『エリック・クラプトン : ライヴ・イン・サンディエゴ〜伝説の一夜』
友人と立川で昼のみをすることにしていたのだが、急遽友人がクラプトンのライブ映画をやっているので観ようという。まあクラプトンは嫌いじゃないし、この友人とは以前クラプトンとスティーブ・ウィンウッドのライブを武道館で観ているくらいだしということで、昼12時15分からの回を観ることにした。
しかしこんなに早い時間帯の回の映画を観るのは何年ぶり、いや何十年ぶりだろうか。映画館に入るとちょうど午前の回が終わったところで、人が出てくる。全部で10人くらいか。まあウィークデイだしね。クラプトンだし、ウィークデイだし、観客は全員シルバー世代だろうと思ったのだが、何人か若い人もいてちょっと驚いた。逆に我々が見る昼からの回はというと、こっちも全部合わせて10名くらいで、こっちは全員シルバー、おそらく平均年齢は65以上だと。まあそういうものだ。
このライブは2006年に行われたもので、クラプトンが若くてイキのいいデレク・トラックスとドイル・ブラムホールⅡ世を引き連れ、さらにゲストとしてクラプトンがファンであることを公言していたJ.J.ケールが参加したライブ。これはなんとなく聞いたことがある。まさに伝説のライブだ。
ゲストを除くほぼこのメンバーで2006年の11月~12月に来日していて、現在まででもクラプトンの最高ライブと言われている。また当時からギター小僧として、若手三大ギタリストとして名を馳せていたデレク・トラックスをツアーに参加させたことも有名で、この時期のライブではデレク・トラックスがクラプトンを食ったともよくいわれたところだった。
もう一人のギタリスト、ドイル・ブラムホールⅡ世は左ききの名手である。注意して映像を見てみると、この左ききギタリストは右きき用に張ってある弦のまま左で弾いている。ようするに右利きギターのダウンストロークはアップストロークになるというやつだ。これってギター始めた頃に、左利きだと弦を撒き直さなければならないので、右利きギターをそのまま使う場合にやるということでよくあるらしい。
大昔、日本のロックバンドでノラというグループがあって、ビートルズの「You Never Give Me Your Money」をまんまパクって「懐かしのメロディ」とかいう曲でデビューした。そのメンバーの一人が左利きで、右利きのギターをそのまま使って弾いていたのを覚えている。たしかラジオかなにかに出演したときにその話になって、実際に弾いたときに、不思議な音色だなと思ったとか。まあこれは余談も余談。
ドイル・ブラムホールⅡ世はクラプトンのバンドメンバーとしてはかなり長くつきあっていて、たしか2023年の来日でもメンバーに入っている。自分はというと2014年のテデスキ・トラックス・バンドのライブでこの人が加わって何曲一緒にやっているのを見ている。そのときもドイル・ブラムホールって誰だみたいな話になって、一緒に行った友人とたしかクラプトンのバンドにいるやつみたいは話をしてたような。
あとこの人は、一時期シェリル・クロウとつきあっていて、アルバム『100 Miles from Memphis』のプロデュースをしていたっけ。当時48歳のシェリルが6歳下のギタリストと付き合っているみたい情報が伝わってきたような。
ギター自体は右利きギターそのまま左持ちでということで、ちょっと不思議な音になるんだけど、割とオーソドックスな演奏。そしてこの人もデレク・トラックス同様指弾き。でもデレクの音が柔らかいのに対して、やや硬質な感じがする。さらにこの人がヴォーカルもできるのでクラプトン的には重宝しているのかもしれない。
クラプトンはピックを使うけど、デレクとドイルは指弾き。でも音の感じはだいぶ違う。そういうところがこのトリプルギターの持ち味になっている感じがした。
リズムセクションはというと、ベースがウィリー・ウィークス。この人もキャリアが長い。この人を最初に知ったのはたしかドゥービー・ブラザースあたりからか。たしか解散ツアーのときにもこの人がベースをやっていたと思う。
もうバックとしては本当にいろんな人とやっている。自分の記憶ではライブを二回観ている。一回はたしか矢沢永吉の武道館。何年頃かも定かではないが、ある時期の矢沢は解散したドウービーのメンバーを積極的に使っていた。もう一つは2011年にクラプトンとウィンウッドのライブ。これも武道館だったけど、あの時はドラムがスティーブ・ガッドだった。
今回のライブ映像でも、ウィリー・ウィークスのベースは本当に安定している。なにかもうバンドの音が締まるという感じだった。
そしてもう一人のリズム・セクション、ドラムはスティーブ・ジョーダン。この人も凄い。今回のライブである意味、一番凄みを感じたのはスティーブ・ジョーダンだったような。演奏自体はクラプトンが主役、仕切っているのだろうけど、個々の演奏だとなんとなくジョーダンの仕切りみたいにも思えてくる。多分、クラプトンが目で合図を送るとジョーダンがそれに合わせてコントールするみたいな雰囲気があった。いや凄かった。
そしてこの人というと思い出すのは、ジョン・メイヤーのトリオでのライブ。ギター:ジョン・メイヤー、ベース:ピノ・パラディーノ、そしてドラムのスティーブ・ジョーダンのスリーピースバンド。これはアルバムを持っているけど、YouTubeなどの映像を見ても素晴らしかった。やっぱり秀逸なバンドはドラムとベースが上手いと締まるし、あとはメインのギターの長短のソロが自由自在に発揮できる。
今回のライブでもドラム、ベース、そして二人のキーボード奏者が安定しているだけにトリプルのギターが本当に気持ちよく、そしてノリ良く演奏している。伝説の一夜と副題がついた名演奏はリズム・セクションの安定があってこそと思った。
ギターはというとクラプトンはボーカルもこなすだけに、ギタープレイの妙技は若いデレク・トラックスとブラムホールにまかせているような印象もあった。そしてブラムホールはバックメンバーとしての矜持みたいな感じで抑えた演奏をしている。それに対してデレク・トラックスはもう全開という風にスライド・ギターをがんがん鳴らす。ちょっと悪目立ちじゃないかと思うくらい。
でもそれも含めて、こいつ凄いだろうみたいな感じでクラプトンが引き立てている感じもする。デレク・トラックスの今があるのはどこかでクラプトンの引き立てたからみたいな感じかもしれない。というかトラックス自体は目立とうとかそういうのではなくて、とにかくギターを弾くのが好きで好きでたまらない、もうずっと弾いていたいみたいな感じでどんどんグルーヴしていく。しかも御大クラプトンと一緒にやるのが嬉しくてたまらないみたいな感じ。
「御大、俺まだまだいけます、いきますよ」
「おお、やったれ、やったれ」
そんな雰囲気が伝わってくるような感じ。
2006年のライブ映像、18年も前のことになる。当然、画質は悪いはずなんだが意外にキレイだった。たぶん最新の技術、コンピュータを使ってノイズ除去とかされているんだろうか。
しかし久々に映画館でライブ映像を観た。どのくらい久しぶりかというと、もともとライブを映画館で観るなんてことがほぼまったくないので、それこそジョージ・ハリソンのバングラデシュとかウッドストックとか、そういうレベルの大昔以来かもしれない。印象深く記憶に残る劇場でのライブ映画はというと、エルヴィスのオン・ステージだったりして。それって1970年じゃん、中学生の頃じゃんみたいなこと一人でボケ突っ込みしてみたり。
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