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The Sauna とは一体何者なのか

"あの"The Saunaに行ってきたという感想回。熱い想いを綴っていたところ気づいたら過去最大のボリュームとなっていた。時間があるときに読んでいただけたら嬉しい。

なぜThe Saunaがアクセスが良いとは言えない場所にあるにも関わらず、連日多くのサウナーが訪れるのか?

その仕掛けについて考察してみたところ、やはりそこには利用者の満足度を高めるための設計が多くなされていた。

本題に入る前に。まず記事を書く上で意識してるのが、僕なりの視点と解釈を加えること。

ファクトの幕の内弁当ならば、山ほど転がっているので価値が低い。情報そのものに希少性を持たせるか、情報に属人性を持たせることでしか価値は作れない。

The Saunaに数年越しの念願の初訪問。

東京から北陸新幹線で長野まで行き、そこから在来線に乗り換え黒姫駅。お世辞にも都心からアクセス抜群ではない。

また周辺には観光名所はない(というより僕が知らないだけかもな)ので、街の集客力を使えない。

つまりThe Sauna自体が目的地(待ち合わせ場所)となるだけの理由(訴求力)が必要。実際、全国のサウナーが平日、休日関係なくThe Saunaを訪れる。

遠いにも関わらず、だ。機能であれば、都内にもハイスペックサウナがたくさんある。

ここから導ける仮説としては「The Saunaは機能だけでなく、"機能以外の何か"を売っているから訴求力が高いのではないか?」ということ。

そこを解き明かしてみる。

機能だけならそれこそ全国各地でハイスペックのサウナがオープンし続けている。ただスペックが高いからといって再訪したい理由にはならない。

「サウナブーム」と言われて久しいが、僕はこれは一過性のものではないと見ている。サウナは人間の本質にアプローチしているので、普遍的な動き。本来のサウナの価値にようやく気づいたのだと思う。

The Saunaの1日は早起きから。

僕は自宅が湘南にあるので、The Saunaまでドアtoドアで約4時間かかる。今回はThe Saunaのみの目的で日帰り。

こういう非効率なコストのかけ方って、現代の効率病の蔓延社会では避けられる。だからこそ、コストがかかる情報には希少性(価値)が出ると考える。

コスト(お金と時間)を情報に変換し、その情報を運用する。情報の価値は変動するので、株式や仮想通貨と似たような感じとして捉えている。

話が逸れたが、The Saunaは「◯◯のついでにサウナに行こう」とか「あっこんなところにサウナがあったんだ」というような"ついで"にはならない。

「The Sauna」という名前の通り、サウナのアイコンを取っている。これは強い。「サウナと言えば?」という質問を100人にしたら2-3割の人はThe Saunaと答えるのではないか。

ネーミングが普遍的なので、流行り廃りもない。誰でも非常に覚えやすい、かつ10年前も10年後も古くならならない。マーケティング観点でも良いネーミングだ。

黒姫駅から3キロ弱。充分徒歩圏内。歩いている途中でふと思った。

これってアクセスのネガティヴポイントが「ようやくたどり着いた」→「サウナを楽しめる状態にしてくれる」というポジティブに転換されるのではないか、と。

マラソン後のコーラが美味しく"感じる"のは、その過程で不足状態になっており美味しく感じられる"状態"になっているから。

普段と全く同じコーラを飲んでも自宅で飲むのとマラソン後に飲むのとでは感じ方が全く変わる。

コカコーラは自社製品のクオリティを高めるよりも、消費者が美味しく感じられる状態を設計する方がコスパが良いのではないかと考える。

つまりThe Saunaに到着した時点で"サウナを楽しめる状態"になっている,

サウナのクオリティを高めるよりも、利用者がサウナをより味わえる状態を設計すること。The Saunaはアクセスの難易度が高いため、この設計になっている。

味覚も幸福感も"感覚"であるので、絶対値ではなく相対値の大きさが設計されていることが重要なのだ。「ようやくありつけた」という感覚が芽生えるので、同じサウナでもありがたみが異なる。

