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『冬季奥越サイクリング』 福井〜越前大野

琵琶湖の向こうに朝焼けを映した車窓は、長いトンネルを抜けると曇天に変わった。
北陸の冬だ、と思った。

唐突に、雪が見たくなった。
こうなったら雪のある場所に行くしかない。
土日を心待ちにして、福井に向かったのだった。

―――

福井駅で自転車を組み立て、走り出した。
福井駅近辺では雪は駐車場の端に汚く積まれているばかり。けれど、東の山々に向かうにつれて少しずつ山の白色の部分の割合が増えていった。
テンションも比例して上がっていく。
「そうそう、見たかったのはこれ!」

道のそばには一級河川の九頭竜川が流れている。
見るからに冷たそうな流れだった。
その流れに反して東に進んでいくと、山はどんどん白くなる。土をあらわにしていた田畑も、雪を纏いはじめた。
もうここは雪国。

あたりの雪は次第に増えていった。反比例するように雲が減る。サングラスを取ると、白い反射光が目に差さった。楽しくなってきた。

えちぜん鉄道勝永平寺線沿いに進む
「昔は『シモシヒ』だったけど、H音が脱落したのかな」とか考えてしまう。
九頭竜川の流れ

気温は穏やかにあたたかくなっていく。雪解けの水が、あちこちの屋根から落ちている。ポタポタと正確なリズムを刻むのが聞こえる。春の訪れさえ感じさせるような陽気な上天気だった。

勝山盆地から大野盆地へ入るタイミングで、九頭竜川の流れに別れを告げて、盆地の東側を登る県道26号線へ入った。

心配していた日陰の北側斜面でもほぼ凍結はなく、ドライ路面。ニョロニョロと道脇から融雪用の水が噴きでていた。塩カルの粒が辺りにまかれていて、それをパチパチ踏みながら進んでいく。

融雪用の水がニョロヨニョロ

いつの間にか、あたりが静かになっていた。自分の鼓動の音が聞こえるくらいの静寂だ。

つまらない言い方をすれば、雪が音を吸収しているからなのだろう。けれど、理由はそれだけではない気がする。

清冽な雪景色を前にして、楽しむことに没頭している。日々の生活を忘れ、心が静かになっている。そんな自分を映している気がする。ちょっとキザすぎるかもしれない。でも、楽しむことに没頭できる時間は幸せだと思う。

南六呂師からは盆地に向かって下った。
カーブを曲がった先に、荒島岳が聳えていた。日本百名山の一つに数えられる名峰・荒島岳。逆光になってもなお、圧倒的な存在感を湛えていた。「かっけー!」と思わずつぶやいてしまった。

荒島岳かっこいい…けど、逆光…!
大野盆地に向かって下る!
盆地の中まで下ると荒島岳は隠れてしまった

それにしてもいい天気だ。
福井をはじめとする日本海側の冬は、どこまでも鈍色の雲が空を覆うイメージがあった。今日は、びっくりしてしまうほど、空が青い。

不思議に思っていたので、道中のおばちゃんに聞いてみた。すると、「今日は特にいい天気ね」、と。やっぱりこの日は特別だったらしい。

盆地の北側の山々
他の方角より積雪量が多い

盆地の端をなぞるように南へ進むと、手前の山に遮られていた荒島岳が再び現れた。

やっぱりかっけー!

なぜだろう、これほどまでに雪景色に心惹かれるのは。

春も夏も秋も素晴らしいけれど、冬の雪景色はことさらに美しいと思うのは自分だけだろうか。発光するかのような眩い純白の魅力がどこから来るのかを、いつか知りたい、といつも思っている。

荒島岳を飽きるほど見て、再び走り出す。

気がつけば大野盆地の南の端まで来ていた。なので、盆地の南側をなぞるように西へ向かう。そして、やはり何度も振り返っては荒島岳を見てしまう。目を奪われる、という言葉の意味を今日ほど理解した日はなかったかもしれない、なんて思った。

広域農道からみる荒島岳
これは勝山盆地と大野盆地の西側にある経ヶ岳
標高は1625m
大野盆地の西側から見る荒島岳

最後の最後まで荒島岳に目を奪われながら、越前大野の市街地に到着。

城下町だった越前大野
ところどころに歴史を感じる

お腹が減った。
風が冷たい。寒い。
「なにか、あったかいもの…ラーメンが喰いたい! 」
となったので、北陸のラーメンチェーン「8番らーめん」に吸い込まれるように入った。初めて入ったのだけれど、調べてみると、どうやら北陸の人のソウルフード的な立ち位置のラーメンチェーン、らしい。

チャーシュー麺にバターまでトッピングして「俺は今、最強だ」と脳内の井之頭五郎がつぶやくのを感じる。熱々の太麺を思いっきりすする。「うめえ。」胃の形をなぞるように味噌の塩味とたっぷり野菜の甘みが染みた。

「ああ、いい。そう、そう。こういうのでいいんだよ。」

腹が満たされたあとは、越前大野駅から鈍行列車で4時間かけて京都まで帰った。

実際走ったルート


――追記メモ

この日は、荷物のほとんどをトレランザックに詰めて走ったけれど、案外走りやすくて◎。夏は背中が暑くなるから嫌だけど、冬なら全然あり。ただ、ザックの中で小分けしなきゃ小物を延々探す羽目になる(なった)ので、そのへんは反省。

撮影機材は、X-Pro2に新しく買ったVoigtlander ULTRON 27mm F2。MFだけどオーバーインフがないので、すごく撮影しやすい。けど、ときどき雑になってきっちり無限遠までピントリングを回し切るの忘れたので反省。あと、開放付近では周辺減光があるので、もう少し絞ってもよかったかな〜って思う写真が何枚かある。これも反省。

おしまい!

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