犬の形
ついさっき、14歳になるうちの犬が死んだ。
2ヶ月ほど前から急激に体調を崩し、今年いっぱいもつかどうかと家族と話していたが思ったよりも早くあっけなく逝ってしまった。
突然の激しい雷雨の中、家のほど近くに落ちた激しい一撃に連れて行かれたのかなぁなどとぼんやりと思った。
生来、動物や他人の生き死にあまり感情移入出来ないタイプの人間なので、酷く悲しんで泣き伏せたり落ち込んで食事も喉を通らないというほどのことは自分の中で起こらず。
ただ、首輪とリードの先、犬小屋の中、開けかけのドッグフード、洗いたての敷物、その先にもう犬はいないのだと思うとなんとも言えない物足りなさのような、物悲しさのようなものはじんわりと感じる。
2代目であった犬は親に大層甘やかされて育ち確実に私のことは同格か、下に見ていた節があった、生意気な弟のようなうるさい犬だった。
我儘で意地汚くてすぐ吠えて怒られると仕返しをしてくるような犬だったが、不思議とあの子の話をするときはいつもみんな楽しい話題にしかならなかったなと思う。
どこかで、人を亡くした人は魂にその人の形の穴が開く、と表現した人がいた。
涙が出るほど悲しむ訳でもなく、気に病むほど落ち込むわけでもないが、たぶん私の中に今、あの子の形に穴が開いているのだろう。
地面を揺らすほどの落雷の中を、あのうるさい吠え声をあげながら空に駆けていったうちの一番下の家族。
お前との14年間はそれなりに楽しかったよ、体の中で一等柔らかくてふわふわだったあの耳にもう二度と触れることがないと思うと少しだけ寂しいな。