抱返り渓谷 秋田
秋田県の田沢湖・角館を流れる玉川中流の約10kmの渓谷です。
「抱返り」とは、人がすれ違うのにお互い抱きかかえるように返さなければ通れないほど険しい山道であったことから呼ばれる様になったもので、秋田の耶馬渓とも言われています。
また現在整備されている遊歩道は、昭和38年に全面廃止となった「生保内手押軌道」の軌道敷で、切り出した木材を運び出す軌道ではあったが、上りの動力は空のトロッコを牛が牽いて上り、下りは木材を積んでブレーキのみで下ったそうです。
その軌道敷を歩いてきました。
駐車場より上流の渓谷を望むと、遠くに渓谷の入口にかかる「神の岩橋」が見えます。
全長80mの吊橋で、大正15年に出来た秋田で最も古い吊橋だそうです。
玉川の渓流は、鮮やかな青色をしており、神聖な感じさえしました。
この色は、ずっと上流にある玉川温泉で湧き出る温泉がpH1.2と胃液(pH1.5から2.0)より強く、日本で最も高い酸性を示す温泉であり、その温泉が流入し下流に流れ薄められる過程でアルミニュームの化合物に光が反射して青く見えるそうで、この渓谷付近が最も青いようです。
その渓流を横目に、上流へ歩をすすめるのですが、切り立った崖に張り付くように遊歩道があります。
しばらくすると、玉川へ流れ込む沢を越える橋の先が、トンネルとなっています。
切り立った崖にぽっかり口をあけて、そこに橋がつながっています。
橋の上からではよくわかりませんが、脇から覗くと、ちょっと足がすくむような光景です。
線路が引かれた軌道だったことから、曲がりくねった道には出来なため、このようなトンネルを掘る必要があったのでしょう。
トンネルは素掘りのままで、人がやっと通れるぐらいの大きさです。
2本目のトンネルは痛みが激しかったのか、プレートで補強されていました。
トンネルの先には次のトンネルが続いています。
ここも切り立った崖にトンネルが開いており橋でつながっています。
素掘りのトンネル内部は、堅牢なゴツゴツした岩肌が見られます。
トンネルの中間部が一旦外に出ていますが、崩壊を起こしたのか遊歩道が半分落ちてなくなっていました。
最後のトンネルも素掘りでごつごつした岩肌が見られました。
このトンネルも橋に直接つながっており沢が横切っています。
その沢の上流にはこの渓谷で一番の名所となっている「回顧(みかえり)の滝」があります。
滝の高さは30mほどですが、流量があり迫力満点でした。
この滝の先にも遊歩道は続いていたのですが、山が崩壊し危険なため通行止めとなっていました。
案内などをみると、まだまだ名勝があるようですが、残念です。
実は、この渓谷を先にホントは行きたい、見たいところがあったのです。
「生保内手押軌道」の上流側にショッキングなトンネルがあります。
ある雑誌の表紙にも紹介されている柱状節理の山をくり抜いたトンネルです。
これほど見事に地上に現れている柱状節理も珍しいのに、その岩山をくり抜いているトンネル。
このトンネルが「生保内手押軌道」のトンネルだったのです。
いろんな情報を集めてみたところ、「生保内手押軌道」のトンネルには違いがないのですが、抱返り渓谷から行くのではなく、この軌道の終点側である玉川の上流側の田沢湖駅方面からも簡単にアクセスできるようです。
国指定重要文化財である草彅家住宅の近くより玉川に降りたところにそのトンネルはあるとのことで、玉川沿いを探索しました。
軌道敷だったと思われる開けたところを歩いて、目星をつけていたところにたどり着いたのですが、
それらしいトンネルは見られず、あたりを見回していたら、ありました。
トンネルのてっぺんが木々の間からのぞいていました。
ちょっと斜面を登らないと行けません。
ありました!ありました!
見事な柱状節理にそこをきれいにくり抜いたトンネル。
周りの木々が、ここに人が立ち入らなくってから自由に伸びて自然回帰したようで、秘境っぽさを醸し出しています。
坑口の上から垂れ下がっている木の根でしょうか。雰囲気を作っています。
それに柱状節理が真っ直ぐ垂直に立っており、柱が一本一本鮮明です。
その岩山をトンネルが抜けています。
掘削面も見事な柱状節理が現れています。
トンネル自体しっかりしており、崩れそうな様子もなく、存在を主張し続けることでしょう。
反対側の坑口も、同じように垂直に伸びた柱状節理が並んでおり、きれいにトンネルが掘られている。
この坑口はすぐに沢となっており、その昔は橋梁が続いていたものと思われます。
こんな見事な柱状節理の壁にトンネルを掘ってあるなんて、感動モノです。
何度もトンネルを行ったり来たり、遠くなら眺めたり、近づいて触れてみたり。
このトンネルを見てからでないと死ねないと思っていたぐらい、見たかったトンネル。
秋田は遠いなぁと思っていたのですが、すごいタイミングで近くに来る予定ができてさっさと用事を済ませてやってきました。
いや~素晴らしいトンネルでした。
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