先生をあきらめて学校事務になった僕
将来の夢
僕には小学生の頃から先生になりたいという夢があった。
なぜそう思い始めたのかはうろ覚えだが、人より勉強ができて他人に教えることが好きだからだったと思う。
特に理科が好きだったから自然と「理科の先生になる!」と周りに言い続けてきた。
大学を選ぶ基準も教育学部があることが前提であり、予備校に通いながら日々猛勉強。
念願叶って第一希望の地元国立大学教育学部に合格。
子どもに勉強を教える経験を積むために塾講師のアルバイトも始めた。
教育実習も難なくこなしてきた。
順風満帆な生活、先生になることを疑わずに過ごす学生生活。
大学3年生も後半にさしかかり周りの友人たちはちらほらと教員採用試験の勉強を始めた。
僕も何か行動を起こさねば…ととりあえず参考書を購入してみるが、全くやる気が起きない。
勉強は苦手ではなかった。
ずっと夢みてきた先生になるための勉強なのに全然はかどらない。
なぜだ?僕は先生になりたくて今まで頑張ってきたのではないのか…?
塾講師を経験して子どもと直接関わり成長を見守ることにたしかなやりがいを感じた。
ただ一生を先生として過ごしていくことに漠然とした不安を感じている自分にも気づいた。
「毎日授業準備がちゃんとできるだろうか」
「字が汚いから板書するのは苦手だな」
「わけわからん校則を守らせるために生徒指導するのは苦痛だ」
「友人や家族とのプライベートの時間は確保できるのか」
「やったことない種目の部活動顧問を任されるのは不安だな」
…
馬車馬のごとく働くために生きるのではなく、自分の人生を生きるために働きたい。
就職という現実を目の前にして、初めて自分自身と向き合い、堅く蓋をしていた心の声に気づくことができたのかもしれない。
僕にとって“将来の夢”とは思考を放棄するのにうってつけの言葉だったみたいだ。
“先生になる”というレールに乗ってさえいれば何も考えなくていい。
希望する大学を悩むことも就職先をどうするか悩むこともなく、将来どうなりたいかを考える必要もない。
自分と向き合って考えることに比べたら勉強をすることは楽だった。
先が見えない不安、確固たる目的のない勉強がはかどらなかったのも当然の成り行きである。
霞がかったレールの行く先に立ち止まっていた僕へと転機を与えてくれたささいな出来事があった。
とんとんって事務作業得意だよね
それはアルバイト先の塾で年末勉強特訓を行っていた日の夜。
経費処理のレシートを紙に貼り付ける作業を行っている時だった。
上司「キレイに貼るの上手だし、作業も早いね。事務作業好きなの?」
とんとん「考えたことなかったですけど事務作業好きかもしれないです。パソコンの入力作業も好きですし。」
上司「いつも処理早いからね~。とんとんって事務作業得意だよね。先生めざしているかもしれないけど、学校事務とか向いてるんじゃない?」
とんとん「学校事務…?そんな職もあるんですね!ちょっと調べてみます。」
そして学校事務について調べていくうちにわかったことは、
・公立小中学校事務という採用があること
・各校に1~2人ほど配置されていること
・教員免許などの資格は必要ではないこと
・学校予算や職員の給料関係のお仕事をすること
・なるためには公務員試験に合格しなければならないこと
・学校運営を支える大切な職であること
・担任を持つことはないが、子どもと関わることができること
学校事務の情報は今でさえ調べてもあまりない状況で、僕が検索した当時はもっと情報が少なくてざっくりとした概要しかわからなかった。
ただ、これだけの情報でも十分だった。
子どもと関われる仕事×ライフワークバランスが取れそう×事務作業が好き
全ての歯車が噛み合わさった音がした。
霞がかったレールに立ち止まっていた僕の目の前に新たなレールの分岐点が見えてきた。
正直いってどんな職かの全貌もわかっていないため、遠くまでレールの先を見通すことができなかったけど、この先に僕の求めているものがあると確信していた。
始まる新たな夢への第一歩
それからの日々は怒濤のように過ぎ去っていった。
親に先生になる夢をあきらめたことを伝え、公務員試験の通信制講座を申し込んだ。
理科と教育学ばかり学んできた僕にとって法律や経済学の勉強は非常につらかったが、学校事務になりたい!という目的がはっきりした勉強は毎日10時間でも頑張れた。
何せ通信制講座を申し込んでから試験日までは5ヶ月しかない。0からのスタートなのだから人より勉強をしないと合格なんてできっこない。
一度模試を受けてみたが、成績の伸びはよくなかった…
ただ、試験日までに調整ができれば大丈夫!と自分を奮い立たせてがむしゃらに頑張った。
就職浪人になることを恐れるなら、県庁や市役所などを併願することが一般的だが、学校事務にしか興味がない僕はある県の小中学校事務採用枠一本しか受験しなかった。
今思えば尖りまくりのクレイジーボーイだな…。落ちたらどうするつもりだったんだっけ…?
