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【岩手県遠野市】 新しい観光キャラクターってどうやって作ればいいの?(第1話)


先日、「遠野市観光PRキャラクター開発に関わる業務」を推進する委託事業者の選定を行い、株式会社富川屋に決定しました。このnoteでも度々キャラクター開発の様子を綴っていただきます。それではどうぞ。
(観光マネジメントボード遠野事務局)



みなさん、こんにちは。岩手県遠野市に暮らし、地域の文化的な魅力をPRする会社「富川屋」の富川岳と申します。普段は遠野の観光施設のブランディングの仕事や、地元企業や自社商品のプロデュースをしながら、個人としては作家として『遠野物語』に関する本を書いています。

公式キャラクターかりんちゃんとくるりんちゃんとの記念撮影


今年で遠野に移住して9年目となりますが、河童やザシキワラシがすぐそこにいる?おもしろき世界(沼)にハマりながら、郷土芸能「しし踊り」の舞手としても活動する、まさに”異界と共に生きる”日々を送っています。

この度、遠野市の観光戦略組織「観光マネジメントボード遠野」の発案で、新たな観光PRキャラクターが開発されることになったのは前回の記事でご紹介されていましたが、弊社はキャラクター開発事業の委託事業者として、一連のプロデュースと発信業務を担当させていただくことになりました。

遠野の人気観光施設「伝承園」の40年ぶりのリニューアルの展示設計・デザインも担当しました。遠野の文化的魅力を楽しく発信できたらと日々考えています。


今回のnoteでは、7月末に開催されたキャラクター開発に関する「第1回市民ワーキング会議」の様子をご紹介しながら、これから始まる一大プロジェクトを推進する上での、姿勢と想いを綴れたらと思います。






夏のある日。会議室に集められた、9人の市民たち




「こんにちはー!暑いですね〜」

「ここの会議室で、あってます?」

7月23日(火)13時、遠野市役所3階の会議室に続々と市民が集まってきた。机の上には河童の人形に『遠野物語』、妖怪のキャラクターが描かれたマップなど、怪しげなものが所狭しと置かれている。

集まったのはいずれも現在遠野に暮らしていたり、遠野出身だったりする9名。老舗和菓子屋、おもちゃ屋、神社の禰宜、旅行会社、地元新聞店など属性はバラバラ。年齢も幅広く、明日から夏休みだという10歳の女の子から、80歳の地域史研究家まで。実に年齢差70歳になる老若男女たち。夏場を迎えて忙しい観光シーズンの日中に、これから一体何が行われるのだろうか。

ここに集った市民は、とある理由で声をかけられた人々。遠野市の未来を占う、重要なプロジェクトのために選ばれた”精鋭”たちだ(と勝手に思っている)。そのプロジェクトとは「遠野市観光PRキャラクター開発事業」である。コロナの影響もあるとはいえ、長年減少傾向になっている遠野市の観光客数を回復させ、また観光消費額をUPさせることが目的の、遠野市の未来を占うプロジェクト"X"だ。


ゆるキャラブームを経て、熊本のくまもんや気仙沼のホヤぼーやを筆頭にまちを盛り上げるキャラクターは全国各地にいて枚挙にいとまがない。遠野にもすでに公式キャラクターがいるものの、それらこれまで愛されてきた既存キャラも含めて、遠野の観光が盛り上がるような、新たなキャラクター活用の方法を模索しなければならない。

おとなり宮城県気仙沼のホヤぼーやは遠野市民の間でも人気


言葉にするとこのようになるのだが、いかんせん簡単な話ではない。というか、かなり難しくないか?というのが最初に話を聞いた際の感覚だった。『遠野物語』にはたくさん異界のモノたちが登場しているため、キャラクター開発をする上ではかなり恵まれた地域だと思うものの、前述のキャラクターブームを何周も経た令和の世において、これから新たにキャラクターをつくることはかなり大変だ。

大人気キャラクター「おぱんちゅうさぎ」。筆者は30代後半男性だが、この可愛さに取り憑かれてはや2年余りになる。このような愛されるキャラクターってどうやって作ればいいのだろう?


