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一冊で二度味わえる秋の本

秋は欲ばりな季節です。食欲の春も、スポーツの夏も、芸術の冬も、あったっていいのに全部秋が独り占めしています。

暑さが和らいで、金木犀が香り、葉が色づくと、なんだかわくわくして、いろいろなことをやりたくなるのかもしれません。

さて、秋は「読書」が前につくこともありますね。そこで、音楽や絵画についての本なら「読書」と「芸術」どちらも楽しめて一粒で二度美味しいのでは?と思い立ち、そういった本をここに紹介することにしました。秋に負けじと欲ばりなみなさま、ぜひご賞味あれ。

「ピエタ」 大島真寿美

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水の都・ヴェネチアを舞台にした小説です。ヴィヴァルディに音楽を習った教え子の女の人が主人公。ヴィヴァルディは音楽教師であり、作曲家であり、カトリック教会の司祭でした。代表作は「四季」。「ピエタ」は彼が教師として勤めていた音楽学校兼孤児院の名前です。

カタカナはこの辺にして、「ピエタ」の魅力は人間模様です。音楽家や貴族や娼婦、様々な立場の人の生き様、人との交わりが美しいのです。

そして、音楽を心から楽しみ、よろこぶ描写がすきでした。本が音を出すことは無いけれど、そこでどんな音楽が奏でられているか、登場人物の様子から想像できる。そんなに素敵なら、わたしもヴィヴァルディ先生の曲を一つくらい聴いてみようかしらと思ってしまいます。

たとえるなら、あたたかい浅利のお味噌汁みたいな、滋養溢れる小説です。

「ジヴェルニーの食卓」原田マハ

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こちらはオムニバス形式の小説。モネ、マティス、ドガ、セザンヌ。印象派の画家と彼らを取り巻く人々が短篇ごとに描かれています。

タイトルにもなっている「ジヴェルニーの食卓」という短篇は、「睡蓮」で有名なモネのお話。モネの絵を愛する元首相との親交や、一風変わった家族の話が出てきます。

わたしは、友人とか恋人とか愛人とか家族とか、そういうくくりでない、名前のつけられない「むすびつき」にぐっとくる性質なもので、「ジヴェルニーの食卓」ではその一端を垣間見た気がします。

主人公が先生(モネ)を支える姿や、生まれる作品を心待ちにする様、そして日々の生活を段取りよく、軽やかにこなす様子なんかも、読んでいて心地よいです。

絵画についてすこし触れておくと、「印象派」が登場した当時は、芸術の世界で異端とされ、とても肩身の狭い思いをした様子が描かれています。画家と、彼らを支える周囲の人が抱える苦痛も喜びも、身近でリアルに感じられます。読んだ後に美術館へ行ったら、作品を観たときの印象も変わるはず。

原田マハ作品には他にも「たゆたえども沈まず」「サロメ」など、絵画の世界を大河ドラマの如く描いた小説があるので、そちらもおすすめです。

そんな感じで、以上、秋を味わう本の紹介でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。どうぞ稔り豊かな時間を。

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