で、カフェに私がひとりでいても、近くのショッピングセンターや駅ビルで私がひとりで買い物していても、誰にも知っている人には会わない。最寄り駅のスタバでもそうだ。
ひとりランチでも、ひとりカラオケでも、知り合いが働いていたり、うっかり友人カップルと遭遇することもない。
東京は、人に会いたくなければ、とことんひとりになれる街だ。

この街では、人に会いたければすぐ会えて、会いたくなければひとりになれる。
にぎやかで、ざわめいて、他人行儀で、少し孤独。
東京は、そんな両義的な街だ。

▼私はどこへ向かうのか

東京という都会でも、別府という地方でも暮らした私は、どこへ向かうのだろうか。

冒頭で触れたように、ひとつの場所に留まるのは性に合っていないから、東京にずっと暮らしているイメージはない。
海外で暮らしてもいい。

でも、私はまだ人に会いたいと思ったときにすぐ会いたい。
自分や他の人が新しく出会った人と意気投合したとき、それは美しい化学反応みたいで、面白いから。

と同時に、人に会わずにひとりになりたいと思ったら、すぐひとりになりたい。
街のざわめきから逃れ、広い森で森林浴しているみたいだから。
そう、まさに、今カフェでこのエッセイを書いているときように。

相反する側面を楽しみながら、両義的な街、東京で、私は今日も暮らす。

いいなと思ったら応援しよう!

鳥井美沙
サポートしていただいた後に起こること。 1 執筆するために行くカフェで注文するコーヒーがソイラテになる。 2 部屋に飾る花が1輪増える。 3 いつも行く温泉でサウナにも入る。