遠野産りんご100%のハードサイダーができるまで
「まだ綺麗なんだよなー。もったいねーなー。」
11月初旬。私たちは遠野市内のとあるりんご畑にお邪魔していました。ちょうど、大きな台風が通った直後の訪問でした。りんごの木の下に広げられた大きなブルーシートには、台風で落下したりんごが山のようにありました。
このりんご畑のオーナーは、80才をこえたフキさんというおばあちゃん。長年遠野でりんご栽培をされてきた、大ベテランです。「そろそろ引退したいんだよなー」と言いつつも、りんごの話を始めると目がキラキラし出します。そんなフキさんが大切に大切に育てたりんご達が、台風でたくさん落下してしまった。何とかできないものだろうか・・・。
「これはもう使い物になんねぇがら、捨てるしかない」
その言葉を聞いて、「ぜひ私たちに使わせてください!」とお伝えしました。ハードサイダー(=りんごのお酒、シードル)造りは、我々にとっては未知の世界です。我々の"小さなチャレンジ"がスタートしました。
落下したりんごをサイダー造りに使うとなると、それなりに雑菌汚染などのリスクを伴います。そのため、まずはりんごの選別からスタートしました。
寒さの中およそ2時間。ひたすらりんごを選別しながら、使えそうなりんごを拾い続けました。フキさんが大切に育てたりんご達。一つたりとも無駄にはしたくありませんでした。2時間かけておよそ100kgのりんごを救い出すことができましたが、それでは到底ハードサイダーの仕込みには足りません。
そこで市内にある松陽園さんに事情を説明したところ、りんごジュースに使えないりんご達を150kgほど販売していただけることに。多田さん、本当にありがとうございました!
こうして合計250kgのりんごを軽バンに積み込み、いつもお世話になっている宮守川上流生産組合さんのところへ。ハードサイダーの仕込みに使いやすいよう、りんごジュースに加工していただきました。(途中何度かエンストしかけました…苦笑)
左がフキさん、右が松陽園さんのりんごジュースです。フキさんのりんごジュースは未熟なりんごも多かったため、爽やかな酸味とドライな飲み口が特徴的。一方松陽園さんのりんごジュースは、しっかりした甘みが感じられ、ジュースとしてもとても美味しかったです。ふじ、ジョナゴールド、ネロ、北斗、王林、シナノゴールドの計6種類のりんごをブレンド。もちろん全て遠野産のりんごです。
特徴が異なる二つのりんごジュースをブレンドし、糖度を微調整して発酵させます。私たちは果実酒の免許を持っていないため、ごく少量の麦汁を加え、発泡酒のカテゴリーでハードサイダーを製造しました。酵母は、初となるワイン酵母を使用。さらにアクセントとして、Amarillo(アマリロ)という柑橘系の香りがするホップをドライホップし、ちょっとだけビールのニュアンスを出してみました。
こうしてたくさんの方に助けていただいて、出来あがったハードサイダーがこちら。
アルコールは5.1%。狙い通り、ドライな飲み口と爽やかな酸味の中に、しっかりとりんご感が感じられます。手前味噌ですが、すごく美味しい。苦味はゼロなので、ビールが苦手な方でもお楽しみいただけると思います。
正直今回のプロジェクトは、諦めかけたことが何度もありました。初めてのハードサイダー醸造、コストの問題、ジュースの加工問題などなど。到底我々だけでは、実現できなかったプロジェクトです。ただ「落下りんごを何とかしたい!」という想いから、多くの方々に助けていただき、一つの製品を完成させるというプロセスを経験できたことは、とても素晴らしい財産となりました。もちろん今年もチャレンジしたいと思います。(一緒にプロジェクトを進めたい!という方はご連絡ください!)
地域にある資源をビールで繋ぎ、光り輝かせる。
生産者が手塩にかけて育てた"大地の恵み"を、醸造家が醸し、消費者に美味しい酒と素晴らしい時間を提供する。
我々が遠野でやりたかったことが、一つ実現できたような気がします。地域に根ざした"コミュニティブルワリー"を目指して。これからも我々の挑戦はつづきます・・・。
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<Special Thanks>
りんご農家・フキさん
松陽園・多田さん
りんご農家・佐々木悦雄さん
カーゴカルト・高橋強さん
宮守川上流生産組合・桶田さん
Next Commons Lab遠野・事務局の皆さん
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◎この記事を書いた人◎
袴田大輔
株式会社遠野醸造 代表取締役
"クラフトビールをもっと身近に、もっと楽しく"
ホップの産地遠野で、新たなビール文化を醸成すべく奮闘中。遠野醸造では、ブルーパブ運営、人事、総務、会計、広報など幅広く担当。何でも屋です。
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