あとは「これだけコストをかけて来たんだから、自分の選択は間違っていなかったバイアス」が起こり得るのではないか、と。

例えば、高級な飲食店と大衆の飲食店では、価格による認知バイアスが発生して評価基準が横並びにはならない。

「これだけ高いんだから美味しいよね」という前提で評価する、かつ「自分の選択を正当化したい」というバイアスによって高級な飲食店ほど高い評価をしがちになる。

横並びで評価するならば、価格を知らない状態で評価する必要がある。The Saunaではできる限り正当化バイアスを取り除いて体感したいと心に決めた。

野尻湖の山道
The Sauna受付

受付に入ってさっそく世界観が広がる。

音楽から世界観の作り込み。アイリッシュの音楽が凄く素敵。こういう世界観の作り込みって大事。ヴィヒタや音楽による演出もワクワクさせてくれる。

受付で予約を伝えて、ポンチョ(500円)をレンタル。水着に着替えてさっそくサウナに向かう。

ユクシ
カクシ

今回はユクシとカクシを2枠連続で予約。サウナを楽しめるよう、コンディショニングもしてきた。ユクシとカクシ各4セットずつ、合計8セット入れた。

まず注目すべきは1つのサウナが6人上限の予約ということ。平日にも関わらず、2枠とも予約枠いっぱい。

この上限を決めるというのは、UX(顧客体験)観点では凄く良い施策。僕はサウナは「たくさん売ることで失うものが大きい」ものだと考える。

集客→利用者増える→体験価値が下がる。つまり集客の代償として、UXが毀損され、やがて集客力が落ちるという"集客のパラドックス"に陥る。

体験価値が下がるというのは、サウナのドアの開閉回数が増えて外気が入り温度が下がったり、水風呂がぬるくなったり、外気浴の椅子が満席になったり、リテラシーの低い人が秩序を乱したりと様々。

なので、売る上限を決めて、顧客平均UXを高めること。これが顧客のファン化に繋がり、集客のためのランニングコストを下げられると考える。

僕がサウナを経営することになっても、「予約上限を決めて、1回の利用人数を絞ることでか顧客平均UXを高める」という点は取り入れたい。

イメージとしては30のUXを10人に提供するよりも、100のUXを3人に提供する。前者だと顧客をファン化できず集客し続けなければならない。

つまり広告のランニングコストが発生する。後者だと顧客をファン化できる確率が高まるので、広告のランニングコストはかからない。

その人たちが友人などを連れてきてくれるので広告が自走化される状態を作れる。(後にコミュニケーションについて記載するが、ここがめちゃくちゃ大事なポイント)

平日は2時間3千円、祝日は3.5千円だが、UXが確保されていることが分かっていれば安い。薄利多売ではなく多利少売は、日本の置かれた環境を鑑みると今後のビジネスモデルとしては不可欠になる。

売上優先して集客してしまうと、顧客平均UXが落ちるので結局は集客力が落ちてしまう。なのでたくさん売りたい、予約いっぱいにしなければならない、という旧来思考は排除したい。

少なく売るから希少性(話題)が生まれて安定して予約が埋まり続けるというのはある。

The Saunaでは1サウナに専属スタッフが付いてくれて、薪ストーブの火加減を調整してくれる。このホスピタリティもUXを高める。薪ストーブの香りって最高だし贅沢感がある。

天井までの高さがポイントで、The Saunaはギリギリまで嵩上げされて体感温度を感じやすい設計になっていた。これはロウリュできるサウナにおいてはめちゃくちゃ重要なポイント。ロウリュの水はお湯であり結構熱かった。

窓の大きさも大事で、できるだけ小さな方が遮光できるのでリラックス効果は高まる。もちろん消防法とか色々なルールをクリアしなければならないんだろうが、ユクシや神戸サウナ&スパのフィンランドサウナのように窓が小さな遮光されたサウナが好きだ。

あとはロングロウリュ。残り30分のタイミングで"仕上げ"のロウリュをスタッフが行ってくれる。これがピークエンドセオリー的な感じで満足度が高まる設計だ。

外気浴中にはアロマタオルを仰いでくれる。やっぱりソフト面(人)なんだよなぁ。外気浴は木陰がポイントで、直射日光が顔に当たってる状態だと眩しくて副交感神経に振り切りにくくなる。

なので、外気浴スペースは木陰が確保できるところから位置を決めていく。なぜなら木は物理的に動かせないから。外気浴スペースを起点に水風呂、そしてサウナの順番で導線設計をしていくこと。

水を川とする場合は川は動かせないので、水風呂起点で導線設計していく。「動かせないもの起点」ということ。サウナから導線設計してしまうと微妙な導線設計になってしまう可能性が出てしまう。

結論を書くと、The Saunaの強さは「人」であり「コミュニケーションツール」であった。顧客体験の設計は人やコミュニケーションなしにしてあり得ない。

サウナの中では年収も学歴も関係ない。そこに居合わせた人と自然と会話が生まれる。「どちらからいらしたんですか?」とそこからお互いの好きなサウナ施設を紹介し合う誰も傷つかない幸せな時間。

今日一緒の回になった方は大阪の「なにわ健康ランド湯〜トピア」をオススメされていた。今度マラソンの関西遠征の際に寄ってみる。

バックグラウンドとか関係なく会話できるサウナは国境をも越えるコミュニケーションツールだと感じた。

川の水風呂。おそらく14-15℃くらい

水風呂もキンキンに冷えており、川の水が心地よい。野尻湖にも入ってみたが、こちらは正直1回入れば十分(笑)。答え合わせしてみてください。

The Saunaにはネリャとコルメという2つの貸切サウナがあり、そこの水風呂は川の水ではく井戸水を使ってるとか。この"少しのプレミア感"で差をつけるって、貸切の特別感(意味)を高める設計。

