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【データ配布】HWSS/ハロウィンショートショート

インスタントな夜

  10月31日、コンビニでおばけと目が合って「インスタントハロウィン」という商品を買った。個装の紅茶のティーパックだ。
 今日は予定のない日曜日。さっそくお湯を沸かして紅茶をいただく。なんて事のない、ふつうに美味しいアールグレイティー。ミルクをたっぷり入れて飲み干した。
 このところ仕事が多忙で週末は家で寝てばかりだった。思い立って、最近の自分の頑張りを労おうと夜はひとり焼肉へ行くことにした。たらふくお肉を食べて、ビールも2杯飲んで大満足。帰り際にもらったいつもの「焼肉屋さんがくれるキャンディ」を握りしめながら、ほろ酔い気分で歩いて帰る。
 するといつのまにか、黒猫が首輪の鈴をチリンチリンと鳴らしながら付いて来ていることに気付く。…あなたはもしかして使い魔?
 もらったキャンディを手にしながら黒猫を従えたわたし。おまけに今日の服装は黒のワンピとコートで黒ずくめだ。なるほど確かに、なんてインスタントなハロウィンの夜。


彼女のアイデンティティ

 わたしは口裂け女だから、マスク常用者だ。コロナ禍より、ずっと前から。
 感染予防のため、みんな年がら年中マスクをしているここ数年、良くも悪くもわたしは目立たなくなった。トレンチコートにマスク姿がトレードマークで、以前は夏なんかに虚な目で突っ立っていたら、道ゆく人はみなギョッとしてくれたものだけど。
 わたしのアイデンティティは、新型コロナが流行れば流行るほど失われていく。
 つまらなくてさみしくて、今年はハロウィンに参加してみることにした。きっとみんなが付ける仮面(マスク)とはまたちょっと違った仮装になると思うけれど、わたし思い切り着飾るつもり。
 きっとこちらから尋ねる前に、あなたきれいね、って誰かに言ってもらえるはず。そしたらもう、私の勝ちね。


星くずキャンディ

 関係ないかと思いきや、神社にもハロウィンはやってくる。正確には迷い込む、招かれざるお客さんが。
 日が暮れて星がひかえめに瞬きだした午後6時過ぎ、境内に6歳と4歳の兄弟が、黒ずくめの格好にマントを羽織ってやってきた。
(これはこれは、神社のすぐ裏に住んでいる山本さん家のご兄弟だな。)
 本殿の前に鎮座する一対の狛犬は冷静に観察していたが、子らはまっすぐ目の前までやってきて屈託なく叫び出した。「とりっくおぁとりーと!とりっくおぁとりーと!」
(これは困った。どうしてくれようか。)
 石なので表情こそ崩していないが狛犬は思案していた。
「とりっくおぁとりーと!とりっくおぁとりーと!」いたずらっぽい声は止まない。
(どれ、ひとつ驚かせてやるか。)
 狛犬は夜空の一等ちいさな星を2つ、兄弟の前に落としてやった。流れ星はキャンディとなり、ふたりの手の中へおさまる。ふたりは目を輝かせ、走って家へと帰って行く。

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