建築・都市からみたCyber-Physical Systemのアーキテクチャver.0
私は、建築・都市という、物理的世界(Physical System)に主軸をおいた世界が専門領域です。
サステナブル建築への取組が契機になって、今世紀初め頃から、いまでいうところのIoTや、BIMなどに手を染め始め、拡がりつつあるサイバー世界が、建築・都市や、そこで生活する人々を幸せにしていく可能性をもっていることを実感しています。
最近になり、digital city、smart cityという言葉が溢れていますが、コテコテの物理的世界出身の私としては、Cyber-Physical Systemとはいいながら、Cyber世界から見た観点が強すぎることが気になっていました。
そこで、物理的世界に身をおく生身の人間が幸せになっていくには、技術を運用していく目的や原則を明確にしていく必要があると考え、その原則を提案しました(人々に富が行き渡るCyber-physical世界のための四つの原則)。
そして、その原則が実現するには、
- ひと・社会
- 物理的世界(Physical System)
-サーバー世界(Physical System)
の間の三角関係のバランスを考慮した、建築・都市Cyber-Physicalシステムのアーキテクチャが大事だと思うようになりました。
そこで、アーキテクチャVersion 0 版を、下図のように描いてみました。
図 建築・都市のためのCyber-Physical System アーキテクチャのイメージ ver.0 may27 2020
このアーキテクチャは三層構造になっています。図の下のBuilt Environmentが建築・都市で、そこに身をおく人々とともに物理的世界(Physical System)の層を構成します。
一方、図の上の方のサービサーと描かれている層が、サイバー世界(Cyber System)の層を構成します。
その間の IoT-Hub、空間記述、API、Local Integratorと描かれている層は、物理的世界と、サイバー世界の橋渡しをしている層です。
IoT-Hubは、物理的世界に存在する複数種のThingsを、サイバー世界のサービサーが、プロトコルの相違を越えて、連携的に運用できるようにするための仕組(いいかえれば、IoTにおけるプライベート・クラウドを超えたinteroperabilityを実現する仕組)です。
また、空間記述とは、物理的世界における空間がどのように構成されているのかを、サービサーが用いるアプリケーション・ソフトウエアで扱えるデジタルデータに翻訳するための仕組です。別稿で述べた、3Dスキャナやセンサーなどによる既存建築からの情報の「逆向き転写」は、この図のBuilt Environmentから上向きに伸びている緑色の矢印にあたります。
物理的世界とサイバー世界を繋ぐ、この二つの仕組みを、当事者がいちいち作っていくというのは現実的ではありません。社会の誰もが使うインフラのようなもので、道路のように様々な人が共用すべきものです。こうしたはたらきをするものを、豊田啓介さんは、Common Groundとおっしゃっておられますが、言い得て妙だと思います。
私は、物理的世界とサイバー世界を繋ぐインフラを構築・運用する組織が、ここを通過するデータを覗けたりコピーできたりするのは具合が悪いと思います。郵便や電話がそうであるように、インフラの構築・運用組織が、データを覗けたりしないようにすることによって、別稿で説明した四原則(人々に富が行き渡るCyber-physical世界のための四つの原則)を満たせるCyber-physical systemを実現していけるのだと考えています。図は、ある意味では、四原則を実現するためのアーキテクチャといってよいかもしれません。
IoT-Hub、空間記述など、このアーキテクチャで描かれた事々についての詳しい説明、また、そもそも、このアーキテクチャと、提案されている都市OSとはどのように関連付けられるのかについての説明は、またあらためてさせていただきたいと思います。
第一稿 2020-06-10 記