IMF World Economic Outlook 第1章(2024/4/16)のメモ
◯ 2023年度の経済成長は、2022年10月時点の予想に対して、米国やその他の先進国では、GDP成長、政府と民間の支出、固定資本投資、雇用、労働参加率において上回ったのに対し、低所得国では全てが予想よりも悪い状況になっており、二極化が進んでいる。(図表1-2)
ーー インフレ率については、世界全体のコアインフレは引き締め的な金融環境と労働需給の小幅な緩和、エネルギー価格の低下等に伴うパススルー効果の希薄化によって、見通し通り低下してきている。(図表1-16)
◯ 労働者の出自をみると、米国とカナダ、ヨーロッパいずれにおいても国外出身者の労働参加が急速に進んでおり、この流入がコロナ後の早期リタイアの流れを受けて人手不足に陥っている各国の労働環境を支えている。(図表1-3)
◯ 足もと(2024年2月頃とイスラエルの在シリアイラン領事館への爆撃の前)のウクライナ紛争や中東情勢悪化を受けたサプライチェーンの影響をみると、コロナ禍におけるサプライチェーンの混乱対比では幾分落ち着いている姿であるほか、コンテナ価格もコロナ禍前よりは小幅に高いものの、コロナ渦中のピークよりは幾分低い。(図表1-4)
ーー 世界貿易量の11%を占める紅海経由の商船が、紅海での商業用船の襲撃を受けてスエズ運河経由から希望峰経由に切り替えたほか、旱魃によるパナマ運河の水量減少を受けた輸送コスト高が顕在しているものの、コロナ禍のピークほどではない。
ーー Global Supply Chain Pressure Index (GSCPI) from NYFED:https://www.newyorkfed.org/research/policy/gscpi#/interactive
◯ 原油価格については、需要面では世界経済成長ペースの鈍化や主要中銀の金融引き締めを受けた原油需要の低下、供給面ではイランや米国、ブラジル、ギニアといった国の生産量増加がOPEC+の原産を上回ったことが寄与した形で、1バレル95ドル(2023.8月)から80.7ドル(2024.2月)まで低下。(図表1-5,図表1-FS-1)
ーー 2024.4月以降は、イスラエルとイランの間で攻撃とその報復が繰り返される中で緊張感が高まり、1バレル86ドルをつける場面もあった。
◯ 労働市場についてみると、相対的にはタイトな需給であることは変わらない一方で、失業率や失業者一人当たりの求人数はピーク時対比悪化していることから、緩やかながら改善しているとの評価。(図表1-7)
ーー 名目賃金の伸びが抑制されていることで、実質賃金(インフレ調整)はコロナ禍と同程度か僅かに下回る程度となっている。一方、賃金分布の最下層では平均を上回るペースで賃金が上昇しており、賃金の分散は縮小傾向。
◯ インフレ要素の分解:パススルー効果/長期インフレ期待/労働需給/残差に分解する手法。(図表1-8)
ーーDao, Mai Chi, Allan Dizioli, Chris Jackson, Pierre-Olivier Gourinchas, and Daniel Leigh. 2023. “Unconventional Fiscal Policy in Times of High Inflation.” IMF Working Paper 23/178, International Monetary Fund, Washington, DC. https://www.imf.org/en/Publications/WP/Issues/2023/ 08/31/Unconventional-Fiscal-Policy-in-Times-of-High -Inflation-537454、Ball, Laurence M., Daniel Leigh, and Prachi Mishra. 2022. “Understanding U.S. Inflation during the COVID-19 Era.” Brookings Papers on Economic Activity (Fall): 1–54. https://www.brookings.edu/projects/brookings-papers-on -economic-activity 参照
◯ 金利が引き締め的な一方で、金利上昇による経済下押しが顕在化していない背景は、①米欧ではインフレ後に金利引き上げを開始したことから実質金利の上昇が緩やかであったこと、②家計がコロナ禍における貯蓄を切り崩したこと(米国のみ既にコロナ禍前の水準まで減少)、③住宅ローンの多くが長期固定金利であることが考えられる。(図表1-9,図表1-10)
◯ 米国の債務残高と債務利払い費が急速に増加している。(図表1-12)
ーー 低所得国の債務利払い負担は、平均で年間国家予算の14.3%。
◯ 貿易量についてみると、2008年ごろからはフレを伴いつつも概ね横ばいのようにみえる。もっとも、米欧陣営と中国ロシア陣営に大別すると、各ブロック内での取引量の減少幅よりも、ブロック間での取引量の減少幅が大きく出ており、短期的には世界の分断の深化による貿易量の減少が想定されうる。(図表1-17,図表1-1-1)
◯ 中長期的な経済成長率の予測は、資本・労働生産性の低下(高齢化による労働参加の減少、弱いビジネス投資、規制等による資源配分の構造的摩擦等)を主因に、小幅に下方修正され、歴史的に見ても低い伸び率を見込んでいる。
ーー 経済成長予測の下振れリスクとしては、地域紛争の激化による新たなコモディティ価格の上昇、粘着的なインフレ、長期的な引き締め環境がもたらす家計や企業、金融機関のデフォルトリスク上昇、中国経済の長期的低迷、国家財務の不健全化と債務ストレス、政府への信頼の低下による機動的な財政支出実施の困難化、地経学的な分断の悪化がもたらす非効率な貿易や資源投入がある。
ーー 上振れリスクとしては、多くの国で選挙が実施さ実施されるため、候補者の票取りアピールを企図した拡張的な財政出動、世界的な供給制約の予想より早い緩和、金融緩和的政策の予想より早い転換・実施、AIによる生産性の向上、規制緩和等による改革
◯ 各コモディティ商品の需要と供給の価格に対する弾力性をみると、一般的な直感を確認した姿。鉱物では代替不可能な銅や亜鉛などの資源は弾力性がゼロに近い一方で、鉛やスズは代替可能なので弾力性はやや高い。食料品では、多年生植物は数年にわたって採集できることから弾力性が相対的に低い一方で、一年生植物は弾力性が高い。
◯ 【以下感想】全体的にみて、海上輸送の価格へのインパクトやサプライチェーンへのインパクトはあったものの、コロナ禍に比べれば落ち着いているという状態を確認できたことと、中長期的な成長の鈍化に資本・労働生産性のの日の鈍化が寄与しているという話は興味深かった。また、労働需給を調査する際に、失業率と失業者あたりの求人数に着目することとIMFの図表1-7の見せ方は盗もうと思った。
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