自分の居住地と違う県を受けることにしており、試験は朝早くから行われるため、前泊をすることに。
実家よりは試験会場の近くに住んでいた姉の家に泊まらせてもらえることになったが、慣れないベッド、暑い部屋、前日の緊張からあまり眠ることができなかった。
翌朝、僕は試験会場で謎の自信を持っていた。
「この会場の誰よりも僕の方が学校事務になりたいと思っている。だから大丈夫。」
そう思っていたら不思議と緊張はしなかった。
試験が始まった。
まずは教養試験。
教養試験は時間との闘いだ。
難しい問題もあったがいつもの実力が出せた。
続いて専門試験。
問題はここからだった。
公務員試験において、専門試験は過去問を勉強して出題傾向を押さえておけばOKという鉄板ルールがある。
もちろん過去問は用意できる分は全て解き、出題傾向は把握してきた。
が、目の前にある経済学分野の出題傾向があきらかに今までと違う…。
付け焼き刃の知識では太刀打ちできない内容になっているではないか。
専門試験において、民法・経済学の配点は非常に大きいため、経済学で得点が取れないのは非常にまずい…。
頭をフル回転させ勉強してきた根本知識を応用させていくしかない。
ここで得点できたら間違いなく他の人より抜きんでることができる!と奮起した。
試験終了。全て出し切った。
合格発表まで約2週間。
なんだかやりきってぼーっと過ごしていたと思う。
結果は…
合格
ただただ嬉しかった。
あまりのうれしさにパソコン画面を写真で撮った。
浮かれているのもつかの間、今度は面接試験がある。
面接対策もやらねば!
通信制ではあったが、模擬面接も行っていただけるとのことだったので、一度模擬面接をやってもらった。
想定される質問に対する回答も準備万端!あとは本番を待つのみ。
面接試験当日、また謎の自信があった。
「この会場の誰よりも僕の方が学校事務になりたいと思っている。だから大丈夫。」
面接試験はあっさりと終わってしまった。
想定外の質問があったりもしたが、学校事務になりたいという強い信念と就職後のイメージトレーニングを行っていたため、難なく面接を終えることができた。
面接会場を出た後は、晴れやかな気持ちだったのを覚えている。
合格発表までそわそわしていたけど、卒論研究も忙しくなってきたのであっという間にその日がやってきた。
結果は…
合格(受験者100人中1位)
嬉しすぎてちょっぴり泣いた。
誰よりも学校事務になりたいと思っていた信念が結果に表れてくれた。
そして今…
今では結婚をして奥さんと子どもと3人で大変だけど楽しい毎日を過ごしている。
独身でいたならば先生として働く毎日もやりがいがあってよかったのかもしれない。
ただ、家庭を持った今となっては定時に帰って家族と過ごす時間、土日には部活ではなく友人と遊んだり、家族旅行にでかけたりする日々に幸せを感じている。
もちろん学校で働くことができ、子どもの成長を見守ることができる職に就けたことも充実感がある。
あの時先生になることをあきらめたのは英断であったと、日々の幸せを感じながら考えているのです。
先生にならなくても学校で働くこと、子どもと関わることができるなんて知らなかった。
学校事務という職の認知度の低さはすさまじく、友人に学校事務を知っている人は誰もいない。
今日も先生という職のブラック労働に不安な人が、学校で働くこと、子どもと関わる仕事をあきらめてしまっているかもしれない。
そんな人たちに伝えたい。
「学校事務って知ってる?」
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