これまでPRやブランディングの仕事を生業としたきたプロデューサーとしてこれから求められそうなキャラクターの大きな方向性は考えてみるものの、

「自分たちの知識・知恵だけではなく、市民の力をぜひ借りて進めたい」

そう思い、市民有志に集まってもらって、どんなキャラクターを作ればいいか考えるワーキング形式で進めることにした。今回お声がけしたのは、遠野の歴史文化やキャラクターに精通した人々。この方々と一緒に考えてみたい。そう思い、みなさん忙しい中で集まってもらった。


まず、会のはじめに、集まったメンバーに対して観光マネジメントボード事務局からキャラクター開発に至る経緯が説明された。遠野の中で暮らしていると気づきにくいが、現状様々な課題があり、改めて観光地としての「遠野」の認知度をもっと向上させたい!という熱い思いが伝えられた。

遠野市の観光課題と目指したいゴールを共有する多田陽香事務局長


さらに、富川屋から、事前リサーチの共有ということで、遠野市内にいるキャラクターをまとめたシートが配られた。これから新たにキャラクターをつくるにあたって、現状をまずは押さえておきたい。

「こんなにたくさんキャラクターいたっけ?」
「スキップくん、好き!」
「他にも、○○なキャラクターがいたはずですよ」

個人的には、東北屈指のわさび生産量を誇る宮守町のマスコットキャラクター「ミーくん」の、なんとも言えないシュールさと健気な感じが好きだ。他には遠野高校にもマスコットがいたとは知らなかった。

事前に調査した市内の既存キャラクターたち(一部)
一部を紹介するだけでもこのぐらいいる。調べればきっともっといるはずだ。



これから必要なのは「バイキンマン」…?


「ということで、市民の皆さん、どんなキャラクターを作ればいいでしょう?」

と、そんな無茶振りは流石にできないので、まずは事務局案として富川屋で考えた方向性を紹介させてもらった。ゼロベースからキャラクターの方向性を考えるのは、プロでも難しい。

まず考えたのは、「かりんちゃん」「くるりんちゃん」という既存の公式キャラクターも大切にしたいということ。暑い日も寒い日も、これまで様々な場面で活躍してきてくれた先輩キャラクターをむげにはできない。

その上で新たにキャラクターをつくるのだとしたら、、果たしてどんなキャラクターだといいのだろう…?外見や役割が被っていたら新たに作る必要はないだろう。しばらく考えた結果、既存キャラクターたちも輝くような「ヒール役」を考えてはどうか?ということを思いついた。アンパンマンに対するバイキンマンのような、そんなキャラクターがいれば、既存キャラクターたちも逆に引き立つのではないだろうか。

【事務局案】画像は『それいけ!アンパンマン』公式HPから引用
https://www.anpanman.jp


このアイディアには集まったメンバーも、とても良い反応だった。

「様々なキャラクターのバリエーションがあることで、商品や場面によって使い分けたり、方向性の訴求に幅を持たせられそう」

「ヒール役がいると、"河童がいるから川に近づいちゃいけないよ"といったこどもへの注意喚起としても使えそう(PTAの視点)」

「サンリオのキャラクター・マイメロディにも、乱暴者のような"自称ライバル"のクロミちゃんがいる。その関係性はとてもいいと思う」


さらに付け加えると、『遠野物語』の著者・柳田国男は、"妖怪とは神が零落したもの"と定義している。


これは、もともとは水の神であった河童が落ちぶれて、人にちょっかいを出すような妖怪になってしまった、という類のことを指している。ザシキワラシも家の神さまとして家を守ってくれる存在でありつつも、油断していると、無邪気にいなくなって家を没落させてしまう側面を持つ。『遠野物語』に登場するこうした異界に住むものたちは、こうした神様と妖怪の両方の側面を持っていることが特徴とも言えるだろう。

これを今回のキャラクターに置き換えてみると、既存キャラクターはまさに神様側に配置できる。そして、妖怪側のヒール役のようなキャラクターがいれば、『遠野物語』に登場する異界のものたちの両面性が担保されるし、何より公式キャラクターも輝くのではないだろうか。



様々な意見が飛び交う、あっという間の90分


続いて、ワーキングメンバーの方々に自由に考えを述べてもらうディスカッションの時間へ。今回はキャラクター開発の目的の一つ、『遠野物語』の認知度UPに寄与するためには、どんなキャラクターがいいか?という視点で話してもらった。どれも示唆に富む意見ばかりで、とても参考になった。その一部を紹介したい。

