【ショートショート】神頼みの利子
齢八十八。
見事人生を全うした私が、今向かい合っているのは おそらく冥王というやつだ。
「特に犯した罪もないようだね」
その言葉にホッと胸を撫で下ろす。
「では精算に入ろう」
そういって取り出したのは長い巻物だった。 不思議そうな顔をする私をよそに、冥王はつらつらとそれを読み始めた。
「べっこう飴を1粒、大学受験合格、初恋の人と両想い…」
「ちょ、ちょっと待ってください、なんのことでしょうか」
「今まで君が叶えてもらったお願いだよ」
呆れ顔で続けた。
「せっかく叶えたのに、気づいてもらえないんじゃ神様も浮かばれないからね」
そう言ってニコッと笑った。
神様というのはひどいものだ。せっかく心残りなく死ねたというのに。
遠くから聞こえるお経のようなその声に、思いを伝えられなかった初恋の人の笑顔を思い浮かべては、祈った。
「もうこれ以上、叶った願いがありませんように…」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?