広告と販促の違いを冷静に考えよう!
2024年2月からGoogleのアドセンスがクリック収益からインプレッション収益に移行するということで、あらためて広告と販促の違いを考えてみました。
◆ マーケティング業界の金言
約100年前にアメリカの百貨店王であったジョン・ワナメーカーが言った広告界の金言は、今日でも多く引用されています。特に広告メディアとしてインターネットが活用されるようになってから多く語られるようになりました。なので、これがクリック保証型やクリック課金の広告モデルが生まれてきた背景となっているのかなと思われます。
しかし解釈の仕方の問題なのだけど、無駄になっているとされる半分が、本当に無駄かどうかは考える必要ありませんか?
販促的な観点からは、そのインターネット広告がクリックされて自社サイトに来なければ無駄と考えるかもしれませんが、その考え方は販促的にはあっているかもしれませんが、広告的には正解といえないとも考えられます。
◆ 広告の役割とは何なのか?
本来広告というのは、広く告げることが目的であって、広告がユーザーの視界に入る限りは、そこで目的を達成しているとも言えます。
元々、雑誌広告からキャリアをスタートした立場として、広告の役割って販促とは違っていて、製品やサービスをターゲットに認知してもらうことだと思っています。
例としては、以前担当した半導体雑誌広告の話。日本では早くから定期購読や資料請求システムを導入していて、雑誌広告ながら読者プロフィールやレスポンスを把握することができるメディアでした。
読者は電子機器メーカーの開発技術者。雑誌の広告を見て、製品を認知します。でも、その場でアクションを起こすとは限りません。資料請求もしないし、サンプルも取り寄せません。
この広告、販促的な観点から見れば、完全に失敗だったように思えます。果たしてこの観測は正しいのでしょうか?
◆ 実際のアクションは広告接触時ではない
実際にアクションが起きるのは、彼らが製品の試作品開発をする時です。
『この基板上に、CPU、トランジスタ、XXオームの抵抗器を実装して・・・・・』
『抵抗器が必要だ!どれにしよう。』
彼らの頭に浮かぶのは、以前広告で見て認識した製品です。
そこで初めてアクションが起きるのです。広告で見たメーカーや代理店にコンタクトして、サンプルを取り寄せます。
そして試作機でテストされた製品が量産品に採用される確率は約75%と、この確率は過去30年間変わっていません。
販促的な考えでは失敗だった広告。無駄にはなっていません。
この例は雑誌広告の話ですが、インターネット広告のもそのまま当てはまります。クリックされない広告が失敗なのか?必ずしもそうではありません。
◆ なぜクリックされない広告が失敗とみなされるようになったのか?
前述のジョン・ワナメーカーの金言が影響しているとは思いますが、もう一つの大きな原因は、広告費と販促費の区分にあると思います。
インターネット広告が普及して以来、ダイレクトなレスポンスが取りやすくなったため、そのアクションがとれる宣伝方法が注目され、ダイレクトなレスポンスの無い広告が悪とみなされる傾向が強まりました。
その結果として、企業の宣伝費における広告費と販促費の取り合いの中で、目先のレスポンスや売上を把握しやすい販促系の宣伝費に予算が集まり、広告宣伝が全体的に販促よりにシフトした感があります。
しかし現実的には、その場でアクションの発生しない広告にも役割はあるのです。古い書籍にはなりますがDACの立ち上げメンバーであった横山隆治氏が2005年に発行した「インターネット広告革命」で、この辺りの背景がよく説明されていて、クリックされなかったインターネット広告が生み出すポストインプレッション効果について分かりやすい説明があったのを今でも憶えています。
◆ 正しい広告とは?
何が正しいかというのは、目的によって変わってくるのですが、最低限必要なのは、ROIを見ながらPDCAサイクルを回すことだけだと思います。
ジョン・ワナメーカーの言う無駄な部分の広告を無くすことではありません。
広告というのは、それ自体が目的ではなくて、それによって認知向上と売上向上を目指すこと。そして現状の投資額で最大の効果を出すことです。
認知向上が広告の役割で、売上向上が販促の役割。なので、両方必要です。
販促というのは、すでに需要が確定している顕在ニーズに対しての働きかけであり、これは一番売上に近いので、そこへのアプローチは重要です。
しかし、顕在ニーズには限りがあり、そこへのアプローチは獲得単価も上昇していくし、いずれ枯渇します。
対して、まだ顕在化していない潜在的なニーズは無限です。この潜在ニーズを顕在化することが広告の役割です。だからこそ、クリックされない広告も必要とされるのではないでしょうか?
マーケティング目線で考えると、広告の無駄な半分というのは存在しなくて、直接のアクションがオンタイムで起きなくても、認知効果が発生するのは確かです。そしてそのトータルな効果と投資額を考えながらROIを向上させていくことが、マーケティングの最重要な課題でしょう。
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