なるほど!と思う意見ばかり。さすが日頃から異界のものたちと共存している皆さん


「妖怪ウォッチやポケモンなど、バリエーション豊富になるといいと思う」

「キャラクターがバリエーション豊富になると、包装紙や小袋などに活用で
きる。全部集めたくなったり、推したくなる」


「遠野にはじめて来たときにオシラサマにハマった。河童以外のキャラクターがいてもいいんじゃないかと感じた」

初回会議に向けて、自主的に遠野市内のキャラクターを整理してノートにまとめてきてくださった方も…!熱意。


「新たなキャラクターは「設定」が大切。性格や誕生日など。バースデーイベントなども盛り上がる。シルバニアファミリーも名前がついて人気になった」


「グッズをつくるとしたら、様々な表情や色ちがいなどがあると、複数購入してくれるのでは?」

「ちいかわが好き。」

「ファンと一緒に育てられる仕組みなども含めて、未完成なキャラクターが愛着が湧くのではないか」

「ずんだもん(合成音声のサービス)では、音声もユーザーに提供している。インターネット上で使いやすい(二次創作を生みやすい)のも現在では重要な視点」

「『遠野物語』原本も重要だが、『遠野物語』を題材にした作品も多い。最終的に認知度UPを目指すのであれば、そうしたものも参考にしたらどうか」

「遠野物語から外れてもいいのであれば、「ホップ」の妖怪がいてもいいんじゃないか」

「設定を加えたり、デザインをチューニングできたり工夫すれば、カリンちゃん、くるりんちゃんにももっと可能性があるんじゃないかとも感じた」

おもちゃ屋さんを営む方ならではのリアリティのある視点
元学芸員さんも参加


最後に、地域史研究家であり、遠野市史編さん委員会委員長の大橋進先生(80歳)からは、『遠野物語』の人気推移を長年見守り続けてきた方ならではの視点を伝えていただいた。

「既存キャラクターを大切にしながら、新たにキャラクターをつくっていくのはいいと思う。昔と今で『遠野物語』の捉えられ方が変化している。今の若い人たちに『遠野物語』に興味を持ってもらえるようなキャラクターになるといい。また、遠野のすみずみを歩いてもらうことにつながるといい(大橋先生)」


【まとめ】 新キャラクター&既存キャラクター。どう全体のストーリーを描く?


<今回のワーキング会議のまとめ>

(1)新たに募集するキャラクターだけでなく、既存キャラのブラッシュアップもできると良い(キャラの性格や設定、誕生日、ストーリーづくり含め。ポテンシャルがまだまだある)

(2)ヒール役のような存在がいると、キャラクターが活きる場面が増える。公式も輝くしファンも広がって良い。

(3)キャラクターにバリエーションがあるとリピート購入や様々な既存商品とのクロスセルにつながりそう。(最終的に遠野物語の認知度UPにつながるのだとすると、様々な妖怪がいても良さそう)

(4)子どもたちはターゲットになるが、購買力のある20代後半あたりに響くと購入単価も上がりそう。


大いに盛り上がり、あっという間の90分だった。『遠野物語』の話者・佐々木喜善は、語り始めると目に炎が灯ったように語ったと言われているが、ワーキングメンバーたちは喜善が乗り移ったかのようだった。

この心強いメンバーと残りあと2回ワーキング会議を開く予定だが、今後がますます楽しみになった。上記に議論についてのまとめを掲載したが、いただいたアイディアを整理して、またどんなキャラクターが必要か考えていきたい。

改めて説明すると、今回の「遠野市観光PRキャラクター開発プロジェクト」は、今年の10月に「公募」でキャラクターを募集することになっている。ぜひ興味を持ってくださった方はドシドシ応募してもらいたい。公募条件や要項の作成は、まさに上記のワーキングを経て作成することになっているため、今回のnoteやこれからも発信される情報をウォッチしてもらえると嬉しい。

「平地人を戦慄せしめよ」(『遠野物語』序文)ならぬ、「旅人を戦慄せしめよ」を目的とした、新たな観光キャラクターづくり。その道はまさに始まったばかり。遠野市民とともに、そして興味を持ってくださった内外の方々ととも、遠野市の新たな観光づくり、またまちづくりを盛り上げていけると嬉しい。

民話の里から、新たなキャラクターを。





今回のnoteは以上です。
引き続きこのアカウントで適宜情報を発信していきますので、ご注目いただけますと嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。


富川岳・文
宮本拓海・写真