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意味のない世界

「意味のない世界」と聞いてみなさんは何を思い浮かべるだろうか?

僕の大好きな星野道夫さんはアラスカの自然を度々「意味のない自然」と書いた。

きっと自然とは、それ自体、何の意味も持たないのかも知れない。そして、そこに意味を見いだそうとするのが、私たち人間なのだろうか。

星野道夫

通常、僕たちが生きるという言葉を用いるとき、それは社会的や経済的な活動を指していることが多い。

自分達の行動を振り返ってみると、どっぷりとその世界に浸かっていることがわかる。

このnoteも言わば社会と繋がるために書いている側面もあるわけで、社会的活動と言えるだろう。
日中は仕事をしているし、それは経済的な活動で、写真を撮ったり、誰かとご飯に行ったり、映画を見たり、本を読んだり、それらも大まかに括ってしまえば社会的活動と言えるだろう。

僕らの行動には全て「意味」があり、それらはほとんどが社会的・経済的な意味で埋め尽くされている。

でも、果てして生きがいとはそこにあるのだろうか?と思う時がある。

もちろん生きていくためには一人では生きていけないし、お金を稼がなければならないから経済活動や社会活動は必須であると思う。

しかしそれに全てを捧げることは、果たして「生きている」と言えるのだろうか。

僕の友人で外資でバリバリに働いている友人がいる。彼女のことは嫌味なく心底尊敬している友人の1人なのだが、帰省した時に彼からこんなことを言われたことがある。

「ただただ夕日をボーッと見て幸せだなぁって思えたのは、大学生までだったな。それからは仕事のことで頭がいっぱいだった。でも、中道の写真を見ていると、昔の何にもなかった自分を思い出すんだよね。何にもないと思っていたけど、多分あの時は全部あったんだと思う。」

こんな事もあった。

僕のところに遊びに来たいと言って、都会から日帰りで遊びに来た子がいた。
その子は自然に癒されたいと言ってうちに来ていた。

僕は普段の生活を見せながら、夕日が綺麗な時間に犬たちと外に散歩に連れ出した。
その日の夕日は言葉を失うほどの美しさで、僕は思わずボーッと立ち尽くして見惚れていた。

ふとその子に目をやると、スマホで写真をたくさん撮っていた。
5分くらい撮り続けて、そうすると肩を窄ませ寒がっていた。
明らかに寒くて帰りたそうな雰囲気を出していたので、そろそろ帰ろうかと伝え、家に戻った。

それ自体は何もおかしい事じゃない。

でもその子にとって、何もしていない時間が耐えられなかったんだなと後になって思った。

スマホで写真を撮った時点で、もうその子の意識は切れていた。

その後その子のSNSには感動したという言葉と共に写真がアップされてい
た。写真には多くのコメントがつく。

「すごい綺麗!日本じゃないみたい!」
「ここどこ?行ってみたい!」

確かに写真は素晴らしかった。感動したというその子の感情も本物だろう。

だけど何か大きなものが欠落しているように感じてしまった。

その子の心に残ったものは果てして本当に僕が見せた夕日だったのだろうか。それとも写真を撮ってそれをSNSにアップすることだったのだろうか。

その子にとってはスマホで写真を撮ること(社会的に意味のある活動)が終わったらただ何も起こらない夕日を眺めることができなかったのだと思った。
そこに意味を感じられなかったのだ。

自然を見て、そこに意味はない、意味のない世界をただ眺めて感じることができないのだなと思った。

それはその子が悪いのではなくて、おそらく僕を含めて現代人のほとんどがその素質を持っていると思う。

何か意味のあることをしなければ、きっと価値がないと無意識に思っているのだろう。

何もしていない=無価値

何かを生み出す=価値がある

と思い込んでしまっている気がする。

自然に目をやると、意味なんて必要がないことは理解できる。

目の前の木も、山も、鳥も、動物も、その存在自体にそもそも意味はないのだ。


その意味のない世界を、僕たちは無価値のものとして捉えてしまいがちだ。

でもそもそも価値とは社会的・経済的なものだけではないはずだ。

誰にも見られない、誰からも触れられない場所に咲いた花もきっと立派に咲き誇っただろう。

命が終わるその瞬間まで、輝き続けただろう。

その尊さを、僕たちは見失ってはいけないような気がする。

日常に余白を持つこと、意味のない世界に触れてみること。

それはそのまま経済的・社会的な価値には結びつかない。

だけれどそういう時間こそ今僕たちが最も大切にしなければいけない時なんだと思う。

何の意味も持たない世界を、ただ見つめ、感じること。

経済的・社会的な活動だけが全てではない。
目の前の草木一本に世界の全てがあるのだと信じたい。

その世界を肯定し続けたいと、強く願う。




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