そしてThe Saunaでは食事にもこだわっている。

名物のラム麻婆

ハンバーガーは11:30-13:30の提供。

ラム麻婆は13:30以降食べれる。ハンバーガーは時間の都合上食べれなかったが、名物のラム麻婆は抜群に美味しくて、お土産に買って帰った。

自分で食べたもの(答え合わせしたあと)なので自信を持ってお土産に帰れる設計。

お土産を失敗すると自分の評価にも関わる。つまり自分のポイントが下がるので失敗できない。レストランでお土産を食べれるため、失敗しないという安心感がお土産の購入トリガーとなる。お土産を使用してもらう、食べてもらう設計は有効そうだ。

この設計により、顧客単価も高められる。また重厚感のあるパッケージはお土産としてデザインされている。実際に5パック入っており、質量もある。ここら辺もしっかり考えて作っているんだなぁと感じた。

ハンバーガーにもラムが使用されており、ラムが選ばれてるのは"香りが強い"食材だからだろう。燻製しかり、ラムしかり、香りが強い食べ物とサウナの相性は良い。

なぜならサウナ後は脳の血流が良くなり五感が鋭くなっている。香りを感じやすい状態になっているからだ。良いサウナ施設って食事にもこだわっている。

案外サウナよりも食事でその施設の良し悪しのリトマス試験紙になる。なぜならトータルでの顧客体験を考えているから。そこまで意識が回っているとサウナに対しても当然ながら意識が回る。

また、「これが食べれる時間は◯◯時まで」という制限も「今しか食べれない」状態を作れる。「いつでも食べれるものを今食べる人はいない」ので、この制限が今食べる理由になる。

サウナに併設されているレストランはお客さんが美味しさを感じやすい状態で迎えられる。つまり同じものを提供したとしてもサウナ後はその商品に対する評価が高まるので、同じ努力でも生み出せる価値が大きくなるのだ。(努力のROIが高い状態)

人間はいつも自分がそれを購入する理由(購買口実)を欲しがっている。それを時間という制限により生み出している。

次回はLAMPに泊まりたい。春夏秋冬でThe Saunaが見せる顔も変わってくるので、雪が積もる冬にも来てみたい。そんな中で夜の星空を見ながら、サウナ後に焚き火できたら最高だろうなぁ。

今回の訪問で感じたこととして、The Saunaには表テーマと裏テーマが存在する。

表テーマとしては「自然の中でサウナを楽しむ」というもの。見ての通り、自然の中でサウナを楽しめるのは非日常であり、ハレとケのハレである。

裏テーマとしては「失われつつあるオフラインコミュニケーションの重要性の問題提起」と解釈した。サウナというコミュニケーションツールにより、今一度オフラインコミュニケーションの重要性を説いている。

このようにThe Saunaはメッセージ性のあるサウナであった。

モノではなくコトを売る。顧客体験、体験価値をサウナというチャネルを通じて売っている。体験価値を売っているコミュニケーションのチャネルであり、プラットフォームだ。

誰か仲良くなりたい人がいたり、関係強化をする上ではThe Saunaはコミュニケーションツールとしてめちゃくちゃオススメ。

ここの価値はサウナという機能だけでなく、コミュニケーションという意味なので、それが選ばれる所以になる。

意味変としてコミュニケーションツールとしてサウナを使えますよ、とお客さんに対して使い方を気づかせてあげる必要がある。

お客さんから「これってコミュニケーションツールに使えるかな」と気づくことはほぼほぼない。提供者側から「使い方を気づかせてあげる」こと。

"あの"The Saunaに行ってきた!と周囲に言いたくなるような訴求力を持っている。

これは行くのにコストがかかるから希少性を持っている情報ということが無意識的に分かっているからであろう。

これはサウナが好きな人たちの共通言語であり、共同幻想(ノリ)があるから成立する。

ここまで良いことばかり書いてきたが、あえて改善点を挙げるとすれば、サウナエリアの世界観の作り込みで、外の世界と切り離された没入感があれば最高のサウナとなるということ。

案外、外の世界が見えたりスタッフの方たちは普段着に近いファッションでPCを使用していたりする。これにより思考が日常に引き戻されてしまうのだ。

ここら辺はディズニーランドを見習ってもらいたい。キャストも完全にコンテンツの一部となり、非日常を演出装置として機能している。

サウナにどっぷり没入でにる世界観を演出できれば最高だなぁと感じた。食事をする場所の世界観の作り込みができているので、サウナの方もできるはず!

帰りの道道中で7月1,2日にあるThe Sauna Fesにも予約した。初めてのThe Saunaの帰りの電車の中でたまたま予約開始となったのは何かの縁。

予約開始から1時間もせず500人の枠が完売していた訴求力には驚かされる。さっそくThe Saunaをコミュニケーションツールとして活用させてもらう。

誰を誘うかは検討中だが、参加してくれた人の体験価値を最大化できるようにUXからスケジュールに落とし込んで行きたい。

今の人たちは忙しいので、答えが分からないものには時間を割いてくれない。つまり、答え(当たり)が分かってるものにしか時間を割いてくれない。

ただ答えを出し過ぎると逆効果になるので、ここら辺の塩梅は考えたい。誰かのコミュニケーションツールとして使ってもらえるようなサウナを将来作りたい。今回のThe Saunaの体験は非常に意味のあるものになった。


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