虹の橋行きバスにのって
ここは虹の橋広場。
天国へかかる虹の橋を渡るため、この世を去った動物たちはここにたどりつきます。
どこまでも青く澄んだ空と、どこまでも美しい緑が続く広場に、3匹のネコがやってきました。
三毛ネコと黒ネコの子ネコと、モフモフの年老いたネコです。
暖かい日差しをうけ、沢山の動物たちが仲良く遊びまわる広場へ、子ネコたちは勢いよく走り出しました。
モフモフネコは、緑の木陰で一休みです。
どれぐらいたったでしょう。
広場に大きな大きな虹の橋がかかり始めました。
子ネコたちは立ち止まり、初めて見る美しい虹の橋に目を丸くしました。
モフモフネコは、真っ青な空にかかる七色の虹の橋を見上げました。
広場にアナウンスが流れます。
「虹の橋行バスがもうすぐ着きます。チケットをお持ちのお客様は、バス停に集まって下さい」
三毛ネコは傍にいた大きなイヌに聞きました。
「虹の橋行きバスってなあに?」
「あの大きな虹の橋を渡って天国へ行くバスだよ」と、大きなイヌは答えました。
「虹の橋を渡るの?」と三毛ネコが聞きました。
大きなイヌは虹の橋を見上げて
「そうだよ。ここにいる子たちはみんな、いつかあの虹の橋を渡るんだ」
三毛ネコがまた聞きます。
「チケットをお持ちのお客様って誰のこと?」
大きなイヌは、三毛ネコが首から虹色のチケットを下げているのを見ました。
「君のことだよ」
黒ネコも聞きました。
「僕はお客様?」
大きなイヌは黒ネコが首から下げている虹色チケットを見ました。
「そう君もだ。君たちが首から下げているのはバスのチケットだよ」
子ネコたちは自分たちが首から下げているチケットを見つけました。
「本当だ。チケットだ。いつから、かけていたんだろう」
大きなイヌは優しく微笑み、子ネコたちに言いました。
「それがあれば虹の橋行バスに乗れる。君たちはこれから、あのきれいな虹の橋を渡りに行くんだ。さぁ行っておいで」
二匹の子ネコは嬉しそうにバス停に向かって走り出しました。
モフモフネコが大きなイヌに聞きました。
「私もお客様?」
大きなイヌは首を横に振りました。
モフモフネコの首にはチケットがありません。
「君はバスには乗れない。チケットがないだろう。ここで私と待っていよう」
「なぜ、私にはチケットがないのですか」
モフモフネコは悲しそうな顔で、大きなイヌに聞きました。
「悲しむことはない。君には大好きな人からもらった名前があるだろう」
モフモフネコは自分を呼ぶ優しい声や甘い匂いを思い出し、胸の奥がジーンとしました。
「いつかその人が、君の名前を書いたチケットを持ってきてくれる。だからそれまで、ここで待っていよう」
モフモフネコはコクンとうなづき、虹の橋行バスに三毛ネコと黒ネコが乗るのを見ていました。
虹の橋行き橋バスには沢山の動物たちが乗っています。
運転手は帽子を被った茶色のイヌです。
三毛ネコと黒ネコは一番前の席に座りました。
美しい虹の橋がよく見える特等席です。
首に大きなリボンを結んだすらりとした白ネコが、子ネコたちの前に立ちました。
「虹の橋行きバスへようこそ。皆さん、虹色のチケットを持っていますね。もし違う色のチケットを持っていたら、私に言って下さい」
三毛ネコと黒ネコは互いのチケットを見てから、周りのチケットをみました。
みんな虹色のチケットです。
バスのドアが閉まりました。
「さぁ出発です。これからみんなで、あの大きな虹の橋を渡りましょう」
白ネコの美しい声がバスの中に響きます。
バスが動き出しました。
窓の下には虹の橋が続いています。
三毛ネコが白ネコに聞きました。
「この橋を渡ってどこへ行くの?」
「みんなで天国へ行くのよ」と白ネコは優しく答えました。
「天国はどこにあるの?」と三毛ネコは聞きました。
「あの広くて高くてきれいな空の向こうにあるんだよ」
「天国はどんな所?」と三毛ネコは聞きました。
白ネコは三毛ネコの顔をのぞきこみ、こう言いました。
「暖かくてふんわりして、ほわほわして、お腹がいっぱいで、ずっとゴロゴロとのどを鳴らしていたいところだよ」
黒ネコが聞きました。
「あの空の向こうへ行ったら、僕たちはどうなるの?」
「君たちはみんな輝く星になるんだよ」と白ネコが答えました。
「どんな星になるの」と黒ネコが聞きました。
白ネコは黒ネコの目をじっと見つめて、こう言いました。
「君は美しい金色の目をしているから、金色のきらめく星になるのよ」
三毛ネコが聞きました。
「私はどんな星になるの」
「君は宝石みたいな緑の目をしているから、緑に光る星になるのよ。青い目の子は青く瞬く星なる。赤い毛の子は赤く輝く星になる。茶色の毛の子はピカピカ光る星になる。白い毛の子はまばゆい光の星になる」と、白ネコは言いました。
「お星さまになったら、僕たちはもう遊べないね」と、黒ネコは残念そうです。
すると運転手の茶色のイヌが
「心配しなくても大丈夫だよ」と優しく優しく言いました。
「天国でゆっくり休んだら、みんな流れ星になるんだ」
「流れ星?」と黒ネコが聞き返しました。
「そう流れ星だ。君たちを愛してくれる人たちに出会うために、君たちは流れ星になって、生まれ変わるんだ」
「僕たちは生まれ変わるの?」と、黒ネコが不思議そうです。
運転手のイヌが言いました。
