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「翔んで埼玉2」の未解決問題を考察する(番外編)

「さ」狭山茶を飲みながら
「い」いつもの草加せんべい
「た」たくましい深谷ねぎ
「ま」まだまだ沢山あるから

これは、前回の記事での言及した、はなわ氏によるあまりにも秀逸な「翔んで埼玉2」のテーマ曲「さきほこれ埼玉」の後半の歌詞です。
実は前回、映画に残された最後の未解決問題としてこの歌を取り上げたのですが、かの記事をご覧になった方々の中には
「この後半の部分もかなり謎が多いと思われるが、なぜ取り上げなかったのか?」
と感じられた方も多かったと思われます。

実は、この箇所に秘められた謎の存在は私は十分認識しておりました。にもかかわらず前回そこまで言及しなかったのは、かの時点ではこの謎を解明できなかったことに尽きると言えます。そう、モヘンジョダロの遺跡群やナスカの地上絵のごとく、我々現代の人類にとってどうしても解決できない謎というのはあるものです。

「さ」の狭山茶は良いのです。しかし、「い」のいつもの、はまずいのです。なんとなればここに形容詞が許されるのであれば、後ろはなんでもありになってしまいます。いつもの十万石まんじゅうでも、いつもの越谷阿波おどりでも良いのです。なぜ、いつもの草加せんべいなのか。
次の「たくましい深谷ねぎ」も同様です。確かにたくましいかもしれませんが、その形容はネギの美味しい特質を的確に表現しているものとは必ずしも言えません。たくましい行田タワーの方がより実感に基づいていると言えます。

そして、「狭山茶を飲みながらいつもの草加せんべい」というフレーズの不自然さも指摘しなければなりません。〜ながら、という並列のアクションを示す副助詞は後ろに動詞が来るべしとの言語学のルールに則れば、ここは動詞が省略されている、つまり「狭山茶を飲みながら、草加せんべいを食べる」との意図であると読み取れましょう。

しかし、皆様も試してみて下さい。まずお茶を口に含み、それを飲みながらせんべいを食べるなどという芸当が果たしてできるでしょうか。
そう、ここは正しくは「草加せんべいを食べながら狭山茶を飲む」でなければなりません。ここでなぜあえて逆転させてしまったのか、そこまでして草加せんべいと狭山茶にこだわる理由は何かあったのか。
そうした2点の謎について、私は全く解決の糸口すらつかめないままでおりました。

しかしその謎は先日、あっけなく解決の目を見ることができたのです。本日はそのご報告をさせていただこうと、ここに三ヶ月ぶりにペンを持った次第です。

話は一ヶ月前に遡ります。
その日、私は青梅マラソンという都内屈指のマラソン大会に出走しておりました。円谷幸吉さんと一緒に走ろう!との謳い文句にてスタートしたこの大会は今年でなんと56回目。地元の方々による応援の出店なども沢山出店しており、青梅市民に深く根付いているイベントであることは周目の一致するところです。
私はその日大会を終え、沢山の出店が連なる賑やかな駅前通りを駅に向かって歩いていたのですが、そこでふと、地元の上品な御婦人二人組に声をかけられたのです。

「お茶いかがですか」

見ると、紙コップではなく、ちゃんとした湯呑みに注がれた青々とした緑茶がそこにありました。「お茶か〜。ポカリスエットとかの方が良いな」などと罰当たりな思いを巡らしていたのですが、しかし喉が乾いていたこともあり、その湯呑みを手に取って有り難くいただくことにしました。まぁただのお茶だ。ペットボトルのそれとそんなに変わるまい。
しかし次の瞬間、私のそんな思いは一変しました。

「う、美味い!これは何だ!?」

スーパーなどで無料で提供される給茶機のお茶の味を予想していた私にとってこの衝撃はまさに青天の霹靂でした。思わず声に出してしまった私の叫びを耳にした御婦人は、初めて太陽を見たひまわりのような満面の笑みで私にこう答えたのです。

「それは、狭山茶なんですよ」

聞くと、

  • 「色は静岡 香りは宇治よ 味は狭山でとどめさす」という言葉がある通り、狭山茶は味が売りである。

  • 湯呑みの底が見えないくらい濃く淹れたとしても、決して苦くなく旨味が強調されるのが狭山茶の良い所である。

とのことした。私はそこで丁重にお礼を言いその場はそこで帰宅したのですが、帰宅後、あの鮮やかな味がまざまざと思い出されました。

あの感動をふたたび。

確かに私は近年、急須で淹れたお茶というものを飲んでいませんでした。自宅でもこの味を再現できるとあれば、味気ないテレワークライフにもどれほど彩りを添えられるかわかりません。

私は早速狭山茶と急須、そしてはなわ氏の歌の再現のための草加せんべいをアマゾンの翌日配達にて注文しました。さらにその日のうちに近所の100均にて湯のみ茶碗も購入し万全の体制で配送を待ちました。
これほどまでにアマゾンの業者を心待ちにしたことがあったでしょうか。ピンポーン、とチャイムが鳴るやいなや玄関先に飛び出し、奪うように狭山茶と草加せんべいセットを受取り、お湯を沸かして急須で狭山茶を淹れてみました。なんと鮮やかな緑色、そしてなんと心地よい香りなのでしょう。湯のみ茶碗にじっくりとお茶を淹れ、そしてまず草加せんべいを口に入れ、それを飲み込む前に狭山茶を口に含んだのです。

ああ!

久々に飲んだお茶、マラソンのときに御婦人に入れていただいたあの味が、まさにその時鮮やかに復元したと申しても過言ではありません。さいたまの大地に雄渾に根を張るお茶畑の美しい風景が眼前に現れます。
そして草加せんべい。さいたまの土地で取れたお米でさいたまの工場で丹念に作り上げた伝統の味。狭山茶とのその絶妙なマリアージュは、同じ彩の国の土壌で作られたからこそなし得るものなのでしょう。鮮やかなお茶畑に降り注ぐ太陽の恵み、そして遠くに見える飯能の山々、入間川。さいたま全県民が待ち望んだ究極のハーモニーがここにあります。

おそらくはなわ氏は、このマリアージュを多くの県民に味わってもらいたいがために、日本語学的な不自然さも意に介さずこの歌詞を歌に乗せて届けたのでしょう。県民であるにもかかわらず狭山茶を軽視していた私をどうかお許しください。私はこれから、人生を狭山茶と草加せんべいとともに歩んでいく、そのことを高らかにここに誓うものであります。


「ねえホームズ」
「なんだねワトソン君」
「この筆者の狭山茶と草加せんべいの謎は解けた、という言い分はわかったんだけど、『たくましい深谷ねぎ』は何処に行ったんだい?」
「はっはっは。まぁ筆者もあまりの嬉しさについネギを忘れてしまったようだね。気持ちはわからないでもない」
「なるほど、でもホームズ、君はこの謎は解るのかい?」
「はは、まぁこの残された謎は、また筆者が次の回にでも書くだろうからそれまでベーカー街で高みの見物と行くことにしようか。そんなことよりワトソン君、我々もたまにはかのグリーンティーを朝食に合わせてみようじゃないか。意外といけるかもしれないよ。
そう、ちょうど東洋の産物であるアッサムティーが、我がベイクドビーンズやマッシュルームと不思議なマリアージュを醸し出すようにね」


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