「そうだ。君たちは幸せになるために生まれ変わるんだ。だから心配はいらない。またどこかで一緒に楽しく遊べるよ」
三毛ネコも黒ネコもほっとして笑いました。
バスの中は、楽しそうな声でいっぱいです。
虹の橋行きバスは虹の橋を越えると、空の向こうへと飛んでいきました。
虹の橋広場は静かです。
気持ちのよい風に吹かれ、緑の草がさわさわとおしゃべりします。
大きなイヌと三毛ネコは一緒にコロコロと寝転んでいました。
その時、大きなイヌの鼻先を柔らかな風がくすぐりました。
クンと嗅いだその匂いは、どこか懐かしいと大きなイヌは思いました。
大きなイヌは頭を高く上げ、一生懸命匂いを嗅ぎました。
立ち上がると広場の先の先の、一点をじっと見つめました。
「僕は行くね」
そういうと、突然、大きなイヌは風のように早く駆け出しました。
長い間待っていた、大好きな人の姿を見つけたのです。
大きなイヌはちぎれんばかりに尻尾を振って、その人に駆け寄りました。
その人は大きなイヌの名前を呼び、頭をポンと軽くたたきました。
大きなイヌはその人の足元に座り、なででもらうのを待ちました。
でもその人は、大きなイヌをなでませんでした。
大きなイヌは「ワン」と鳴きましたが、その人は知らんぷりをしました。
そしてその人は、大きなイヌの首にチケットをかけました。
白いチケットです。
チケットには、大きなイヌの名前が書いてありました。
モフモフネコは、それを見ていた足の短いイヌに尋ねました。
「大きなイヌはチケットをもらったから、あの人と一緒に虹の橋行きバスに乗るのですか」
足の短いイヌが答えました。
「そうだね」
「天国に行くのですね」と、モフモフネコが言いました。
「どうだろう。まだわからないね」と足の短いイヌは寂しそうです。
「どうしてですか」とモフモフネコが聞きました。
「それはね」と言って、足の短いイヌは声を落としました。
「彼はきっとあの人間に捨てられて、殺されてしまったんだよ」
広場に虹の橋がかかり、虹の橋行きバスがやってきました。
今日の乗客はその人と大きなイヌだけです。
運転手は帽子を被った茶色のイヌですが、すらりとした白ネコは乗っていませんでした。
その人と大きなイヌは並んで座っていました。
大きなイヌはその人をじっと見つめていましたが、その人は大きなイヌを見ませんでした。
それでも大きなイヌは幸せでした。
大好きだったその人がそばにいるからです。
バスがゆっくり走り出しました。
その時です。
空に雲が出て、虹の橋が消え始めました。
バスはまだ橋の途中です。
「今日はもう進めません」
運転手のイヌがそう言うと、バスの扉を開けました。
その人はバスから飛び降り、消えかかる虹の橋を走り始めました。
大きなイヌもその人を追いかけて、バスを降りました。
虹の橋はどんどん消えて短くなっていきます。
「早く早く」
大きなイヌはそう言いながら、その人と散歩した時のように一緒に走りました。
でもその人が足を踏み出すたびに、虹の橋は色を失い、消えていきます。
そしてついに、その人の足元から虹の橋が消えました。
「あっ」
その人は橋から真っ逆さまに落ちていきました。
大きなイヌは力一杯叫びました。
「誰か助けて。あの人を助けて」
その人はどんどん落ちていきます。
大きなイヌはその人を助けるため、虹の橋から飛び降りました。
橋から落ちくるその人と大きなイヌを見て、モフモフネコが叫びました。
「大変、どうしよう」
足の短いイヌが言いました。
「大丈夫。待っていなさい。大きなイヌはここに戻ってくる。辛い過去を忘れて、虹色のチケットを持ってね。そうしてみんなと虹の橋行きバスに乗って天国へ行くんだ」
「あの人間はどうなるのですか」
モフモフネコは恐る恐る聞きました。
「あの人間は暗い暗い地の底に落ち、心から反省するまでそこから出てくることはない。出てきたら、自分が苦しめて殺した動物に生まれ変わるんだ」
それを聞いて、モフモフネコは身体をぶるっと震わせました。
光が差し、大きなイヌが向こうから走ってくるのが見えました。
その首には虹色のチケットが光っていました。
暖かい光に包まれながらモフモフネコは元気に、みんなと追いかけっこをしていました。
その時、さぁっと涼しい風がモフモフネコの耳をくすぐりました。
風にのって、懐かしい声がかすかに聞こえた気がしました。
モフモフネコは耳をピンと立て、広場の遠くを見つめました。
声はどんどん近づいてきます。
モフモフネコは尻尾を立てて、風のように早く広場をかけていきました。
長い間待っていた、大好きな人の姿を見つけたのです。
モフモフネコは、尻尾を震わせその人の足元にすり寄りました。
その人はモフモフネコを抱き上げ頬ずりすると、抱きしめてくれました。
モフモフネコはその人の腕の中で、のどをゴロゴロ鳴らしました。
その人はモフモフネコの頭を何度もなでながら、涙を流しました。
モフモフネコはその人の頬に流れる涙を優しく舐めました。
そして、その人はモフモフネコの首に名前が書かれたチケットをかけてくれました。
それは、モフモフネコがしていた首輪と同じ色でした。
どこまでも青く澄んだ空に、虹の橋がかかり始めました。
今日も、もうすぐ虹の橋行きバスが到着します
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?